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本物の天才

 中学校の入学式。当たり前だが周りには知り合いは一人もいない。しかし不安は少しもなかった。新しい環境でもうまくやっていける自信はあったし、どうやら複数の小学校からこの中学校に集まるため他の人も新しい環境だという事も変わらない。何より父さんみたいに人を助けるためにはこんな所で人見知りをしているわけにはいかない。


 新入生代表挨拶や祝辞などを少し憂鬱な気分で聞き流していた。しかし同時にこれからの中学校生活に希望を持ちながら式が終わるのを待った。そして、入学式が終了した後各教室に移動し、黒板に書かれている机と名前の位置を確認し自分の名前の書かれていた場所に座った。教室は静寂に包まれていたが、明らかにドキドキワクワクとした期待に胸を弾ませるような雰囲気に包まれていた。


 席に着いて5分ほどたった後教室に40代後半ほどに見える男性が入ってきた。そしてその男性は自己紹介を始めた。


「初めに入学おめでとう。私はこのA組を担任する矢代亮(やしろりょう)だ。これから1年間よろしく。」


 髪をオールバックにしっかりとセットし一見気難しそうで厳しそうな雰囲気があるが、とても頼りになりそうな先生というのが第一印象だ。そして自己紹介をしてすぐにこれからの予定について説明された。


「今日これからの予定だが、まずこれから教科書などの資材を配布する。そしてその後に自己紹介を始める。それが終わり次第今日は解散になる。何か質問がある者はいるか?」


 誰も質問はせず矢代先生はすぐに教材を配り始めた。そしてある程度の教材が配布された後各自教材に名前を書くように指示された。そして名前を書き始めてすぐに後ろの席の男子が焦ったように声を上げた。


「やっべー今日名前書くのか...マジックペン家に忘れちまった~」


 その言葉を聞き俺は反射的に筆箱に入っていたもう一つのマジックペンを取り出し彼に渡した。


「マジックペン忘れたのか?良ければこれ貸してあげるよ」


 その言葉を聞き彼はまるで神様からの恵み物をもらったかのような顔をした。


「本当か⁉助かった~ありがとう!実は今日筆箱ごと家に忘れてきちまってよ~。本当に助かる!終わったらすぐに返すな!名前はなんて言うんだ?」

「そんなペンを貸したぐらいで大袈裟な...ただ俺は困っている人がいたら助けることを心掛けているだけだよ。俺の名前は一色...じゃなかった三葉誠翔(みつばまこと)っていうんだ。君の名前は?」


 最近苗字が父方から母方に変わり一瞬間違えてしまった。そして彼から明るい声で返事が返ってきた。

「俺の名前は最上秀一(もがみしゅういち)っていうんだ。これからよろしくな誠翔!」


 早速話せる人が出来ていいスタートダッシュが出来た。そんな気持ちで教材に名前を書き始め、自己紹介が始まるのを待った。


 自己紹介が始まり、名前、趣味、中学校での目標の順番で自己紹介が始まった。自己紹介をする人が黒板の前まで移動して発表し始めた。集中して聞き、そして俺の番が来た。


「初めまして!名前は三葉誠翔です。趣味はゲームからアニメ、スポーツなど幅広く取り扱ってます!中学校での目標は早くみんなと仲良くなり、みんなから頼られるようになりたいです!よろしくお願いします!」


 少し緊張をする自己紹介を終えホッと一息ついた。そして次の自己紹介の番が回るとクラスが湧いた。黒板の方を見ると先ほど少し話した秀一が立っていた


「あの人超イケメンじゃない⁉同級生とは思えないほど大人びてる!」

「こんな人と同じクラスに慣れてラッキー」

「すげぇ...顔がいいだけじゃなく制服の上からでも分かるほど良い筋肉質だ」


 先ほど話したときは自分も少し忙しくあまり意識してみていなかったが、改めて見てみるとしっかりと整えられた茶髪に整った顔。確かに同級生とは思えないほどイケメンだ。更にこの間まで小学生だったとは思えないスタイルの良さだ。クラスが湧くのも当たり前のルックスだ。


「初めまして!最上秀一です!趣味は体を動かすことや友達と遊ぶことです!目標は今のところはまだ決まってないけどとりあえずは青春を謳歌することです!みんなよろしくね!」


