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青の終了、灰色の始まり

 死因は交通事故だったらしい。それからの事はあまり覚えてはいなかった。ただ、粛々と事が進み粛々と葬式が開かれ、葬式が終わる。だいたい事が終わるのに数週間ぐらいはかかったはずだが、記憶の中ではほんの数日ぐらいしか経過してないとしか思えない。お父さんのお葬式にはいろいろな人が来てくれていろいろな人が心配そうに声をかけてくれた記憶もあるが、何を言っていたのかも思い出せない。


 葬式が終わってからの僕は何に対してもやる気が起きなかった。本来であれば小学校に行かなくちゃいけないのに行く気にもなれない。みんなのためにまた勉強や運動を頑張んなくちゃいけないのに努力する気にもなれない。何より目標にしてたお父さんが亡くなった今何を目標にすればいいのかわからない。


「僕はこれからどうすればいいんだろう」


 まさに絶望の淵に立たされている時、お母さんから声がかかった。


「誠翔...友達の皆が心配して家に来てくれたよ」


「会いたくない」


 僕はその呼びかけを聞き一番にそう返した。僕はみんなを引き連れる、頼りになる存在じゃなきゃいけないのに今の僕はその存在とは程遠い。みんなはいつも通り元気な僕を期待してお見舞いに来てくれているはずだ。こんな元気のない惨めな僕を見せるわけにはいかない。


 事情を察したのかお母さんが僕に対しこんなことを返してきた。


「誠翔、もしかしてこんな情けない姿お友達に見せたくないって考えてる?だったらそれは違うよ、お友達は元気な誠翔を見ることを期待してるんじゃなく、どんな姿でも誠翔に会うことを期待して来てるんだよ。」


 その言葉を聞き少しみんなと会う勇気が湧いてきたが、それでもやっぱり見せたくないという気持ちが強かった。そんな僕の考えを見透かしたかのようにお母さんがさらにこんなことを言ってきた。


「いい誠翔?今まで誠翔はお父さんとお母さんのいっつも困っている人がいたら助けてあげる、って言葉を聞いていい子に実践して来てくれたよね?お母さんそのことをやってくれてて嬉しかったし、お父さんも誇りに思ってた。じゃあ今お父さんがやってくれて一番うれしい事って何だと思う?それはね、誠翔に会いたいなって困ってるみんなに会いに行ってあげることなんだよ?」


 その言葉を聞いて僕はお母さんのすごさを知った。本当は僕と同じくらいつらいはずなのに僕を勇気付けてくれた。今の状態に悩んで困っていた僕を助けてくれた。やっぱりお母さん、そしてお父さんには敵わないな。


 そうして僕はみんなに会いに行った。玄関の戸を開けるとそこにはクラスのみんながいた。


「会えて良かった!久しぶりだな誠翔!ほら、これ給食のデザートのプリンだ!持ってきてあげたぞ!」

「大丈夫なわけないと思うけど大丈夫?ゆっくりでいいから元気になってね?みんな学校で待ってるから!」

「誠翔君大丈夫?これここ数日のプリントだよ。分からないことがあったら今度は私が教えてあげるからね。」


 みんなこんな元気のない僕を見ても、優しく声をかけてきてくれた。その事実に思わず涙が出てきた。そこに雲雀が近くに来てくれてこんなことを言ってくれた。


「みんないつも誠翔に助けてもらってるから今度は自分たちが助けるって張り切ってるの。誠翔にはいつでもこんなに助けてくれる人たちがいるんだからいつでも頼ってね」


 その言葉を聞き僕はより涙があふれてきた。その涙はつい最近まで出していた冷たく悲しい涙ではなく、暖かく優しい涙だった。


 それから僕は少しずつ元気を取り戻していき、一か月後には前と同じように学校に通えるようになっていた。それは僕自身の力だけではなく、やっぱり友達みんなの力やお母さんなどの力が大きいだろう。ただ、前と変わったことと言えば、今では自分だけがみんなを引っ張っていくのではなく、僕自身もみんなに頼るようになったことだろう。


 そして、もう出来ないと思っていた目標も新しく僕にできた。それはお父さん自身の行動に教えてもらった。ショックで覚えていなかったが、どうやらお父さんの交通事故はひかれそうになっていた人を助けようとしてその身代わりになったらしい。お父さんは最後まで困っている人を助けて亡くなった。僕はその姿を見習って死ぬ最後の瞬間まで人助けをする人間になるという目標が出来た。そして僕はまた新しく、最高の日々を過ごし始めた。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 もう外もすっかりと冷えるようになったある日、お母さんに話があると言われ呼び止められた。雰囲気から察するにどうやらあまりいい話ではないことを察し僕はかたずをのんで話されるのを待った。


