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もう一人の主人公

 初めは少し元気がない。そんな些細な変化だったと思う。しかしもうすぐでサプライズの誕生日会が始まる。そんなある日にまるで急に人が変わったかのように静かになった。


 周りの皆もすぐにその変化には気付いたが時間が経つにつれてだんだんとみんなその状況を受け入れ始めた。なんなら他の同級生に比べて大人っぽくなってクール系となったことでより一層人気を集めたぐらいだ。


 しかし、変わったことはこれだけではなかった。初めに誠翔が意図的に俺を避けるようになったことだ。これは完全にのけ者にしているなどではなく、今までの遊ぶ回数に比べて減ったというくらいだった。


 次に、俺を目立たせ誠翔自身は目立たなくなったことだ。これは誠翔自身がこれが良いなら別に俺は気にしなかった。


 その次に誠翔は表立って人助けをしないようになったことだ。今までは困っている人がいたら一緒に解決する。それが誠翔の人助けの方法だったが、静かになった誠翔は、困ってる人を見つけたら声をかけずにバレないように解決する、さらに問題が発生する前に問題を解決するようになっていた。


 最後に誠翔が変わって何よりもショックだったことは、誠翔が俺に勝とうとすることをやめたことだ。その目、その行動は俺を特別な人間だからという理由で勝負を最初からあきらめている奴と同じ行動だった。俺が本当に尊敬していたチーム戦などの人と協力した時に発揮される才能。誠翔はその才能すら発揮することはなくなった。俺はその事実が本当に悔しく受け入れられなかった。


 それからは長い日々が続いた。別に誠翔が変わっても友達だという事実は変わらない。しかし、どこか満たされない気持ちでいっぱいだった。


 それからの中学校生活は楽しくないわけではなかったが、やはりどこか満たされなかった。


 ある日俺はスーパーで買い物をしていると誠翔の母さんである香織さんに話しかけられた。


「秀一君久しぶり、いつも誠翔と仲良くしてくれてありがとね」

「いえ、こちらこそ。誠翔のおかげで毎日楽しいです。最近母さんと買い物に行ったそうで、楽しそうに家で話してくれましたよ」

「本当?嬉しいわ」

「また一緒に遊びに行ってください。母さん楽しみにしてるので」


 それから軽く雑談をしていると香織さんは真剣なまなざしをして俺にを一つの話を始める。


「秀一君はもう行く高校決めた?」

「はい。とりあえず近くで一番偏差値の高い高校でも行こっかなって。多分誠翔も学力的にそこに行くだろうしぼんやりとそう考えてました」

「そっか…誠翔、秀一君に言ってなかったのね。実はね誠翔中学校を卒業次第高校には行かず働き始めるって言ってたの」


 そんな情報初耳だ。しかし、誠翔は時々家の事を気にしていた。誠翔がその行動をとろうとすることも不思議ではない。


「でも先生に相談してね、天稟学園ってところを受験してくれるようになったの」

「そうだったんですか…全く知らなかった」


 俺、誠翔と友達だって思ってたけど全然あいつのこと知らなかったんだな。そんな事も知らずにあいつと遊んでたんだな。


「でも、どうしてそんな事…俺に話してくれたんですか?」

「え?そんなの簡単よ。誠翔の友達だから」


 え?


「誠翔ったら学校の事全く話してくれないの。楽しい?って聞いても楽しい。今日何があったの?って聞いても授業があったとか。事務的でつまらなそうにしか話してくれないの。でもね、秀一君の事は私が聞かなくても自分から話してくれるし、前と同じ顔で楽しそうに話してくれるの」


 そうだったんだ。避けられてたから俺の事嫌いになったんだと思ってた。


「それでね?秀一君さえ良ければ何だか昔に比べれば中二病か何か知らないけど気難しくなった誠翔と変に気使わずこれからもいつも通り仲良くして欲しいなって。表面上では嫌がっても誠翔にとって多分それが一番うれしいだろうから」


