生徒会勧誘
俺が今生徒会に呼ばれた理由はてっきり学年委員会の仕事の何かやもしくは秀一について聞きたいことがあるなどだと思っていた。しかし、実際に話されたものは俺の全く予想していなかったものだった。
「生徒会?俺がですか?なんで俺なんですか?別に何か課外活動に積極的に取り組んでるとかじゃないですし…俺なんかよりももっと優秀で適任な人がたくさんいますよ。それこそ生徒会なんていろんな優秀な人が入りたくても入れないで有名なんですから」
入りたくないため丁寧に断っている気持ちが半分あるが、もう半分は本当になぜ俺をスカウトしているか分からない。俺は別に学力ではAクラスではないためどちらかと言えば学力などは低い認識であるだろうし、リーダーシップやコミュニケーションに関してもそこまでクラスで目立っている方ではない。
金城先輩はその俺の考えを察してかすぐに返答をする。
「君の言いたいことは分かるわ。君みたいなタイプは過去にもいたからね。まず初めに君をスカウトした理由を全て話します。その後に質問を受け付けます」
俺は先輩の話を静かに聞き始める。
「まず初めに君に目を付けた理由の一つ目を話します。1つ目は最上秀一君と空先雲雀さん、この明らかに常軌を逸脱した能力を持つ二人が君にへの好感度が高かったから。この好感度は友達としてというのもあるけど、集団のリーダーとして尊敬しているというのが強かったからと言うのもあるわ。二つ目に君自身の能力。君の人を使う、協力するという能力、そしてリーダーシップ。この能力は私が生徒会の一員が持つ能力として一番大切だと思っている能力なの。能力自体はこの間のバスケと卓球、そして試験で勉強を教えている点で力を確認させてもらったわ。そして4つ目に君の器の大きさ。これに関しては理解するのは難しいかもしれないけど、人って言うのは生まれながらにして能力や運などで許容できる限界値と言うものがあるの。もちろんそれ以外にも許容する要因はあるけどね。君はその器がとても大きい。5つ目にあなたも最上秀一君と空先雲雀さんと同等、何なら上回る常軌を逸脱した能力を持っているから。以上よ、では質問を受け付けます」
一気にいろいろ言われてしまって聞きたいことがごちゃごちゃになってしまった。とりあえず話しながら聞きたいことを整理していこう。
「じゃあ初めに、秀一や雲雀さんじゃなくて俺なんですか?さっき言ったことならこの二人の方が当てはまりそうなんですが」
「私は彼、彼女よりも君が一番その能力が高いと思ったから」
「じゃあ次に、確かに俺は秀一と雲雀さんと仲いいですけど、リーダーとして尊敬みたいなのはないと思うんですけど」
「それは君が気付いていないだけ。もし君がこれからリーダーシップの素質は別に持ち合わせてないって質問しようとしているなら君も知っている通りリーダーシップの能力が高い最上秀一君と空先雲雀さんが君を慕っている時点で能力が高いという事は明白でしょ」
次聞こうと思っていたことも応えられてしまった。やはりこのような相手の気持ちや考えていることが分かるから生徒会長を務められているのだろう。
「じゃあ次に、俺の代わりに秀一や雲雀さんをスカウトするってのは?別に二人じゃなくてもいい、生徒会に入りたい能力が高いやる気のある人間をスカウトするべきですよ。やる気のない人間よりある人間の方が役に立つに決まってます」
「君は与えられた仕事はキッチリと責務を全うするわ。それは調査済み。そして私が君をスカウトする何よりも大切なことは君の代わりは誰にも務まらないという点よ。それは最上秀一君と空先雲雀さんにもできない」
…この人はどれだけ俺を高く買っているのだろうか。
「…先輩…人を見る目無いですね」
「残念ながら私は学力や持っている技術などで様々な誇れる能力があるけれど、人を見る目はトップクラスで高いって自負できるわ」
恐らく今俺が何を言っても無駄な気がする。ここは遠回しに俺は生徒会に入らないと伝えていこう。
「生徒会に入って俺に何のメリットがあるんですか?」
