ブザービート
ドリブルを一回一回集中する。一瞬でも油断するとあっという間にスティールされる。
相手は誠翔だ。誠翔の本領はチームプレイの高さにある。しかし、誠翔一人の技術だけでも俺と同じくらいだ。ただ一回ボールを地面に着くだけでも複数の駆け引きが起こる。
いまだ!
一瞬のスキを見つけ、そのタイミングで仕掛ける。
しかし、仕掛けようとした時には既に俺の手元にはボールがなかった。一瞬誠翔にボールを奪われたのかと思ったがそうではなかった。どうやらBクラスのメンバーの一人が気付かないうちに近寄り俺のボールを奪ったようだった。いや、正確には気付かないように近付いたというよりは誠翔がそのように俺とチームメンバーを誘導させたのだろう。
やっぱり俺も一人で誠翔を抜くには分が悪すぎる。パスを回さなきゃ勝てないな。
今度は途中までボールを運び仲間にパスを回す。しかしやはり即席のチームプレイでは誠翔には勝てない。
見事なディフェンスの連携によりまたボールをカットされる。ボールがカットされた瞬間すぐにディフェンスに切り替えるが、誠翔はまるで最初からこの場面を想定していたかのように既に俺たちのゴールの近くに移動していた。そしてロングパスを受け取りシュートを決める。
「タイムアウト!」
このままではあっという間に点数を詰められ逆転される。俺は審判にタイムアウトを要請し、Aクラスのベンチに戻る。
ベンチに戻るとすぐにメンバーの一人が俺に話しかけてくる。
「秀一、なんだよアイツ!お前の親友だからただ物ではないっては思ってたけどお前と同じくらい規格外じゃないか⁉」
「そうだよ、もし最初から出場してたらぼっこぼこだったよ」
「いや、今も点差があるからまだ逆転されてないだけでぼこぼこだ。こっからどうやって勝つんだよ」
チームメンバーがこれからの作戦などを時間の許す限り練っている。しかし、今の数プレーで何をしても無駄に近いというのを理解したのだろう。全く作戦が決まらない。
「俺にボール集めてくれ。絶対に決めるから」
正直さっきからの1on1は俺は誠翔に負け続けているため、あまり信用ならないかもしれない。
「そんな顔すんな安心しろ。最初からそのつもりだよ。」
「化け物には化け物をぶつけるしかないからな」
「まあ、正直俺らにはそれしか勝ち目がないよな」
俺の心配とは裏腹にみんなは俺を信用してくれていた。これはますます勝たなくてはな。
作戦も決まったところで大きなブザーの音が鳴った。
「タイムアウト時間終了です。両チーム戻ってください」
俺達は審判の掛け声とともにコートに戻る。メンバーは審判からボールを受け取り俺にパスをする。
………体育館が静かだ、恐らくこの体育館にいる人全員がこの試合に集中しているのだろう。ありがたい、目の前の誠翔にだけ集中が出来る。
俺は先ほどの何倍もキレのあるドリブルで誠翔を抜く。恐らく誠翔は俺が抜くことを予想していたのだろう。既にヘルプに来ている人がいる。しかし、今の俺はその程度では止められない。俺は軽く抜き去りゴールを決める。
そのプレイを見た後でも誠翔は予想通りと言わんばかりの顔をして俺に話しかける。
「相変わらずの化け物だな~」
「それはお互い様だろ!」
そこからはお互いのチームの点の取り合いだった。相手チームが点を取れば自分のチームが点を取る。自分のチームが点を取れば誠翔のチームが点を取り返す。
しかし着実にあったはずのBクラスとの点差は詰められていった。その理由は誠翔以外のメンバーの違いだった。
確かにAクラスは皆運動神経が良く、チームとしての動きもいい。しかし、Bクラスはそれ以上に良かった。理由は単純、Bクラスにはバスケ経験者が多くいたからだ。
俺は誠翔とのマッチアップでは3Pを打つ隙なんて無い。対してBクラスの皆は普段の動きプラス誠翔からの力の底上げもあり3Pをしっかりと決めてくる。
28-31、31-33と1点ずつしっかりと差を詰められていく。