 他の皆とは変わらないただの自己紹介。しかしその自己紹介には確かに他の人とは一線を画すような雰囲気があった。


 クライメイト全員の自己紹介が終わり、今日は解散となった。俺も帰る支度をし準備が終わったところで秀一が俺に声をかけてきた。


「誠翔これから記念撮影とかするだろ?一緒に写真撮ろうぜ!」


 その声を聴きクラスの何人かが俺も混ぜて、私も混ぜてと言ってきた。その瞬間から一瞬でこのクラスのリーダーが秀一になることが誰が見ても明らかとなった。


 それから俺と秀一は友達となり一緒に行動することが多くなった。一緒に帰ったり、放課後一緒に遊んだり、時にはお互いの家にも行くぐらい仲良くなった。


 しかしその心地の良い日々もあまり長くは続かなかった。


 中学校に入学して約1カ月経った。来週には初めての中間テストが迫っていた。そのため、俺は秀一と一緒にテスト勉強をしていた。


「テスト勉強疲れた~。誠翔、そろそろ休憩しようぜ」

「確かにそろそろいい時間だしな」

「そういえば誠翔って頭いいのか?」

「普段から予習復習は怠ってないし、誰にも負けないよ。負けられない理由もあるしね」


 そう俺には絶対に負けられない約束がある。だから負けるわけにはいかない。


「そうなのか。俺もそこそこ自信あるし負けないぞ!」


 良い笑顔で秀一はそう答えた。


 テストはあっという間に始まり、あっという間に終わった。中学生初めてのテストという事もあり少し心配したところもあったが、いつも通りの実力を出すことが出来た。そして俺はテストの結果を楽しみに待った。


 数日後、担任の矢代先生が生徒一人一人の名前を呼び、成績表を配り始めた。そして俺は受け取った成績表を自信満々に開いた。


 氏名 三葉誠翔

 学年順位 2位


 そこには自分の全く予想していなかった結果がかかれていた。見間違えではなかった。何度見直しても順位は1位ではなかった。


「嘘だろ...1位じゃなくて2位...?じゃあ1位は誰なんだ?他のクラスの奴らとかか?」


 考えても仕方のない意味のない思考が何度も頭の中で巡っていた。その時後ろからいつも通りの調子で秀一が声をかけてきた。


「誠翔順位何位だった?なんと俺は聞いて驚け!1位だったぞ!」


 探していた1位がすぐそこにいた。一瞬思考が止まった


「おめでとう。俺は2位だった。次は負けない」

 その言葉を聞き俺はどんな顔をしていたのか分からないが心にもない賛辞をしたことだけは覚えている。


 最初は雲雀との約束をいきなり破ってしまったという申し訳ない気持ちでいっぱいだった。しかし、すぐに負けてはしまったけどすぐに勝てるようになり、負ける人間をゼロ人にしようと気持ちを切り替えた。


 それから俺は秀一に強いライバル心を持ち勉強やスポーツなど様々なことに勝負を挑んだ。しかし結果は凡てにおいて惨敗だった。テストの順位は1位と2位近い位置にあったが内容を見ると俺はいい時でもたまに100や90点。しかし秀一は全てにおいて満点だった。自信のあったバスケの1on1、も10試合やって1,2回勝てるかどうかぐらいの実力差があった。俺の自信も頭ではまだまだこれからと考えるも、心では一生敵わないと現実をたたきつけられてきた。


 そんなある日困っているクラスメイトを見かけた。いくら気持ちが滅入っていても人助けはする。それは中学生になってからも変わらず、心がけ反射的に動くようになっていた。


「どうしたの、困っていることがあるなら手伝うよ?」

「あ⁉誠翔君⁉ううん大丈夫!秀一君に相談するから!」


 その言葉を聞き俺の中で何かが崩れ落ちた。勉強や運動だけじゃなく一番自分の誇りでもあった人助けも秀一に負けた。その時俺は完全に理解した。

「本当の天才は最上秀一、彼で俺三葉誠翔はただの凡人だったんだ」

 その日から俺は秀一に勝つことを諦め、凡人らしく静かに生きることを決めた。

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