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安息の帰宅時間

 下校するために校舎の中を歩くと様々な声が聞こえてくる。主にその原因は隣にいる男のせいだろう。


「あの人、今日新入生代表挨拶してた人だよね?遠くから見た時も思ったけどやっぱりイケメン~」

「ちょっと声掛けてみよっかな!」

「やめときなよ、どうせ相手にされないから!第一、新入生代表挨拶してるって事は私たちとは違う世界の生き物なのよ」


 周りからは様々な声がたくさん聞こえる。中学時代から何度も見た光景だ。しかし、当の本人はまるで耳に入っていないかのような余裕のある振る舞いだ。やっぱり彼女たちが言っていたように住む世界の違う人間だ。


 そんなことを考えていたら生徒玄関に着いた。生徒玄関から出ると、周りには大人、そして今日入学したであろう同級生達であふれかえっていた。そしてしばらく歩いたあたりで、俺の母さんと秀一の両親が談笑しているのを発見した。そして親たちが俺たちが来た事に気付き近くに歩いてくる。


「誠翔入学おめでとう!秀一君も新入生代表挨拶かっこよかったわよ!」

「ありがとうございます。香織さんもお綺麗ですよ!」

「あら本当!嬉しいわ!」


 そうして秀一は母さんと談笑し始めた。自分の親と話さなくていいのか、そう考えていると秀一の両親が俺に話しかけてきた。相変わらずお母さんは20代と言われてもおかしくないくらいの容姿で、お父さんはどこかの俳優のようなカッコいい人だ。


「誠翔君、入学おめでとう。高校でも秀一と仲良くしてあげてね」

「何か困ったことがあったら相談してくれ。おじさんたちはいつでも力になるから」

「はい、ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」


 そうしてこちらも少し談笑し、お互いの談笑が終わったところで記念の写真撮影をした。


「じゃあ母さんたちはこれから帰るから、誠翔たちも気を付けて帰るのよ」

「うん分かってる。じゃあ母さんたちも気を付けて」


 そうして別れを言い、秀一と共に帰路に就いた。

「秀一の住んでるマンションより俺の住んでる寮の方が近いんだろ?じゃあ今日は俺のほうまで行こうぜ」

「あぁ、分かった。じゃあそうしッ・・・!」


 さっきまで母さんたちと談笑していて気を抜いていた。油断していたわけではない、しかし気を抜きすぎていた。俺の目に雲雀の両親が入ってきた。当たり前だ、雲雀がこの高校に入学したのなら雲雀の両親だって今ここにいてもおかしくない。幸いなことに早く気付いたため、あっちはこっちに気付いていない。


「どうした?なんかあったか?」


 不思議そうな顔をした秀一が俺に声をかけてくる。


「いや、何でもない。ただ入学式でちょっと疲れたのかめまいがしただけ。じゃあ行こうぜ」


 恐らく顔を見られたところで俺には気付かないだろう。しかし、不安な要素は少しでも潰しておく。俺は足早にそこから立ち去り校門を出た。


「そういえば誠翔、お前俺が新入生代表挨拶してた時よそ見してただろ」


 校門を出て少ししたあたりで秀一が俺に話しかけてくる。


「お前あんだけ大量にいる生徒の中からよく俺の事見つけられたな。しかも場所どころかよそ見したとこまでよくもまぁ気付くな。距離も結構あったと思うけど」

「友達なんだから気付くにきまってるだろ一瞬なんか焦ったようにも見えたけど」

「…近くに虫が来ただけだよ」

「そうか、それは災難だったな」


 こいつはそんなことまで気づくのか。こいつとポーカーとかしたら一瞬のすきも見逃さずにぼこぼこにされる未来しか見えない。こいつと心理戦のゲームをするのはやめておこう。


「そういえば秀一、お前どういう感じで新入生代表挨拶の依頼来た?」

「入学の申請した後に学校から家に電話来て依頼がきたんだよ」

「そうか、なんか二人でやるとか話こなかったか?」

「いや、特に来なかったぞ」

「そっか」


 二人でやるという話を聞かなかったってことはやはり雲雀が満点だという事もただの噂なのだろうか?いや、どちらにしろAクラスに入れているだけで今の俺とはレベルが違う。


「そういえば今日のレクリエーションのクイズ面白かったな~またあったらいいな~」

「あぁ、あれな俺のクラスは結構苦戦してたけど流石はA組、全問正解だったな」

「すげぇだろ!でも俺は簡単だったけど意外とクラスの皆も苦戦してたぞ?半分もわかってないやつが殆どだったし」

「そうなのか、俺も簡単に感じたけどたまたま運が良かっただけだな」

「そんな事ないって。そういえばもう一人全問すぐ答えが分かった奴いたぞ?名前は()()()()って人」


 まさかこんなところでまた雲雀の名前を聞くことになるなるとは。まぁ俺が解けたんだから雲雀も解けて当たり前だろう。別にそこまで驚く事でもない。その後は無難な話を始める。


「誠翔は部活動する?」

「俺はバイトするつもりだし入んないよ。それにどうせ部活は言ってもレギュラーはお前みたいな化け物でもなけりゃスポーツ推薦組だけだよ」

「え~勿体ない。お前だって何やってもレギュラー取れるぞ。まぁでも仕方ない誠翔がやんないなら俺もやめよ~、俺もバイトでもするかな~」


 俺からしてみれば秀一の方が勿体ない。秀一ならどの部活に入っても1軍やレギュラーはおろか速攻スタメンに選ばれるだろう。


 そうこうしているうちに無事天稟学園の寮に到着することが出来た。


「そういえば誠翔、高校生になったスマホ買ったんだろ?連絡先交換しようぜ!」

「良いよちょっと待ってて」


 そういって俺はポケットから新品のスマホを取り出し、メッセージアプリで連絡先を交換する。


「せっかくだし俺の部屋あがってくか?ジュースとかお菓子ぐらいなら出せるぞ?」

「いや遠慮しとくよ。今日から受験期にできなかったたまってたゲームを消化するつもりだから」

「そっか分かった。じゃあ気を付けて」


 そう言うと秀一は寮のエントランスをくぐり抜けエレベーターに乗っていった。


 その後マンションにも無事に到着し、部屋着に着替えた。やはり部屋着は楽で安心する。やはりこのマンションはとても広く一人では寂しいぐらいだ。そうして俺は元々楽しみにしていたプラス寂しさを紛らわせるためにゲーム機に電源を付けゲームをし始める。そこから時々休憩したり、夜ご飯、お風呂などを入りだいたい一日中ゲームをしながら過ごす。そろそろ寝ようと決め、寝床に着いたところで俺は秀一から連絡が来ていた事に気付きメッセージを開く


「今日寮まで送ってくれたから明日は俺が朝迎えに行くよ。悪いけどマンションの名前教えてくれない?」


 相変わらず律儀な奴だなと思いメッセージにマンションの名前を送りスマホを閉じる。


 ベットに寝転び今日一日の事を振り返る。今日一日でいろいろなことがあった。もう再会することはなかった雲雀を見つけ、静かな日々を過ごそうとしていた俺の前に時間の問題だったろうが元気に秀一が近寄ってきた。


 様々な問題が出てきてしまったが、過去を嘆いても仕方がない。少なくとも今の状況は俺の選べる中で最善の手だったのだから。そう頭の中を整理し静かに眠りにつく。

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