Side Story 副生徒会長
「お疲れ様でした。それでは失礼します」
「雲雀ちゃんお疲れ~。しっかり休んでね!」
会議の報告も終わり会長との話も終わった雲雀ちゃんが生徒会室を出ていく。
「会長、いくら誠翔君が欲しかったからっていきなり雲雀ちゃんをあんなきつい仕事任せなくてもよかったんじゃないですか~?」
「確かに三葉君が欲しかったから多少強引だったところもあるのは認めるけど私はさっきも言った通り私は空先さん一人でも任せられると判断したから送り出したのよ」
「本当ですか~?会長たまに悪魔みたいに厳しい事するからな~」
「あら、心外ね水無月さん。第一今回の案は―――」
その時生徒会室のドアが開いた。
「う~す、お疲れ様~」
そこからは生徒会室では久しぶりに見る男性が入ってきた。特徴はハッキリ言って全体的に平凡か、それよりも少し身長が高くてイケメンというあまり特徴のない人間だった。
しかしその印象は全くの誤りだ。彼と交流のある人、特に生徒会のメンバーなんかは間違った認識であると何度も実感させられてきた。
「お疲れ様で~す太陽先輩!」
「お、雫じゃん。お疲れ。今日雫って生徒会の仕事あったっけ?」
「生徒会室って学校の休憩所としてちょうどいいんですよね~。生徒会メンバーしかいないし先生だってあんまり来ないですし。ジュースとかお菓子もありますしね!」
「そっか。それは良かった」
「珍しいですね?太陽先輩が会長に連れられてくるんじゃなく自分から生徒会室に来るなんて」
「たまには自分から顔見せなきゃなって。あと今日は言いたいことがあってな」
「言いたいこと?あぁまたあれですか」
「またとか言うな!」
そうすると太陽先輩は会長の前まで歩き真剣に目を合わせる。そして会長の座っているテーブルの前に自分の顔写真と生徒会副会長と印刷されたカードキーを置く。そして右膝左膝と順番に地面に膝を立て正座し、手のひらを地面につけ、額も地につけて伏せる。もう何度も見たがやっぱり美しい土下座だ。
「美琴…いや!生徒会長!今日限りで生徒会を辞めさせてください!」
「却下。ところでせっかく生徒会室に来たのならちょっと手伝って行って」
会長はいつも通り一考もせずに太陽先輩の願いを一蹴する。そしてすぐに何事もなかったかのように違う話をし始める。うん、いつも通り何度も見た光景だ。
泰知は太陽先輩の近くまで歩み寄りいつも通り話しかける。
「副会長がサボってた間に溜まった仕事がたくさんあるんですから早く手伝ってください」
「泰知!お前はいっつもそう事務的だよな!?もうちょっと可哀そうな先輩を慰めるって考えはないのか!?後俺を副会長って呼ぶなって何回も言ってるだろ!副会長は前から言ってる通り俺なんかより猛の方が適任なんだよ!第一俺なんか生徒会なんかにいてもいなくてもどうでもいいだろ!俺なんかいなくても生徒会は回るんだから!」
「なに馬鹿なこと言ってるんですか。副会長がいなかったら誰が会長が暴走しそうになった時制止することが出来るんですか。あと今までの副会長の貢献からしたら私の方がいてもいなくてもどうでも良いですよ」
「俺は馬鹿じゃない!お前らAクラスの頭が良すぎるだけだ!後俺が出来るのはみんなのサポートだけで俺1人だけじゃミジンコみたいなもんだよ」
「そういう的外れな事を言っているところを言ってるんですよ。先輩せっかく頭が切れるのにそういうところ馬鹿ですよね」
泰知は束になったプリントとペンを太陽先輩に押し付ける。こういったところもいつも通りだ。
太陽先輩は会長に食って掛かる。
「美琴、今回の誠翔君、秀一君、雲雀さんを生徒会に入れることに尽力したらやめていいって言ってたよな!だから俺は作戦の一部を考案したりわざわざ今日放課後誠翔君が生徒会に入るように焚きつけたり秀一君が生徒会議室の前に足を運ぶようにバレないように誘導したんだぞ!」
「辞めていいなんて一言も言ってないわよ。私がそんな愚かな事言うわけないじゃない。私はしばらくあなたの仕事を代わりに引き受けるって言いったの」
「あと卓球の時だって俺はわざわざ言われたからやりたくもないのに本気出して誠翔君の調査をしたんだぞ!」
「そうね~確かにやってもらったわね。でもその後のバスケで本領を見せてくれたから無駄だったかも。でもまぁいいじゃないクラスで優勝できたんだし。どっちにしろクラスメイトに頼まれて他の種目でも尽力してたんだから最後は卓球でも何でも真面目にやってたでしょ」
「じゃあ誠翔君が本気出さなかったらどうしてたんだ!」
「元々違うスジから三葉君のことは聞いてたの。だからどっちにしろこうなってたわ」
「第一、さっきに泰知も言ったけど俺は他の生徒会メンバーに比べたら学力低いしいなくて良いだろ。入学式の時やったレクリエーションって偽ってるテストだって点数低かったし」
「私あれ嫌いなのよねあんなのちょっとした指標になるだけで中にはあなたみたいにちゃんと評価されない場合もあるし。第一私のクラスだって良い点数取れてないわよ」
「それは生徒会長になった時のために誰が良い人材かを見極めるために参加しなかったって言ってたじゃないか!結局答えは分かってたんだろ!」
「当たり前じゃない。なんであんな簡単な問題で間違わなきゃならないのよ」
「ほら〜!やっぱ俺いらないじゃん!お前1人で十分だろ!」
