青のマグカップ
「二人とも怪我はないか?」
ナンパ師が消えてすぐに秀一が二人に声をかける。
「うん、大丈夫だよ。助けてくれてありがとね」
「いや~本当にしつこくてね。でもたまたま近くにいてくれてラッキーだったよ」
結構怖い思いをしたと思うのだが、あまりあせっているようなそぶりはない。普段からこのようなことは慣れているのだろうか?
「誠翔もありがとね!」
「別に俺は何もやってないから大丈夫だぞ」
「私からもお礼を言うね、本当にありがとう!」
今感謝している子は確か前に秀一と真波と食堂でご飯を食べていた時に相席をお願いしてきた子だ。
「そういえば自己紹介がまだだったね!私の名前は波風海香、よろしく」
「波風かよろしく。俺の名前は三葉誠翔」
「誠翔だから呼び名はまこっちちゃんかな?こっちは知ってるよ~有名だからね」
「呼び方は別に何でもいいけど、有名?」
有名とはどういう事だろうか?別に俺は目立った行動などはしていないし何かしたわけでもない。強いて言えば学年委員に入っているくらいだろうか。
少し言葉の意味を考えていると秀一が二人に話しかける。
「俺は今日秀一と遊びに来て、今まで服屋で服を見てたところだったんだ。二人もそうか?」
「うん、海香に誘われてね。さっきまで私たちも服を見ててちょうど休憩しようとしてたところで絡まれちゃったんだ」
「それは災難だったな」
「二人はこれからどうするの?」
「俺たちはお昼にはまだ早いからこれからどっか遊べる場所行くつもり」
そうだ、色々とごたごたしてしまっていたが、遊べる場所を探さなければ。
スマホを取り出しネットで遊べそうな場所を探す。それと同時に波風が声を上げる。
「それならちょうどいい!今から私たちゲームセンターに行こうって思ってたんだ、一緒に行こうよ!」
「それいいな!誠翔もそれで良いか?」
ゲームセンターか、確かに最近は行く機会がなかったし久々に行きたい気分だ。
「もちろんいいぞ。最近行けてなかったから楽しみだな」
そうして俺たちはゲームセンターに向かった。
歩いて5分ぐらい経ったところでゲームセンターに到着した。ドアをくぐると、一気にゲーム音が響き始める。この感じ、昔から嫌いじゃない。
「いや~ゲームセンターなんて久々だな~。誠翔勝負しようぜ!」
「良いけど対戦できるゲームなんて限られてるだろ」
「そうだな~じゃああれやろうぜ」
そう言うと秀一はバスケットボールのゲームを指さす。
「別にいいけどあれゲームって言うよりスポーツだろ…」
「細かいことは気にすんなってやろうぜ!」
秀一はそう言うと走ってバスケのゲーム機の前まで向かう。
「二人はどうする?」
「私たちは二人のバスケやってるところ見てるよ」
「ふっふっふっ、まこっちゃんの凄さ、お手並み拝見と行きますか」
二人とも見学すると言うので遠慮せずにプレイさせてもらうとしよう。
「せっかくだし負けた方はお昼奢りな」
「お手柔らかにな」
そうしてお互いに100円を入れてプレイを開始する。プレイを開始するとバスケットボールが手元に流れてくる。そしてすぐさま片手でシュートを放つ。このタイプのゲームは正確性より数だ。第一こんな近い場所からディフェンスもなくゴールにシュート出来るんだ。めったなことがない限り外さない。
時間が経過すると段々ゴールが左右に動き始めたり、揺れ始めてくる。こういう部分は本来のバスケではありえないため面白い。あっという間に時間が経過してしまった。
「まあ久々だしこんなもんかな」
「たまにはこういう勝負も良いな!」
そして結果が表示される。結果は両方400点だった。体感もう少し入れた気がするので恐らく上限の値が400点に設定されていたのだろう。
「おいこれどうするよ。どってが勝ったか分かんねぇじゃん」
「同点だしどっちもおごりは無しってことにしよっか」
そして二人で雲雀と波風の元に戻る。
「二人とも凄いね!カンストだよ!」
