悪寒の正体
「う~ん…」
「どうした誠翔、悩み事か?相談のるぞ?」
球技大会が終わり数日。今は秀一と食堂で学食を食べている。
「いや、悩みって言えるのかな~」
「何でもいいからとりあえず話してみろよ」
俺はここ数日の悩みと言うか何か引っかかる事と言うかとりあえずもやもやとしている物があった。確かに一人で考えても答えは見つからないし少し話してみるのもいいかもしれない。
「実はさ、球技大会でバスケを選択する時に本能的にバスケだけは参加するなって悪寒がしたんだよ。でも結果バスケに参加したし、確かに秀一のせいで思いがけないハプニングはあったけどそれが悪寒の原因かって言うのもちょっと違うって言うか…とりあえずなんか引っかかるんだよ」
秀一も一緒に悪寒の原因を考えてくれるが結局答えは出ない。それも当たり前だ。悩みと言っても実態などはなくただの俺の気持ちの問題だし、原因も何かわかってないのだから。唯一答えに繋がりそうなバスケももう過去の出来事になってしまっている。
「まぁ今のところ何か被害にあってるわけじゃないだろ?なんか起きたら俺が手伝ってやるから安心しろよ!」
「ありがと。でも一つだけいいか?」
「勿論!なんだ?」
俺はここ数日の悩みを秀一に対して相談する。と言うか原因は半分はこいつなのだが。
「この間のバスケで思ったよりみんなに好印象を与えたからか分かんないけど最近いろんな部活から勧誘受けるんだよ。中には何度断っても勧誘しに来る奴もいる。何とかしてくれ」
「…無理だな!何故かと言うと今俺もその問題で困ってるからな。断ってるけどずっと勧誘してくるよな~。まぁ時間が解決してくれるだろ」
予想通り秀一も同じ悩みを持っていた。正直バスケだけ少し活躍した俺に対し秀一はバスケとサッカー両方活躍したからより一層勧誘が激しいだろう。俺は様々な問題の解決案を模索しながら昼食を済ませ午後の授業に参加した。
「それじゃあ今日はここまで、みんな気を付けて帰宅してね!」
ホームルームも終わり今日の学校一日終わったが、結局悪寒の解決案は浮かばなかった。こればかりは原因が分かってないのだから仕方ない。
「誠翔、俺これからバスケ行くけど見学に来ないか?」
「何回も言ってるけど俺部活に入る予定無いから」
「分かってるよ、言ってみただけ。…ところでさ、なんか廊下騒がしくないか?」
「廊下?」
言われてみて廊下を見てみると確かにざわざわと生徒の話声が聞こえる。ドアのガラス越しからも人がたくさんいることが伺える。
「どうせ秀一とか雲雀さんだろ。ほら、最近は皆慣れてきたけど球技大会で活躍してたから改めてキラキラして見えるとかさ。そんな所だろ」
原因は恐らく秀一か雲雀。そしてBクラスの前で待っているという事は俺を待っているのだろう。俺はドアをスライドさせ話題の中心の方を見る。
しかしそこには知らない女性が立っていた。いや、知らないではなく、よくは知らない。入学式や全校集会、何か学校の行事のたびに挨拶などで見たことはあった。
その女性俺の存在に気が付くと長い金髪を揺らしながらこちらに一歩一歩近づいてくる。俺よりは低いが女性にしてはとても高い身長であり、まるでモデルが自信満々にランウェイを歩くような美しさと共に何か威圧感のようなものを感じる。ハーフだからだろうか?
そしてその女性が近づくと同時に悪寒が走った。瞬間的にこのままではまずいと思いその場から離れようとする。しかし、気付いた時には既にもう遅かった。
「こんにちは。あなたが三葉誠翔君で間違えないかしら?」
「いいえ、違います。三葉君はもう帰りました」
今の俺にはこんな逃げ方しかできない。今から無視して走って逃げるべきだろうか。いや、今それをやってもその場しのぎにしかならない。明日はどうするんだ?いや、まず今走ったところで周りにたくさんの人がいる。今逃げ切れるかもわからない。
「ふふっ。顔も割れてるし逃げれないって分かってるのに面白い嘘つくのね。でも無駄よ」
やはり最初から逃げ場などどこにもなかったようだ。俺は大人しくするしかなかった。
「…そうです。確かに俺が三葉誠翔です。それで俺に何か用ですか?」
「思ったより素直で助かるわ。それじゃあ早速で申し訳ないけど私についてきてくれる?」
そうして彼女は歩みを始める。今すぐ逃げ出したいがついて行くしかない。すげぇ、さっきまでやじ馬でごった返していたのにその方向に歩こうとするとまるでモーセの海割りみたいに道が出来ていく。
俺は彼女の後ろを静かに、そして素直について行く。そして歩いて5分ほどして着いた場所は高校生には似つかないような、高級感がある扉の前に着いた。高級感があると言ってもゴージャスと言うよりは大手企業の重役の部屋と表す方が正しい。
扉の上の札には生徒会室と書いてある。
生徒会室の扉がの前に置いてある電子機器のようなものに何かカードをかざすと扉のロックが開く。恐らく生徒会に所属されている人にだけ配られるカードキーのような物だろう。恐らく重要な資料だったりがあるのだろう。これだけで如何に生徒会が特別か窺える。
生徒会室のドアが開かれると中には既に何人かの生徒がいる。制服に取り付けられているバッジを確認する限り同級生はいないようで全員先輩のようだ。…凄い、みんな秀一と雲雀と同じくらいのオーラと言うか雰囲気を感じる。流石生徒会だ。しかし俺の前に立っているこの女性の先輩はやはり別格だ。男性の先輩の一人がこちらを見るなり俺の前に立っている女性の先輩にあきれたように声をかける。
「会長…無理に連れてこない方針で行くって話でまとまりませんでしたっけ?」
「なに言ってるのよ。無理やり連れてきてないわよ。きちんと話し合ってついてきてもらったわ」
「そこにいる三葉君の顔見る限り信じられないんですが…」
先輩同士で何か言い合いが始まってしまった。生徒会って言うのは実力行使で何でもやるもんだと思ったが話してる男性の先輩や周りの先輩方の反応を見る限りそんなことはないようだ。するとさらにもう一人の男の先輩が蚊帳の外にいる俺に声をかけてくれた。
「何はともあれよく来てくれた。立ってるのもなんだからそこに腰かけてくれ」
そうして俺はソファーに誘導された。
「まずは本題の前に自己紹介させてもらう。俺は3年Aクラスの副生徒会長兼会計をしている茂木猛だ。本題は彼女から説明される」
身長が高く筋肉質であり、髪もワックスでセットされてありとても頼りになりそうな印象だった。そして茂木先輩は先ほどまで俺と一緒にいた女性に視線を促す。
「私は3年Aクラス、生徒会長を務めている金城美琴。あそこで今お茶くみをしている眼鏡をかけてるいかにも真面目そうな男は不知火泰知」
「少し取り乱してしまいました。お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません」
そう言うと不知火先輩はお茶を俺の前に出す。
「美琴のこの性格は前から知ってただろ?お前だってよく知ってるじゃないか」
「今回は何回も忠告してたから少しは自制してくれると思ってたんですよ」
男性の先輩方二人が金城先輩の問題行動笑いながら話す。しかし、金城先輩の有無を言わせないような咳払いと同時に話し声が止む。
「それでは本題を話します」
そう言うと金城先輩は俺の目をまっすぐ見て要件を話した。
「単刀直入に話します。三葉誠翔君、生徒会に入りなさい」
俺は一ミリも想像していなかったことを話され少しの間考えがまとまらなかった。