promise with 秀一
「それではこれより男子卓球準決勝を始めます」
球技大会最終日、俺の唯一のスタメン参加の卓球は思いのほか勝ち続け、準決勝まで勝ち続けた。
「バスケの時のために今張り切りすぎるなよ~」
応援に来ないでって頼んでいるのに秀一は応援に来ている。もうこれは二日目からなのでもう慣れてしまった。なんなら今雲雀はバスケの試合中のため男子がいない分ましな方だ。
準決勝まで勝ち残っているだけあって今までの相手よりつくコースが上手い。油断しているとつい勢いよく返してしまいそうだ。
しかし問題はない、落ち着いてゆっくりと返し、打たれたスマッシュや回転のかかったサーブもたまたま運が良かった風を装い点を取る。もちろん全部ではなく、何球かに一回だ。そして初めに1セットを獲得する。
「誠翔もっと真面目にやれば危なげなくセット取れるだろ」
「誰かさんのせいでもう注目されちゃってるんだよ。これ以上注目されてたまるかよ」
「雲雀の男子の数はともかく、俺がいてもいなくても女子の数はそんな変わんないと思うけどな」
「お前周り見てみろ。ほら見ろちょっと見まわすだけでこっちに注目してる女子が大量にいるだろ」
「それは俺だけを見てるわけじゃないんだけどな~」
秀一には昔からこの手の話は何を言っても伝わらないため無視して試合に戻る。
周りの試合経過を見ると、先にセットを取っている組は2つ、逆に取られているのは1つだ。ここで俺がセットを取られたら試合全体的にもギリギリの試合になって目立ってしまうかもしれない。ここは無難に勝っておこう。
俺は次のセットはスマッシュや回転こそかけないが、つくコースや速さなどを調節ししっかりと勝利した。
「お疲れ、やっぱ真面目にやれば余裕だったじゃん。それでもスマッシュとか打たなかったな」
「勝ったからいいだろ、てか女子バスケの応援行けよ俺の試合終わったんだし」
「それもそうだな、じゃあ行ってくるわ」
秀一は第二体育館を後にする。そして俺は自分のクラスを応援し始める。
試合の結果は3-1で勝利しまさかの決勝進出を果たした。
俺はそのまま女子バスケの試合を見に行った。
女子バスケを見に行くと今後半が始まったばかりだった。点数は15-12でギリギリ1Aがリードしている展開だった。意外だ。雲雀が出ているならもっと余裕があると思っていたからだ。俺は応援していた秀一に話しかける。
「意外、雲雀さんが出てるからもっと余裕があると思ってたんだけど」
「相手チームに経験者が結構いてね。雲雀さんは余裕あるんだけど他のチームメンバーが足引っ張ってる感じかな」
「なるほどな、納得」
こればかりは仕方がない。卓球とかならともかく、バスケはチームスポーツだ。いくら一人が強くても他が足を引っ張ってしまい負けてしまうという事はよくある。
遂に相手チームが3Pを決め同点になってしまう。そこからはシーソーゲームになってしまう。見てるだけでハラハラしてしまう。
2点差で残り数秒、もうこの試合は1Aの負けで終わるだろう。だれもがそう思ったところで一瞬のスキを突き雲雀はハーフコートラインでシュートを打つ。そのシュートは美しい弧を描きリングに吸い込まれる。
体育館はものすごい熱狂に包まれる。それもそうだ奇跡が起こったのだから。しかしそれはただの奇跡ではないのだろう。
「最後の雲雀、あれ一瞬諦めた振りしてたな」
「ああ、経験者相手だけど、今回は大会とかじゃなくただの球技大会だ。そのトラップに引っ掛かったんだろう。後シュートしたところも恐らく自分が決めれるであろうラインギリギリ。そこでシュートを決めるところが流石雲雀さんって感じだな」
ただの奇跡ではなくあれは計算された奇跡なのだろう。
「この後サッカー決勝あるだろ?俺は委員会の手伝いで応援行けないから。まあ大丈夫だろうけどがんばれよ」
「…ああ」
そして俺は委員会の手伝いに向かう。
委員会の手伝いを終え、お昼ご飯も食べ終える。そして俺は卓球の決勝に向かう。向かう途中にトーナメント表を見てみるとサッカーの票が目に入る。
結果は意外にも1Aが3Aに敗北していた。珍しいこともあるものだな。
男子バスケの準決勝が行われる第一体育館を覗いてみる。現在優勝候補の1Aと経験者が複数人いたことで意外にも勝ち残った1Bがアップを始めている。
そして俺は第二体育館に着き卓球のアップをはじめ試合を始める。
「それではこれより男子卓球の決勝を始めます」
そして俺は決勝を始めた。決勝だからと言って今までと特に変わったことはしない。しかし、決勝の相手は前に真波が言っていた何故か勝ち上がる3Cか。まあ俺たちのクラスも特に経験者はいないが決勝まで残ってる。卓球に関しては不思議なことはないだろう。
「お手柔らかによろしくね」
「お願いします」
そして試合を始めた。
…強い、と言うよりやりづらい。特に早いボールを打たれているわけではない。回転をかけられているわけでもない。でもなぜかボールがネットにかかってしまったり台からオーバーしてしまう。
現在は3セット目、既に味方の他三人が負けておりチームとしての結果は準優勝に決まった。ただ他のチームもストレートで負けている。ここまで残ってきたのだし、相手に経験者と言うほど上手い人もいなかった。しかし、1セットも取れずにみんな負けている。
この謎は何だ?
