灰色の終わり、そしてこれから
試験が終わり、家に帰った。家族の皆は元気のない俺を見て何かあったことを察しているのか試験について一言も聞いてくることはなかった。
俺は今日の事を振り振り返る。試験ではいつも通りの実力を出せれば解くことのできた問題も解けず、振り返るだけでも間違えていると分かるケアレスミスもあった。しかしあのまともではない状況で試験を終えられたことは幸運と言えるだろう。
そして同時にいつも通りの実力を出せなかった原因も振り返る。それは、やっぱり最上秀一の存在だろう。このようなことを言うとまるで俺が秀一の事が嫌いだと勘違いされそうだが、そんなことはなく、遊ぶ回数は少なくなったものの、今でも仲のいい親友だと思っている。しかし心が満たされたのは、絶対にAクラスに入らなくてはいけないという勝たなければいけない状況と秀一に勝てないという事を悟り始め焦っていた状況を重ねてしまったからだろう。あった最初の時は何であの受験会場にいたのか理解できなかったが、秀一もまたAクラスを志望していたと考えてみれば妥当だろう。
試験の結果は、結果の通知が来るまでもなく分かる。確実にAクラスには入学できない。
「これで決まったな」
Aクラスに入れないと決まった今、改めて中学校卒業後働き始めよう。すぐにバレるだろうけど家族の皆には気付かれるまでこのことは内緒にしておこう。
それからまたいつも通り学校に通う日々に戻った。
学校で再開秀一と再会した時、試験について話した。
「試験の入試ちょっと難しかったな~。でもまぁ俺と誠翔なら余裕だろ」
「俺はいつも通りの力を出せなかったし、仮に出せてたとしても全然できてなかったと思うよ」
「まじかよ大丈夫かよ?まぁ仮にいつも通りの実力を出せてなかったとしても誠翔なら全然余裕だよ」
などと気さくな感じで行ってくる。こいつはよく俺の学力や運動能力を過剰なほど褒めてくる。俺なんてただの凡人だ。秀一は天才で化け物だが、どうやら見る目だけは持ち合わせていなかったようだ。
「とりあえず受験終了祝いにどっか行こうぜ!ファミレスとかカラオケ行こ!」
「いや、俺は今日はパス。あとお前はまだ公立の受検残ってるだろ。帰って勉強しろ」
「そっかじゃあまた今度な!じゃあな」
「ああ、また明日」
そうして秀一と別れた後、俺は最近の日課の中卒でも雇ってくれそうな会社探しを始めた。
数日後、学校から家に帰ったある日母さんが慌てたようにドタバタと足を音を立て、手に何やら茶色の封筒を持ち俺のもとに駆け寄ってきた。
「誠翔!合否通知来たよ!開けよ開けよ!」
忘れていたがどうやら天稟学園の合格通知が来ていたらしい。
「そっか...合否通知来たのか、じゃあ開けよっか」
結果は分かり切っているためまるでドキドキしない。リビングに移動し、流れ作業かのように封筒を開けた。
天稟学園高等学校合否通知
合格おめでとうございます。あなたは見事合格いたしました。入学手続書類を確認し入学申請をしてください。
結果は合格だった。しかしどこにもAクラスにいついては書かれていなかった。これはそういう事だろう。
「やったぁ!合格してるじゃない!受験から帰って来た時すごく落ち込んでたからもしかしたらって思ってたけど無事の合格してるじゃない!おめでとう!」
母さんは俺よりも合格していることに喜んでいる。しかし分かり切っていたことだがAクラスに配属されないと分かった今、この合格通知はただの紙切れとなっている。ただここで喜ばないと母さんに怪しまれる。
「ありがとう。母さんたちのサポートのおかげだよ」
次の日秀一の合格通知を見せてもらった。そこには合格通知と共にAクラスの配属と奨学金などの書類、入寮の案内など更に封入されているのを確認し確実にAクラスから落ちたことを認識した。また秀一にAクラスから落ちたことを話すと、何かの間違えだと俺以上に悔しがっていた。
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数週間が経過し、卒業式が目前に迫ってきた。家に帰ると玄関に見知らぬ靴が脱がれてあった。
リビングに移動すると、そこにはしわ一つなくピシっとしたスーツに包まれた男前な男性と母さんが談笑していた。男性は俺に気付くと声をかけてきた。
「やぁ誠翔君久しぶりって言っても小さいころだから覚えてないよね。私の名前は、いや堅苦しいのは無しにしよう。俺の名前は二宮幸知気安く下の名前で呼んでくれ。今日は君に用があって来たんだ」
そういうと幸知さんは誰だろうと考えていたり、自分に何の用があるのかを考えていることを見透かしたかのように言葉を続けた。
「俺は君のお父さんと昔からの知り合いでね、そして今日君に会いに来たのは君のお母さんに君を説得するように頼まれてきたんだ」
その言葉を最初一瞬理解できなかったが、すぐに理解した。この人は俺に高校に行くように説得しに来たのだ。やっぱり母さんには俺の考えがばれていたようだ。
「申し訳ございませんが、俺は何を言われようと高校に行きません」
「その合理的で、時には自分を犠牲にしてまで人を手助けしようとするところ...君のお父さんにそっくりだ」
そういうと幸知さんは昔話を始めた。
「実は俺、会社を起業してるんだ。今でさえそこそこの会社になったけど最初は何度も倒産しそうになったり、時には死ぬ以外の道しかないほど追い詰められた時期もあった。でもそのたびに君のお父さん、慎二は支えてくれたり元気づけてくれてくれた。時には何も言わず大金を貸してくれた時もあった。」
