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普通の日常

 自分が普通の人間と自覚したその日から俺は自身の行動を改めた。初めに秀一と行動することが少なくなった。これは遊びに誘われるようになったり、一緒に帰宅しようと提案されても適当に理由を付け意図的に避けるようになったからだ。次に秀一に勝とうとすることをやめたことだ。凡人はいくら努力しても天才には勝てない。勝とうとするだけ疲れるだけだと学んだからだ。勝とうとしてもただ自分が恥をかくだけだから、一緒に行動する時は積極的に秀一をサポートしスポットライトを当てさせることを意識した。実際、普段の日常だったり、球技大会でバスケなんかをやった時は積極的にパスを回し秀一を目立たせた。最後に人助けをするとき声をかけなくなったことだ。クラスの皆は助けてくれるのならだれでもいいんじゃなく秀一に助けてもらいたい。その事実を知ってからは、どうしても秀一の手が回らそうな時や気付いてなさそうな時に俺が協力したとバレないように陰ながら協力するようになった。


 そんな生活を続けているとあっという間に1年が経過した。2年生に進級する時幸いにも秀一とは別のクラスになった。もともと活発だった性格は2年生になるころには真逆の静かな性格になっていた。2年生になってからは友達の数も少なかったが、気の合う友達とだけ絡み1年生とはまた違う感じだがそれはそれで心地の良い日々を過ごせた。しかし何故か不思議なことにクラスも変わり、雰囲気も変わった俺に何故か秀一はよく会いに俺のクラスを訪れ、遊びに誘い続けた。そんな俺は貴重な秀一の時間を奪うわけにはいかず、すべてとは言わないが、そこそこの数の誘いを断り続けた。


 性格が変わってすぐは母さんやじいちゃんばあちゃんにに学校で何かあったのか心配されたこともあったが、特に何もないと説得もした。心配されないように、凡人でもとれる範囲の点数はテストで取り続けたし、家に友達を誘ったり、たまにだが秀一と何かあったと思わせないように秀一を家に呼んでいた時もあった。


 そんな2年生も普通に心地いい日々を過ごし、普通の青春を謳歌した。


 そして3年生にも無事に進級し、3年生に進級してからも特に2年生のときとは変わらない日々を過ごしていた。


 三年生になって数ヵ月が経ったころ、普段通り晩ご飯を食べている時母さんに何気ない雰囲気で進学先をどこにするのか聞かれた。


「誠翔ももう中学校3年生だし進学先決めなきゃね~。誠翔の成績ならどこを志望しても大丈夫だと思うけど、どこか行きたい高校でも決まってるの?」

「あ~、今この家働いてるの母さんだけだしこれ以上母さんだけに負担かけたくないから中学校卒業したらすぐにどこかしらに就職だったりバイトしたりして家にお金入れるつもりだから進学するつもりは特にないよ」


 自分的には、ずっと前から決めていて普通に返した言葉だった。しかし母さんはその言葉を聞き信じられないものを見ているかのように目を見開き俺に言葉を返した。


「あんた何言ってんの⁉そんな心配中学生が気にする事じゃないのよ。もしも親孝行したいならどこでもいいから高校に通いなさい!」


 じいちゃんとばあちゃんも同じようなことを返していた。俺の家族はみんな優しいからこう返されることは予想通りだった。しかし俺の家には高校に通えるほどの余裕はない。適当に流し続け中学校を卒業し働くことを決めていた。


 次の日の学校終わりの放課後、担任の矢代先生に呼び止められ生徒指導室に連れて行かされた。


「三葉、お前が中学校を卒業次第、高校に進学せず就職するつもりだという事をお前のお母さまから伺った。そしてお前が優しいから適当に流し続け、このままでは高校に進学しなさそうだから何とか説得してほしいという言葉も預かった」


 少し驚いたが、すぐに納得した。やはり母さんに隠し事は無理だと理解した。おそらく秀一と何かあったとや事など様々なたくさんの悩みも母さんは分かっていたのだろう。そんなことを考えていると矢代先生は言葉を続けた。


「本来この問題は親子同士で解決すべきの問題だ。しかし俺自身もお前のような特別な人間をここで腐らせたくはない。」


 その言葉を聞き俺はすぐに言葉を返した。


「先生...お言葉ですが俺は特別でも何でもないただの凡人です。本当の特別な存在は最上秀一、彼のような人の事を指すのです」

「確かにお前は勉学や運動に関しては最上に敵わないかもしれない、でもそれは最上と比較しているだけであってお前も十分化け物で天才の位置に属している。しかもお前には最上より圧倒的に優れている...いや、今のお前に行っても響かないな、忘れてくれ」


 矢代先生が一瞬不可解なことを言っていたが、特に深い意味はないだろうと聞き流す。


「お前は家のお金について不安があるのだろ?だったらここを受験しろ」


 そうして先生は俺に一枚の高校のパンフレットを手渡す。


「私立天稟学園。ここのAクラスを狙え。全国からAクラスを目指し受験するものも多く、Aクラスとそれ以外では天と地との差もあり、Aクラスに落ちたらこの学園を蹴る者もいるほど人気も高く、倍率も高い。茨の道にもなるだろう。もし入試で上位の成績を取りこのAクラスに配属され入学したのなら、学費全額免除に家賃0円の寮、毎月給付型の奨学金も降りるし高校卒業後の良い大学も保証されているここを受けろ。」


 その言葉を聞き少し光が見えた。家族を支えるため高校にはいかないつもりだったが、同時に家族の願いを裏切ることになっていた。そのことにずっと喉に魚の小骨が刺さっているような違和感があった。しかしその違和感を払拭でき、同時に奨学金で家族にお金を入れることが出来る。


「先生...ありがとうございます。俺頑張ります」

「俺は一つの道を示しただけだ。その道に進むかどうかはお前次第だ」


 目標が決まった今、俺はその目標に向かって勉強し続けた。家族の皆も一生懸命サポートをしてくれた。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 肌寒くなり中学校生活も残り数カ月を迎えた。そして今日俺は天稟学園の高校入試を受ける。大手の私立高校という事もあり、大きな都会の中の中心にその高校は立っていた。由緒正しく、昔ながらの歴史があるはずなのについ最近建設されたかのような新しくお洒落な校舎が建っていた。


 俺は心を落ち着かせ受験会場に向かい、受験票に書かれている番号と席を照らし合わせ席に着いた。そして、ギリギリまで単語を頭に詰め込もうと単語帳を開いた時近くから声をかけられた。そこには本来ここには存在しないはずの人間がいた。


 ()()()()だった。


「よう誠翔!ついに今日だな!いや~こんな都会で知らない人ばっかりだと緊張するな!あっ!俺がここにいて驚いただろ!受験当日まで秘密にしてたんだ~」


 秀一が何か言っているが頭には全く入ってこない。こいつは近くの高校を受験すると言っていたはずだ。何故ここにいる?いやこの際そんなことはどうでもいい、少なくとも今こいつがここを受験することが決まった今、貴重なAクラスの枠が一つつぶれたことになる。ただでさえ天才の集まりとこれから勝負するってのに。今になってきて自分が凡人だと気付かされてきてすぐの事を思い出してきた。


 頭の中がごちゃごちゃして、動悸と吐き気が止まらなかった。


「おっ、そろそろ入試試験始まるな、お互いベストを尽くそうぜ!じゃあまたあとで」


 何も知らない秀一はただいつも通りの感じで自分の席に戻っていった。


 入試中にも動悸や吐き気は止まらずいつもの十分の一の実力も出せなかったと思う。手ごたえは言わずもがな皆無だった。

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