そしてその時は突然訪れた。
Aクラスのメンバーが俺に対してはなったパスを誠翔がカットする。
俺は、一瞬で誠翔に追いつきディフェンスに入る。俺は誠翔が顔を向けている方向を重点的に守る。そこにパスをすると思ったからだ。しかし誠翔は見ていた方向とは全く関係のない、一度も視線を向けていなかった方向にノールックパスをする。
そこにはまるで何回も練習をしてきた強豪校の連携化のようにパスがつながり3Pを放たれる。
ボールはゴールに吸い込まれる。カウントは34-33になる。瞬間体育館からは歓声が起こる。
それも当然だ。ただでさえ点差がついていたチームが逆転したのだ。それもこんな面白い試合で。ここで飲まれたら一巻の終わりだ。俺はチームメンバーに切り替えようと掛け声をし試合に戻る。
今度はしっかりとパスを受け取り残り時間もないため強気に攻める。俺は勢いよく助走をつけジャンプをしダンクを決める。これで34-35になった。
残り時間的にもこのBクラスの攻撃で最後だろう。ここを守り切れればAクラスの勝ち。逆に守り切れなければBクラスの勝ちだ。
「………ふ~」
俺は深呼吸をし集中する。そしてこの一点だけに全てをかける。
最後の誠翔との勝負。今回の試合が終われば次いつ勝負できるか分からない。必要な情報以外すべて遮断しろ。ここに全てをかけろ最上秀一。
誠翔がボールをゴール下にいる味方にパスをするために腕を振る。周りの足音が一気に動き始めるのが聞こえる。
しかし誠翔はパスをしない。ブラフだった。
そのまま両手でボールを持ちシュートモーションに入る。誠翔は完全にみんなをだましたのだろう。それこそ敵味方関係なく。
俺を除いて。
俺は誠翔の放ったシュートを空中で叩き落す。そして自分で叩き落したボールを回収しシュートに向かう。
ほぼ同じタイミング、いや、シュートをした時点で止められると気付いた誠翔が既にディフェンスに入っている。
「流石は誠翔だよ。でも、勝たせてもらう」
俺はハーフコートラインでシュートを打つ。ボールを叩き落としオフェンスに向かうまでの間盛り上がっていた会場が一気に静まり返る。
ボールはネットに吸い込まれる。会場では地震が起きているんじゃないかと思うほどの盛り上がりが起こる。カウンターを見ると点数のカウントは34-38となり、残り時間は1秒だった。
今この瞬間Aクラスの勝利が確定した。チームメンバーはまだ試合は終わっていないが、勝利を祝し俺に勢いよくい駆け寄ってくる。
…勝った…危険な賭けだった。
最後の3Pシュート。もしかしたら、クラスメイトに何でシュートしたのか聞かれるかもしれない。でもはっきりと言い切れる。今3Pを決めなかったら俺たちは負けていた。
仮に俺がそのままボールを持っていたら、もしくはパスをしたらボールを奪われ、シュートを決められ逆転されていただろう。次に2点を取っていた場合、確率は低いだろうが3Pを決められ同点になり、延長に入っていただろう。仮に延長に入っていた場合、俺たちは100%負けるだろう。
シュートだって決められるギリギリまで近づいた。仮にあと半歩前でシュートしていたら止められていただろう。
「よし、勝負は決まったけど最後まで真剣にやろう」
俺は皆に遠回しに最後まで油断するなといい試合に戻る。
最後、誠翔がゴールの下からBクラスのメンバーからボールを受け取る。
瞬間誠翔はまるでバスケットボールをハンドボールを投げるかのように大振りで投げる。ボールが宙を舞うと同時にピーッとブザーが鳴る。
そしてその投げられたボールはものすごい勢いでゴールを貫く。ブザービートが決まり、カウンターは37-38になる。
ブザービートが決められ、本来盛り上がるのが普通のはずだが周りの観客は化け物を見て引いている。いや、観客だけじゃなくクラス問わずに今試合をしていたメンバー俺を含めて引いている。
「油断してたわけじゃないんだけどな…化け物め」