 そんなの答えは決まってる。


「はい!任せてください!俺はいつまでも仲良くさせてもらいますよ!」

「本当!それを聞けて安心した!」

「ただ一つ言いたいことがあります」

「なに?」


 これはただのわがままだ。しかし譲るわけにはいかない。


「いま誠翔はクールな感じで人気者ですけど、そのクールぶった中二病、俺が治療させてもらいますよ。人と距離を取ってるなんて誠翔の才能が勿体ないんでね」

「そう!期待してるわ!」


 それから俺はすぐに家に帰った。


「母さん!俺受験先ここら辺の高校じゃなくて―――」

「天稟学園行くんでしょ?もうこっちもそのつもりで進めてるわよ」

「何で知ってるんだ⁉」

「元々香織さんと同じ高校行かせられたらいいしねって話してたし、さっきスーパーで秀一と話したって連絡来たから話聞いたんだろうなって」

「なるほど!そうと決まれば話は早い!俺過去問解いてくる!」


 俺はさっそくネットから過去問をダウンロードをし解いてみる。正直余裕だった。誠翔もこの難易度なら恐らく狙っているであろうAクラスも余裕だろう。


 俺は少し休憩しずっと考えてなかった一つの謎を考える。それは誠翔が暗くなった理由だ。


 俺は暗くなり始めた日の事を順に思い出す。その中で一つ気になることを思い出す。それはクラスメイトの一人が悩みを俺に相談すると言ってごまかしたという内容だった。


 そのことが頭に浮かぶと瞬間的にある仮説が浮かぶ。


 原因は分からないがあの頃の誠翔は少し落ち込んでいた。しかしそんな時でも誇りをもって誠翔が積極的に行っていた人助けをした。しかしその悩みは運悪くも誠翔だけには話せない内容だった。相談されなかった結果誠翔は自分の誇りですら誰にも必要とされずにものすごくショックを受けてああなってしまった。


 答えは分からない。しかし仮説としては十分だった。


 しかしその仮説があっているとしても人助けを続ける誠翔は本当に尊敬できる。


 …誠翔はへこたれても頑張ったんだ!俺も負けてられないな!


 俺はまた勉強を開始する。


 それからは色々あった。


 入試で俺を見た誠翔は凄い顔をしていた。俺はAクラスに余裕で入ったが、誠翔はAクラスに落ちる。それは学園側の採点ミスだとも思った。だって俺と誠翔が解いてた問題集に比べて簡単だったし。


 高校の入学式、俺はすぐに誠翔に話しかけに行った。それは俺にしてはものすごく緊張した。しかし誠翔は驚きこそしたが嫌そうにはしなかった。それ以降の日も中一の時のようにまた遊べるようになった。俺は本当に安心した。


 そして一番の進展があった。それはクラスメイトの空先雲雀の存在だった。見るだけで分かる。お互いが意識しまくりだったからだ。まあ意識しまくりとは言ったがお互いの意識のジャンルは違った。


 何よりも分かりやすかったのが、誠翔が雲雀と話すとき、本当にたまに、本当に一瞬だけだが、昔の誠翔と同じ目と顔をするときがあったからだ。


 理由は分からないが誠翔は雲雀といる間はたまに昔の状態に戻る。俺は誠翔と雲雀の仲が深まるように間を取り持った。


 ある日、俺に最高のチャンスがやってきた。


『秀一、そんなに俺と競いたいなら今後一回だけいつでも秀一が勝負したい時に勝負してやるよ』


 誠翔は約束は破らない。


 いつ使おうかと悩み続けた。そしていつ使うかはまだ決めてないが、何に使うかを決めた。


『なあ、今回も別にいつも通りだったし特別な事もなかったんだからさっき言った通りやっぱり今日じゃなくてもよかったんじゃないか?』

『いや…やっぱり今日出来て良かったよ』

『そうか?もう一試合するか?』

『いや、今日はもういいや』

『珍しいな?じゃあ帰るか』


 それはこんな1対1じゃない。本気の…俺の憧れた誠翔と戦うことが出来るチーム戦だ。


「…誠翔。前決めた約束…今使っても良いか?」

「約束?何の?」

「今後一回だけいつでも俺が勝負したい時に勝負してくれる約束」

「…あれか。どうしても今じゃなきゃダメか?」

「ああ。どうしてもだ。」


 誠翔は俺の目の前で軽くシュートを打つ。ボールは完璧な軌道でネットに吸い込まれる。


「アップ終了。縁、悪いけどそれ片付けておいて。秀一、前半にたくさん点を取ったみたいだけど、悪いけど勝たせてもらうよ!」

「ああ!それはこっちのセリフだ!本気で行かせてもらう!」


 ああ…そうだ、この目だ。俺はずっとこの誰もが惹かれるような熱意を持った目をしていてみんながついて行きたくなるような明るさを持った誠翔と勝負することを心待ちにしていたんだ。やっとまた戦える。


 俺が尊敬し続けた存在、俺の人生の物語のもう一人の主人公と戦える。


 抑えきれないほどのワクワクとした気持ちを秘めながら俺は整列し自分のポジションに着いた。

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この天才さえいなければなあ。
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