危機察知能力
「ピピピピ...ピピピピ...」
スマホの目覚ましの音で目が覚める。俺はその目覚ましを止め朝の準備の支度をする。朝ご飯を作り食べ、歯磨きをし、寝癖を直す。いたって普通の朝の支度だ。そして朝の支度をしながらニュースを見る。
ある程度支度が終わったところでスマホにメッセージが届く。秀一からだ。
「送ってもらったマンションの前に着いたけどここで本当にあってるんだよな?」
秀一が不思議がっているのも無理はない。それほどこのマンションは一高校生と不釣り合いなほど高級なのだ。幸知さんも空いているとは言ってたものの何もここまで高価な場所じゃなくてもよかったのに。そう考えてしまうことも多いが仕方ない。
俺は準備していたバッグを持ちエントランスに向かう。エントランスに向かうと見慣れた人が目に入る。
「おう!おはよう誠翔!お前寮じゃなくてマンションに住むっては聞いてたけどこんな豪華なマンションに住んでたんだな。何だか緊張しちまうよ」
「あぁおはよう。俺だって住んで数日たってるけど緊張してるよ」
秀一は緊張していると言っていたが俺と違ってこのマンションに釣り合っている。昔から住んでいたと言われいても違和感がない。やはり俺とは違うな。
「誠翔ちょっと失礼な事言うけど前家計が厳しいって言ってなかったか?大丈夫なのか?」
「知り合いのおかげでこのマンションに住めてるんだ。だから大丈夫。まさか俺もここまで高級なマンションだとは思わなかったけどな」
「いいな!今度中に入れてくれよ」
「いつでも来いよ。マンションが広すぎて逆に寂しんだよ」
「マジかよ!絶対行くぜ」
そうして秀一と一緒に高校へ向かう。
最初は周りに高校生らしき人は見当たらなかったが、高校に近づくにつれ段々と制服を着ている人が増えていく。ネクタイやリボンの色からして同級生だけじゃなく先輩もいることがうかがえる。朝は静かで穏やかだ。しかし問題もある。それは隣にいるこいつのせいだ。
「ねえ、あの新入生かっこよくない!」
「本当だ!朝から眼福!」
こいつは中学時代から先輩後輩問わずこれだ。しかしこいつは耳が付いてないんじゃないかってくらい気にしていない。こいつにとっては気にしてない事かもしれないが俺にとっては俺に向けられていない視線だとは言えやはり少し気になる。高校に近づくにつれ黄色い声も増える。そして黄色い声を聴いているうちに高校に何とかついた。
「じゃあまた後でな」
「おう、まぁ大丈夫だとは思うけど初日の授業頑張れよ」
そうして各々のクラスに分かれた。
「誠翔おはよう。今日から授業だな、だるいな」
朝練でもあったのだろう。シャワーでも浴びたのか少し石鹸のにおいがする真波が声をかけてくる。
「おはよう。朝練か?精が出るな」
「おう。汗臭いか?一応さっきシャワー浴びたんだけどな」
「いや、石鹸のいい匂いしかしないから大丈夫だぞ」
二人で雑談をしながら授業の準備をする。そして予鈴が鳴り紬先生が教室に入ってくる。
「皆さんおはようございます!今日は学校初日ですね!大変だとは思うけど頑張ってね」
先生が今日の予定や連絡事項を伝える。
「あと最後に、今日の最後の授業に委員会決めをするからね」
そうしてホームルームが終わり先生が教室を出ていく。
「委員会か…俺は部活あるから朝と放課後に活動しない委員会がいいな」
「俺はまぁ残った奴でいいや」
そう答えつつ心の中では一切目立たず静かにできそうな委員会にしようと心に決める。
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授業があると言っても初日は教科書や参考書の配布、レクリエーションなど簡単な内容だった。お昼休みに入る。
「腹減ったな~誠翔一緒に学食行こうぜ」
「良いよ。初めて行くから何があるか楽しみだな」
そうして真波と学食に決めたところで教室のドアが開く。
「誠翔!学食行こうぜ!」
まるで昨日の光景をリプレイしているかのように秀一が教室に入ってくる。
「と、いう事だけどこいつも一緒に良いか?」
「もちろん。初めまして俺の名前は三橋真波。よろしく」
「よろしく!おれは最上秀一」
「知ってるよ。新入生代表挨拶聞いてたし」
「じゃあお互いの自己紹介も終わったところだし行くか」
そうして。三人で食堂に向かう。
食堂に着くと既に人がたくさんいた。もう座れる席はないかと思ったが空きテーブルを見つけることが出来た。みんなの私物をそのテーブルに置き、各々食べたいものを買いに行く。おれはカレーライスを注文した。そして全員が席に着いたところで雑談を交えながら一緒に食べ始める。
「誠翔と秀一は部活入らないのか?もしまだ決まってないなら一緒にバスケやらないか?」
「せっかくの誘いで申し訳ないけど、俺はバイト始めるつもりだからどこの部活にも入らないな」
「俺は誠翔が入らないならいいや」
「そっか残念。ところで二人は高校に入る前から友達なのか?」
「あぁそうだよ。中学校の時席が近くてな。ちょうど今の俺と真波みたいな感じだったな」
「こいつ入学式の時困ってた俺を助けてくれてよ、それからの仲なんだ」
「困ってるって、ペン貸しただけだろ」
「そういえば誠翔委員会何にするか決めた?おんなじのに入ろうぜ」
「運とかもあるし無理だろ」
などと雑談をしていたところで女子に声をかけられる。クラスバッチを確認するとAクラスのバッチを付けていた。
「秀一君、もしよかったら席が足りなくて座る席無いから相席してもいいかな?」
「ああ勿論。どうぞ」
座る位置を少し寄せようとしたところで頭に電流が流れたように一つの考えが脳をめぐる。
今話しかけてきた女の子は一人。カレーを買おうとして来た時他の1年A組の人が座っていることも確認済み。なぜ他のA組の人しかも女子に話しかけず、秀一に声をかけたのかと考えると普通に考えれば秀一狙いと考えるのが普通だが俺たちも一緒に相席だと考えるとその線は薄い。しかも席が足りなくてという事は複数人来てただ本当に相席したいだけだろう。初日で全員と友達になれるほどコミュ強な秀一に声をかけるというのも納得だ。
しかし一番大切なのはここじゃなく、他に来る複数人だ。俺は視線を巡らせる。そしてこちらを伺っている女子グループを見つける。そして俺は気付いた。
そのメンバーの中に雲雀がいると。
俺はその事実に気付くと残っていたカレーを全てほおばり席を立つ。
「ごちそうさま。俺は行くよ」
「じゃあ俺も行くよ。一緒に教室まで行こうぜ。今日は楽しかったまた一緒に飯食おうぜ秀一」
「おうまたな!」
そうして俺は真波と共に食堂を後にする。
最近は初日から秀一によって危機的な状態が何度かあったが今回考えられるであろう最大の危機を回避できた。俺の中の危機察知能力が珍しく発動した。