「うん…正直ちょっと引く。まこっちゃんに関しても二人が気に入ってるのも納得だよ」
「別にそんなすごいことはしてないよ、距離も近いしめったなことが無きゃ外さないよ」
「もともとバスケ部だったとか?」
「いや別に、休み時間とか休日に秀一と遊んでたぐらい」
「うわ~」
そんな引くことはないと思う。流石に少し傷つく。
「誠翔フリースロー対決になると勝率は俺と五分なのに1on1となると何故か勝率下がるよな?」
「それは単純にお前の方がオフェンスもディフェンスも技術が高いだけ。てかそんなことは今はいいよ。俺たち二人は今楽しめたし二人はなんかやりたいものない?」
「そうだな~、じゃあ私UFOキャッチャーやりたい!」
「分かった。じゃあ先行っててくれ。俺は少しトイレに行ってくる」
そうして俺は三人と別れトイレに向かう。トイレで用を足し、手洗い場で手を洗いながら考える。バスケに集中しててあんまり考えなかったけど雲雀には全然正体がばれる気配はない。もうそろそろ警戒を解いてもいいかもしれない。気に入ったとは言われたけど、それも恐らく単純にあの時俺が少し避けてたからそういっただけだろうし。そうと決まれば心も軽くなる。
用を足したからか、心が軽くなったからかは分からないがすっきりとした気分でトイレを出る。そしてあたりを見回して三人を探す。しばらく歩いたところでUFOキャッチャーをしている雲雀の姿を見つける。どうやら赤色と青色のペアマグカップを取ろうとしているようだ。しかしいくらやっても取れる様子は見られない。もう買ってしまった方が安上がりになるのではないかとも思ってしまう。
「雲雀さん大丈夫?全然取れそうにないね」
「あ、誠翔。うんUFOキャッチャーは好きなんだけど苦手なんだよね」
「もうたくさんお金使った後で言うのもなんだけどもうネットとかで買った方が早くない?」
「それはそうなんだけどやっぱり自分で取るからこそ良いと思うんだよね」
離した後も離れる様子はない。何としてもこのマグカップを自分の手で取りたいようだ。俺はUFOキャッチャーの中を確認する。
「もうちょっと止める位置を奥にしてみて」
「え?分かったやってみる」
そうして雲雀は自分が止めていた部分より少し奥辺りにクレーンを止める。そうするとうまい具合に横に転がりマグカップが景品取り出し口に落ちる。
「すごい、取れた!ありがとう誠翔!」
「もうすぐ取れそうな位置に移動してたからちょっと取れそうだなって思っただけだよ。ここまで移動させたのは雲雀さんの力だ」
「そんな謙遜しないで。はいこれお礼」
そう言うと雲雀はペアマグカップの青色の方を俺に手渡す
「悪いよこんなの。俺は取ってあげたわけでもないしただ思ったことを言っただけ」
「それで実際とれたし、一人の家にペアマグカップがあっても仕方ないでしょ?だからお礼、受け取って」
「それじゃあありがたく」
そうして俺は雲雀から青色のマグカップが入った箱を受け取る。
「二人ともここに居たのか、おっ!なんか景品取れてるじゃんおめでとう」
「誠翔のおかげで取れたんだ」
「まこっちゃんやるじゃん」
「たまたま上手くいっただけだよ。そろそろいい時間だしお昼でも行くか?」
「確かにそうだな。二人もそれでいいよな」
反論が出てこないため異論はないらしい。移動をしようとしたところで波風が声を上げる。
「せっかくだしみんなでプリクラ撮ろうよ!」
プリクラか、二人の反応を見る限りどうやら前向きに検討しているが、俺は少し気が乗らない。何故なら俺はプリクラを撮ったことが無いからだ。
「俺プリクラ撮ったことないんだけど」
「簡単だよ!ただ機械の指示に従って写真を撮ってデコるだけ」
乗り気じゃないのを察したのか波風は俺の腕を引きむりやりプリ機まで移動させる。そうして勢いのまま写真を撮った。
プリ機からものすごくキラキラしたエフェクトが付いた写真が排出された。