俺は今目立っているがすでに試合は決しているためそこまで目立っているわけでもない。それ以上にこの謎が気になる。
…もしかして。
俺はサーブで思いっきり下回転をかけてる。そしてとくに苦戦した様子もなくボールをレシーブされる。そしてレシーブされたボールをただラケットに打ち返したりもせずに当てる。
そうするとありえない方向にボールが飛んでいった。
なるほど…原理は分かんないがどうやらあのラバーに何か仕掛けがあるようだ。
それからはあまり回転をかけないようにラリーをし何とか試合に勝った。
「ただ今の試合は1-3で3年Cクラスの勝利です。優勝は3年C組ですおめでとうございます」
こうして卓球が終わった。
俺は試合が終わった後に俺の対戦相手だった人に話しかける。
「すみません、一つお尋ねしたいことがあるのですが…」
「どうしたの?」
「そのラバーについてなんですが」
「あ、もしかしてバレちゃった?いやーバレないと思ったんだけどな。…正解、このラバーに仕掛けがあるんだ」
「やっぱり…そのラバーなんですか?」
「これはね、アンチラバーっていうんだ。何ていうか俺もよく分かんないんだけど回転が変になるんだよね。見た目も普通のラバーだから特殊な奴だってバレにくいし」
「なるほど、粒々しているラバーならまだしも一見普通のラバーにしか見えなかったので最後の方まで気づきませんでした」
「持ち込みはルール違反じゃないしね、本来俺は別にやるつもりなかったんだけどクラスの皆がどうしても今年は優勝したいって言うしある奴から卓球だけで良いから本気でやれって言われたから仕方なく俺がアイデア出してね」
なぜ3Cが特段強い人がいるわけでもないのに勝ち残るのか分かった。強い人がいないのではなく、戦い方の方向が他とは違ったのだ。
俺はその先輩と話し終えるとみんなと一緒にバスケの応援に行く。恐らく今行けば休憩時間ぐらいであろう。
第一体育館に到着すると得点9-17でBクラスが負けていた。秀一相手にここまでできているのは参加メンバーの中の複数人がバスケ経験者だからだろう。
「あ、誠翔君お疲れ、ベンチなんだから早く入りな」
一応俺はベンチ入りしているため紬に連れられ、メンバーに混ざる。
「キッツいな、どうやったらあの化け物止められるんだ」
「どうやっても無理だろあれ、強豪校のエースとマッチアップしてるみたいだ」
「だからってあきらめるわけにもいかないだろ、そこんとこ何とかなんないのか真波、お前バスケ部だろ?なんか案出してくれよ」
そんな事をメンバーの一人が言う。しかし、真波には案が出ないだろう。真波自身が秀一を相手にするならまだしもそれは出来ない。
そんな事を考えていると、真波はこちらを見ていいことを思いついたような顔をする。待てもしかしてこいつ。
「一つだけ可能性があるぞ」
「なんだ?何でもいいから教えてくれ」
「誠翔を出すことだ」
「三葉?お前経験者だったのか?」
「いや、バスケ部とかではなかったらしい、でも実力は俺が保証する」
「分かった、じゃあ三葉頼めるか?」
ここで俺が断ると俺は浮いてしまう。結果的に俺は頷くしかない。くそっ、結局秀一の要望通り試合することが決定してしまった。まあいい、て抜いてるって思われない程度に頑張ろう。
「分かった出るよ。でもあんまり期待するなよ?」
そうして俺は皆と共に休憩時間にアップを開始した。
アップを開始しようとハーフラインに立つ。すると秀一がこちらにやってくる。
「誠翔…待ってたよ、この試合のために無駄な体力を使わないように俺は今日サッカーに出場しなかったからな」
「そういう事か。何で負けたのかって思ってたけど謎が解けたよ」
「俺はもう前半で体を温めてる。誠翔は?」
「生憎俺がやってた卓球の試合は慎重な試合だったからそんなに温まってないよ」
「それでは皆さんそろそろアップを終了してください」
集合の呼び出しがかかった。ボールを片付けて整列しよう。
そう思ってたところで秀一に呼び止められた。
「…誠翔。前決めた約束…今使っても良いか?」
「約束?何の?」
「今後一回だけいつでも俺が勝負したい時に勝負してくれる約束」
「…あれか。どうしても今じゃなきゃダメか?」
「ああ。どうしてもだ。」
何だよその真剣な目。いっつも飄々として何でもそつなくこなすくせに。そんなに今俺と真剣に勝負したいのかしたいのか?バスケなんてたまにやってるだろ?
………
「どうしたんだ二人とも?早く整列しようぜ?」
「ああ…縁、悪いんだけどバスケゴールの下にまで移動してくれない?」
俺はバスケゴール付近にいた縁に声をかけ移動してもらった。
そして俺はそこから軽くシュートを打つ。
ボールは綺麗な弧を描きスパッと音を立てリングをくぐり縁の前に落ちる。
「アップ終了。縁、悪いけどそれ片付けておいて。秀一、前半にたくさん点を取ったみたいだけど、悪いけど勝たせてもらうよ!」
「ああ!それはこっちのセリフだ!本気で行かせてもらう!」
そうして俺は整列し自分のポジションに着いた。