まるで憧れのヒーローを語るかのように話を続けた。
「会社も軌道に乗ってきたある日、俺は彼に聞いたんだ。何で何度も助けてくれるんだって。そしたら彼はこう言ったよ」
「困ってる人がいるなら手を差し伸べなきゃ。ましてや友達ならなおさらだよ」
「俺はその時から何があっても彼が困ることがあったら助けるって決めたんだよ。お金を貸してくれたお礼に多めにお金を返そうとしたけど彼は貸した分しか受け取ってくれなかったけどね。絶対恩返しする、そう決めていたけど恩返しする前に彼はこの世を去ってしまった。けど理由を聞いたら彼らしくて納得したよ。」
幸知さんの話を聞き終えそして俺は本題を切り出した。
「今でも父の事を好いていてくれてとても嬉しいです。そろそろ本題を伺ってもいいですか?」
「おっとそうだったね、単刀直入に言うよ、君の心配している金銭的問題、俺が肩代わりするよ」
何を言っているか理解できなかった。
「本気ですか?僕は天稟学園しか合格をもらっていないので、ただの高校とは程遠いお金がかかりますよ?学費だけじゃない、住む寮の家賃もそうだ。様々なことでお金がかかるんですよ?」
「そんなことは分かっているよ。学費どころか生活費もすべて負担するし、住む場所なら寮なんかに入らずに俺の所有してるマンションに入ればいいよ。言っているだろ、俺は君のお父さんに恩返ししたかったって、こんな絶好な機会はまたとないんだ。人助けすると思って頼むよ」
人助け、この人はどうすれば僕がうなずくのか分かっている。
「だけど家にお金を入れなくちゃ」
「誠翔、あんたまだそんなこと心配してたの?幸知さんがもろもろ負担してくれる今そんな心配は一ミリもないのよ」
「香織さんの通りだ。あともしも家のお金の心配があるなら、君が高校や大学を卒業して企業に就職したり、公務員になった方がたくさん入れることが出来るよ」
「でもやっぱり大金を借りて幸知さんに負担をかけるわけには...」
「君は本当に慎二に似ているねそう言われることは分かっていたし、慎二も納得しなかったと思う。だからこれからの奨学金はあげるんじゃなく貸す、そういうことにしよう。あっ、マンションに関しては本当に気にしなくていいよ、空き部屋がたくさんありすぎて困ってるぐらいだから」
まるで夢を見ているかのような怒涛の展開だった。しかしその提案を手放すにはあまりにももったいなかった。
「幸知さん、ありがとうございます。この恩はいつか絶対返します」
「だからこれは俺の恩返しなんだって」
そう幸知さんは笑いながら答えた。
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上手く誠翔君を説得し、誠翔君は部屋に戻った。香織さんから入れてもらったお茶をすすり、今日うまく説得出来て良かったとほっと息をついた。
「幸知さん本当にありがとうね」
「いえいえ気にしないでください。逆に慎二に恩返しが出来る絶好の機会をいただきありがとうございます。前にこの家にお金を入れようとしたらその時は香織さんに断られちゃいましたからね。」
「そういえば、幸知さん最近会社の具合はどうですか?」
「海外進出も無事に成功し続けてますし、順調ですよ。そういえば香織さんもしよかったら誠翔君が高校か大学を卒業する時うちの会社に就職するように説得してくれませんか?」
そういうと香織さんは目を見開き驚いたような声で言葉を返してきた。
「えぇ!でも幸知さんの会社って少数精鋭で倍率がありえないほど高くて、東大京大はおろか、海外のトップクラスの大学でも普通に落ちる事で有名じゃない?初任給もあり得ないほど高くて、それこそこれから誠翔が通う学校の学費を払ってもおつりが出るくらい高いって噂で。いくら旦那に恩があるからってそこまで面倒見なくてもいいのよ」
「勘違いしないでください。別にこれは慎二に恩があるから言ってるんじゃないです。それに慎二はそんな事望まない。実は今日、誠翔君がどんな人なのかの品定めにも来たんだ。言ったらうちの会社の最終面接だ。結果は合格どころかうちがどんな手を使っても欲しい人材だった。今のうちから手を打っておかなくちゃ」
今日彼を見て俺が勇逸敵わないと思ってる人間である慎二の影を見た。影どころかいつか誠翔君は慎二を超えるだろう。今日誠翔君と関係を持てたことは、高校の費用の10倍を払ってもおつりがくるほどの価値があるだろう。
「さて、じゃあこれからお金やマンションの準備をしなくちゃな」
そういうと俺はスマホから秘書に電話し、これからの事を指示した。
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学校で秀一に学校に進学できるようになったことを話すと秀一はもしかしたら俺以上に喜んだ。そうして引っ越しの準備をしながら、残りの中学生生活を過ごした。卒業式も無事に終了し、俺は天稟学園近くの幸知さん所有のマンションに引っ越した。初めてこのマンションを訪れた時、来る場所を間違えたのかと思うぐらい高級だった。ここに住むことに気が引けたが、幸知さんは相変わらず気の抜けたような声で「良いの良いの」と返してきた。
4月上旬、今日は天稟学園の入学式。俺はこれからの勉学などを頑張ることを決意し、これからの高校生活に対しての気持ちを引き締めた。
これから秀一や雲雀、様々なことに振り回されることも知らずに
次回からついに高校生編スタートです。ここまで読んでくれて本当にありがとうございます!