生徒会の仕事
生徒会に勧誘されて一日が経過した。俺は丁重に生徒会の入会を断り、もう生徒会とは縁が無くなりいつも通りの学校を送りいつも通り秀一や真波と昼食を取る…はずだった。何故俺は今生徒会室で昼ご飯を食べているのだろうか。
「良かったわ、今日あなたがまだ誰かと昼食を食べる約束をしてなくて」
「確かに約束はしてませんでしたけど…約束してたとしても結局こうなってた気がします」
「そんなことはないわ。何か予定があったら日を改めていたわ」
ニコニコしながらその真意は読み取れそうもない。正直こんな腹の探り合いをしてても時間の無駄だ。予想は出来るがとっとと用件を聞こう。
「それで?用件は何ですか?また生徒会に入れですか?」
「半分はそうね」
「半分?」
「半分は生徒会への勧誘。そしてもう半分は昨日空先雲雀さんの生徒会への参加が決定した事を伝えるため」
雲雀生徒会に入ったのか。まあ正直彼女の性格などを考えればぴったりだろう。別に驚く事でもない。
「あら?驚かないのね」
「まぁ正直彼女の性格や能力を踏まえれば妥当な結果かと。それと昨日帰宅途中に雲雀さんから生徒会室にこれから赴くって話も聞いてましたし」
「そうでしょうね。わざわざあなたが帰るであろう時間を予想して、その時間辺りに彼女が来るように来る時間を伝えていたのだからね」
何だこの人。エスパーでも持っているのだろうか。化け物の相手を真剣にしていても仕方がない。
「それで?空先さんは生徒会に下ったわ。あなたはどうするの?」
「軍門に下ったみたいな言い方しないでください。別に雲雀さんが生徒会に入ったからって俺には関係ありませんよ」
「でしょうね。こんなことで入ってくれたら苦労しないわ。これはただの報告よ」
果たしてこの人は何をしたいのか。全く予想が出来ない。ものすごく不気味だ。こっちの情報を与えれば与えるほど不利になっている気がする。
「話は以上ですか?以上ならこれで失礼します」
「待って、最後にもう一つ。水無月さん。机の上に置いてるプリント一枚持ってきて」
そうするとさっきまで黙ってずっとイヤホンを付けながらスマホをいじっていた女性が彼女の机から立ちプリントを俺に持ってくる。
「はいプリント!私2年Aクラスの書記担当水無月雫。よろしくね~!」
そう言うと彼女は俺にプリントを渡す。プリントを確認するとそこには生徒会の仕事がかかれていた。
別にプリントは要らなかったが一応プリントを受け取る。運んでくれた女性の先輩を見る。彼女の容姿はギャルっぽくメイクなんかもしている。ピアスを開けていたり、制服の着こなしなど諸々含めて校則違反なのではないかと思うほどいろいろな事をしている。正直な感想としては失礼にあたるだろうが生徒会の一員とは思えないというのが第一印象だ。
「すみません、ありがとうございます」
「君も大変だね~美琴会長に目付けられちゃって。気持ちわかるよ~私も泰知と違って別に生徒会に入るつもりなかったからさ」
「貴方の能力を腐らせるには勿体ないって思っただけよ。この学校、そして私は結果を残す人間への投資は厭わないわ。実際学校は茂木や不知火、水無月を含めた生徒会メンバーの協力もあり学校は生徒会への予算を増やしたわ」
「きゃ~会長カッコい~、イケメン~!」
そうすると水無月先輩は金城先輩に抱き着いた。俺は今何を見せられているのだろうか、とっとと帰ろう。
「では俺はこれで失礼します」
そうして俺は生徒会室を出る。時間を見るとそろそろ授業が始まる時間になっていた。確かにお昼ご飯を食べたはずだったが全く味はしなかった。
午後の講義が終わり、帰宅の時間になる。俺は秀一と一緒に下校し、少しだけ情報収集でもないが質問をする。
「なぁ秀一、なんか今日雲雀さんについての話とかなかったか?」
「あったあった!今日の朝のホームルームで雲雀が生徒会への在籍が決定したって頼中先生が言ってた。俺はあんま知らないけど生徒会って超優秀じゃなきゃ入れないらしいな。しかも採用基準もよくわかってないらしいし。生徒会に入るだけでも大学進学や就職が約束されてるって話も聞くし。生徒会所属ってだけで全校生徒の注目の的らしいぞ。実際誰が生徒会に入ったのかって1年生だけじゃなく2,3年生のやじ馬も今日Aクラスのに来てたしな。まぁでも正直俺たちの代は雲雀と誠翔以外誰に務まるんだって話になるけどな」
「俺からしてみればお前じゃなけりゃ誰に務まるんだって話になるけどな」