 そしてお母さんは、真剣でどこか申し訳なさそうな眼差しで僕に話し始めた。


「実は三月いっぱいでここを引っ越しておじいちゃんとおばあちゃんの家に引っ越すことが決まったの。だから今のお友達みんなとはバイバイしなくちゃならないの」


 それはあまりにも衝撃的で僕にとって残酷な内容だった。話を聞くに、もうお母さんだけの稼ぎじゃ生活に苦しくなったことや、既に新しい勤め先も決まったなど子供でも理解できる理由だった。しかし頭では理解できても心では気持ちがぐちゃぐちゃだった。


「ごめんっ、ごめんねっ」


 お母さんが涙声で僕に謝ってくる。その声に僕は現実を受け入れた。


 次の日ホームルームで僕が三月いっぱいで卒業式が終わり次第遠くに引っ越すことが話された。周りの皆はとても残念そうに声を上げたり、泣いてしまう人もいた。その声を聴き、僕は残り少しの短い間だけど悔いのないようにみんな最後まで精いっぱい楽しもうと声を上げた。


 実際その間の期間は小学校6年間で一番楽しかったと思う。しかしそんな時間も永遠には続かない。あっという間に時間が過ぎ、卒業式当日を迎えた。僕は周りの皆とは違う制服に包まれて卒業式に参加した。卒業式では在校生の歌や卒業生の歌、学校の偉い人の話を聞いたりなど着々と進んでいった。周りの皆は晴れやかな表情をしていたが、僕は全然晴れやかな気持ちになれなかった。


 卒業式も終わり、最後のホームルームの時間が来た。そのホームルームでは担任の先生が卒業生に対してのエールだったりを送っていた。そして最後に遠くに引っ越す僕に対してのエールと花束が先生とクラスの皆から贈られた。とてもうれしい気持ちでいっぱいになったが、やはり気分は晴れなかった。ホームルームを終え、僕はこのまま新幹線で遠くに移動するため、本当にみんなとの最後のひと時の時間が来た。みんな遠くでもがんばれだったり、忘れないでだったり、元気づけてくれた。しかし、一番会いたいはずの雲雀の姿だけがどこを探していても見当たらなかった。そうこうしているうちにお母さんの迎えが来てしまった。


 晴れやかな気持ちにはれなかったが、確かにみんなから元気をもらった。心残りとしてはやっぱり雲雀に声を掛けたかった。そんな事を駅に向かうタクシーの中でボーっと考えていた。そしてそんなことを考えているうちに駅に着いた。駅に着いてからは切符で改札を通り、新幹線の中で食べる駅弁を買い、おじいちゃんおばあちゃんへのお土産などを選んでいた。そしてなんとなしにホームで新幹線を待っていると奥から見覚えのある子が走ってきた。


 それは間違えなく雲雀だった。そして雲雀は僕の前で立ち止まり乱れた息を整えようとしていた。


 卒業式ではしっかりと着ていたはずの制服はしわだらけになり、髪の毛も乱れていた。急いでここに来たことが目に見えて分かる。しかしそんなことはどうでもいい、問題はなぜ雲雀がここにいるのかだ。様々な事を頭の中で整理していると、雲雀が口を開いた。


「良かったっ、間に合って」


 どうやら間違いなく雲雀は僕に会いに来てくれたらしい


「卒業式で話したら泣いちゃいそうでお手洗いで勇気を出して戻ってきたらもう行っちゃったって聞いて、お父さんとお母さんに無理を言って連れてきてもらったの」


 そうだったのか。悪いことをしたでもそのおかげで最後に雲雀と会えた。


「会いに来てくれてありがとう。本当にうれしいよ」


 その言葉を聞き雲雀が慌てたように返してきた。


「本当はもうそろそろ新幹線の時間でしょ⁉でもこれだけは伝えたくて、今まで何度も助けてくれてありがとう!私たちずっとずっと友達だよ!」


 その言葉を聞きずっと曇っていたはずの心が晴れた。そして僕はこう返した。


「もちろんだよ。そしてきっとまたどこかで会える。僕も雲雀に何度も救われたよ。」


 僕も感謝を彼女に伝えた。そして彼女にずっと1番言いたかったことを伝えず2番目に言いたかったことを伝えた。


「雲雀はずっと勉強や運動に関して僕のことをすごいと言ってたけど、僕は雲雀の方がすごいと思ってる。でもそれはお互い様。だから次また会う時までお互い誰にも負けないようにしよう。そして次あった時どっちがすごくて正しかったのか決めよう。」


 その言葉を聞き雲雀は泣いているが笑顔で言葉を返してきた


「うん!約束!誰にもまけない!」


 そして新幹線がやってきた。僕は新幹線に乗り、お互いを見送った。そして、僕は車両の中で決意した。僕は次に雲雀に合うその時まで負けない。そして、次雲雀と再会し雲雀に勝った時に一番伝えたかった言葉、"好きだ"という気持ちを伝える。


 それからあっという間に数日が過ぎた。その数日の間は少しでも大人びて見えるように一人称を僕から俺に直したり、髪の毛のワックスの使い方を覚えたりいろいろした。今日は中学校の入学式、これからの自分に胸を膨らませ中学校に向かった。


 これから自分が何でもないただの凡人だという事実に打ちのめされるとも知らずに。

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