「だからあんなのの点数が低かったとしても、あなたの能力の高い低いは関係ないの」
さっきから見慣れた光景が多かったが、太陽先輩が生徒会を辞めると言い、会長がそれを軽く受け流す。この光景がやはり一番見慣れたいつもの光景だった。
「第一何が不満なのよ?生徒会長副会長なんてどこの大学にでもいけるのよ?」
「別に俺が生徒会であろうがなかろうが結局俺に勉強教えて高偏差値の大学に連れて行く気だろ!」
「大学を偏差値で選んじゃいけないわ!学びたいところに行くべき。でもあなたほどの才能がある人間が行って為になりそうな大学がたまたま高偏差値だっただけ」
「お前は昔からそうだ!別に俺はこの高校来なくても良かったのに無理矢理受験させるし、受かった後私立なんて行く学費なんてないって言ったら家族絡みで仲良いからか分からんけどお前の両親が未来への投資だとか言ってお金払うし!」
「当たり前じゃない。誰だってあなたに投資するに決まってるわ」
おそらく太陽先輩は昔から会長に振り回されて尻に敷かれて生きてきたのだろう。会話の端々から伝わってくる。
会長は一呼吸し間を起き、太陽先輩の目を真っ直ぐと見て答える。
「あなたが必要な理由を言うのも何回目になるかしら?いえ、そんなのどうでもいい、何度でも言うわ。太陽、私にはあなたが必要。他の誰がいなくなってもあなただけは離さない。ただそれだけ」
まるで愛の告白だ。その言葉を聞き太陽先輩が顔を赤くする。何度聞いてもこちらまで恥ずかしくなってしまう。
しかし当の会長は顔色ひとつ変えない。
「はいはい、分かったよ。生徒会辞めれないってことなら今日はもう帰るよ」
そうして太陽先輩は持っていた資料を机に置き生徒会室を出て行った。
「会長相変わらず太陽先輩の事大好きですよね」
「当たり前じゃない。大好きだから小さな時から今の今までずっと一緒にいるのよ。勿論これからもね」
「ずっと思ってましたけど会長結構重いですね」
「重くて結構。最悪太陽が生徒会から逃げたとしても太陽という人間だけは絶対に逃さないわ」
本人に聞かせてあげれば良いのに。いや、おそらく昔からこれ以上の事を言われ続けてきたのだろう。
会長はそのリーダー性とファッション誌に載ってそうなモデル並み、いやそれ以外の容姿相まって校内のみならず他校や大学生などの年上などからの告白が後を絶たなかった。しかし一度もOKはしなかった。おそらく恋愛に関しては太陽先輩以外一ミリも興味がないのだろう。いやミリまで届いているのかすら分からない。
「会長も鬼ですよね。ちょっとぐらいムチだけじゃなくて飴もあげればいいのに」
「ちょっとでも隙を見せればその隙を突かれてすぐ逃げられちゃうわよ」
「まぁそうかも知れませんね」
「知れないじゃなくてそうなの。あなた達も知ってる通り太陽は別にそこまで学力が高いわけでもないし、運動神経が高いわけでもない。でもポーカーとかギャンブルとかそう言う腹の探り合いや心理戦とかになると私を含めて誰も勝てないわ。だから先にその勝負を潰しておく必要があるの。後、やるって決めたら自分が有利になる為なら犯罪やルール違反以外ならなんでもやるところとか悪知恵が働いたらずる賢い所とかもね。まぁ別にそういうふうに頭が切れるってだけで性格は良くて優しいから悪知恵を働いて悪事をしないって点が救いね」
「知ってますよ。どんだけ予算会議とかクレーム対応とかの時にお世話になったと思ってるんですか。でも太陽先輩あんな人畜無害そうな顔してスポーツで例えたら決してルール違反じゃないけど紳士ルール的に誰もやらないような厄介なことを平気でやるじゃないですか」
「まぁ無害ではあるからセーフよ」
話しながら会長は机に叩きつけられたプリントをまとめ始める。泰知がそれを見て会長のそばによる。
「会長、私がそのプリントやりますよ。もう仕事も終わってますし」
「いや、大丈夫。本当にまとめるだけだから」
「本当にまとまるだけ?」
私も駆け寄って見てみる。プリントを見ると白紙だったはずのプリントが全て完成していた。
「…泰知からプリントを貰った後あのやり取りをしながら仕事をしてたって事です…よね?」
「知り合ってしばらく経ちますが副会長には驚かされてばかりですね。マジシャンですかあの人。こんなにすぐ終わるならちゃんと来て仕事すれば良いのに」
本当にその通りだ。これでなぜAクラスではないのかが分からない。本当に謎なのは手を抜いてるからAクラスではないなどではなく、本当に学力がそこまで高くないと言う事だ。勿論進学校である天稟学園に入学しているのだから偏差値などで見たら高い方ではあるがそれでも言ったら平均より少し高いぐらいだ。運動神経だって別に良いわけじゃない、普通だ。
「そう言えば会長。さっきなんて言いかけてたんですか?」
「あぁ、さっきのね。今回の案はほとんど太陽が描いたシナリオって事よ。生徒会のスカウトは言ったら心理戦だものね。私よりも心理戦に長けた人間にシナリオを描かせる方が得策でしょ?実際それで成功したのだからこの判断は正解だったわ」
「本当に敵に回したくないですね…。そういう心理戦とかの時は」
生徒会会長と副会長、この二人だけは何があっても絶対敵に回さないようにしようと二人は心に誓った。
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