しかしなるほど、俺もあまり生徒会については知らなかったがここまで有名になってしまうのか。
「それで、誠翔は生徒会に入るのか?それとも断るのか?スカウトされたんだろ?」
「なんだ知ってたのか」
「昨日誠翔迎えに行ったら生徒会長に連れていかれたって真波から聞いてな。生徒会に入るには生徒会長からスカウトされなきゃ無理って話よく聞くし、生徒会長を務めてるほどの人が誠翔をスカウトしないとは思えないしな」
「まぁ確かにスカウトされたけど俺はいいかな。向いてないと思うし、目立つの嫌だし」
「そっか。じゃあ俺もいいや」
「なんだ秀一もやっぱりスカウトされてたのか?」
「いやされてない。でも誠翔がもしも入るって言うなら面接受けてみよかなって」
俺をスカウトしておいて秀一をスカウトしない。やっぱりあの先輩は見る目がないな。
「それにしても今日一日雲雀大変そうだったな」
「大変?生徒会の仕事で?」
「あぁ、なんか生徒会の仕事を早く慣れさせるために最初の数週間は仕事を多めに振られるらしいんだ。だから結構大変そうだったんだ。しかもその仕事ってのがただの事務仕事ってのも確かにあるんだけど、放課後に部活動の体育館使用の会議の仲介だったり生徒会に入ったって挨拶だったりいろいろあるらしい」
「なんかめんどくさいな」
生徒会の人助けをするというところに関してはとても賛同できるが、それにしても何だかめんどくさそうだ。それだったらやっぱり陰ながら気付かれないうちに手助けする方が俺の性に合ってるな。
「まぁ多分慣れないことがあって疲れるだろうから明日とか会ったら労ってやろうぜ」
「そうだな。未来の生徒会長になるんだから大変になるのはこれからだろうしな」
そうして俺は秀一を寮まで送ってマンションに帰宅した。
夜、スマホに電話が鳴る。雲雀からだった。
「誠翔、こんな夜遅くにごめんね。今時間大丈夫?」
「雲雀さん、大丈夫だけどこんな時間になんかあったのか?大丈夫?」
夜に通話をする事は過去に何回かはあったがこんなに遅い時間に通話がかかることは初めてだ。今の時間は寮にいるから恐らく問題は特にないだろうが、やはり少し心配してしまう。
「うん大丈夫。でもちょっと相談があるんだ」
「相談?良いよ、俺でよければ何でも乗るよ」
「ありがと。じゃあ遠慮なくさせてもらうね」
そうして雲雀はゆっくりと話し始めた。
「もう知ってるかもしれにけど私生徒会に入ったのね。それで生徒会の仕事に早く慣れたいから仕事を多く振ってもらったんだ」
「そっか多く振られたわけじゃなくて振ってもらったのか」
「そう、早く慣れたかったから。それでね、事務の仕事や挨拶なんかは順調に慣れていったんだけどさ、今日の放課後に有った部活動の体育館使用の会議の仲介の仕事でさ、私先輩たちの強い話し合いで委縮しちゃって全然仕事が出来なかったんだ。少ししか年は変わらないのにさ、年上の激しい口論って怖いね」
「そうだったんだな。それは辛かったな。でも正直初日なんだから仕方ないよ」
「でもさ、生徒会の一員になった時点でそんなのは通らないよ。私どうしよう、怖くなちゃってさ…このままで大丈夫なのかな…」
電話越しでも分かるぐらい涙声になっている。この涙声は怖かったからか、自分のふがいなさからなのかは俺には分からない。しかし、今俺がするべき行動は一つだ。
「今雲雀は追い詰められてると思うけど誰だっで最初はそんなもんだよ。少なくとも俺たちの代で一番生徒会にふさわしいのは雲雀だって思うよ。だから大丈夫自信もって。もし仮にそれでもくじけそうな時があったら俺が支えるよ。俺だけじゃない、秀一や海香だってそうだ。だから安心して」
励ましの言葉をかけたが返事は帰ってこない。…セリフが臭過ぎて引いているのだろうか。しばらく返事を待っていると返事が返ってくる。
「ありがと、元気出た!こんな夜にごめんね」
「良いよこんな事なら全然」
「ありがとね!じゃあお休み」
「うん、お休み」
「あ、最後にちょっといい?」
別れの言葉を告げ通話を切ろうとしたところでストップがかかる。何だろうか?
「さっきくじけそうな時があったら支えてくれるって言ってたけど秀一と海香の部分は二人には悪いけどちょっといらなかったかな~」
「えっ?それどう言う………切れちゃった」
俺が質問し答えを聞く前に通話を切られてしまった。でもまぁとりあえず雲雀が元気を取り戻したようなのでとりあえずは良しとしよう。