「今あなたいろんな部活から勧誘されてるでしょ?生徒会に入ったら勧誘は確実になくなるわ。それと天稟学園生徒会って言うのはブランド能力が高いわ。所属していたと書くだけで良い大学や企業に推薦で入れるわ」
「どんなめんどくさい仕事があるんですか?」
「行事活動の準備や部費の会計、集会の時の挨拶やクレーム対応。他には生徒同士の話し合いの仲介から外部企業との話し合いやこれからの関係についての話し合いなどがあるわ」
「俺一人だけ1年生って言うのは嫌なんですけど」
「安心しなさい。私はスカウトしたい順に声をかけているだけであって、この後他にもスカウトするわ。君が一番スカウトしたかったから一番最初に声をかけられただけ」
「よく生徒会って言えば選挙とか在学生の過半数から支持されなきゃ入れないみたいなイメージがあるんですが」
「天稟学園の生徒会採用システムは生徒会内の面接やスカウトだけ。まず生徒会に入れているならすごく優秀なのだろうという共通認識だから人目の心配はないわ」
「先輩方みんなAクラスじゃないですか。Bクラスの自分が生徒会に入ってるって言うのはやっぱり不信感を持たれるのでは?」
「今の副会長はAクラスじゃないから問題ないわ。さっきも言ったけど生徒会に入ってる時点で優秀、何ならAクラスよりも優秀と言う認識になるわ」
「俺放課後は忙しいし遊ぶ時間だったり勉強したいから生徒会にいる時間はないと思います」
「そこら辺は調節するから安心しなさい。今、生徒会は3年生3人、2年生は4人いるわ。忙しくないときは週1でもいいし、なんなら副会長なんていっつもさぼってるわ。私が直々に迎えに行くか本当に大切な時や彼の気が向いた時以外は基本的に生徒会室には来ないわ」
何を言ってもすぐに言葉を返されてしまう。これは何を言っても無駄だろう。
「話は分かりました。ですが申し訳ございません。丁重にお断りさせていただきます」
こういう人の場合は適当にはぐらかすよりしっかりと断る方が効果的だ。俺はソファーから席を立ち扉を開ける。
「悪いけどその程度で私はあなたを諦められないわ。私はこうするって決めたらそうしなきゃ気が済まないの。また誘うわ」
「そんな貴重な先輩の時間を俺に割くなんてもったいないですよ。失礼します」
俺は生徒会室を後にしようとしたところで最後にもう一つだけ質問する。
「最後にもう一つだけ質問いいですか?」
「何でも答えるわ」
「じゃあ遠慮なく。試験で勉強を教えている点で力を確認させてもらったって言ってましたけどどうやって確認したんですか?」
「勉強を教えているのを確認していたからね。どれくらい点数が上がったのか入試の点数と試験の点数を比較させてもらった。どうやって確認したのかは生徒会に入ったら教えてあげる」
「…いえ、だいたい理解しました。大丈夫です」
絶対に生徒会に入るのはやめよう。俺はそう決意し生徒会室を後にする。
生徒会室からBクラスのに戻る途中に雲雀とばったり会う。…これは恐らくそういう事だろう。
「雲雀さんこんな所で奇遇だね」
「ホント奇遇だね!」
「雲雀さんこっちに来るなんて珍しいね。なんかあるの?告白とか?」
「違うよ!」
「そっそうか。ごめんデリカシーなかったな」
思ったより強い否定をされてしまった。冗談のつもりだったが今の発言は確かにデリカシーが無かったな。これからは気を付けよう。
「先生から何だか生徒会室に行くように言われたの。だから絶対に告白とかじゃないから!」
「分かってるよ、冗談で聞いただけ」
「誠翔は何でこっちに?」
「…あんまりこっち来たことないなってなんとなく来てみただけ。じゃあ何があるか分かんないけど頑張って」
俺はさっきまで生徒会室で生徒会にスカウトされていたことを隠し雲雀を見送る。そして俺はさっき生徒会長に言われたことを思い出す。
(悪いけどその程度で私はあなたを諦められないわ。私はこうするって決めたらそうしなきゃ気が済まないの。また誘うわ)
元々雲雀と秀一のせいで崩れていた静かに学校生活を送るという目標が生徒会のせいでより一層崩れてしまった。これからどうやって穏便に過ごしていくかを考えながら帰路に就く。