ヒーロー登場
「少し気合を入れすぎたかな」
今日は秀一と遊びに行くため、普段は付けないワックスを付け寮に向かった。一応遅れないようにするため20分前には寮に到着した。
スマホをいじり10分ほど待っていると秀一が寮から出てきた。
「なんだ誠翔もう来てたのか。来てたなら教えてくれればよかったのに、遅れて悪いな。あと今日は一段とカッコいいな」
「サンキュー。それとこっちが早く来ただけだから気にする必要ないよ。じゃあ行くか」
秀一に気を使わせないように答え歩き始める。
「どこ行こうか。とりあえず人気な通りにでも行くか?」
「じゃあそこで良さそうな店に入ろう」
行く場所を決め駅に向かい、数分電車が来るのを待ち電車に乗り込む。電車に数分揺られ目的の駅で降りここら辺で有名な通りに向かう。
目的地に着くと、そこには服屋やレストランなどたくさんのお店があった。
「いろんな店があるな。なんか気になる店あるか?」
「そうだな~。じゃああの店入ろうぜ」
そう言うと秀一は一つの洋服店を指さした。
「じゃあ行ってみるか」
店の中に入るとその洋服店は比較的シンプルなものを取り扱っている店だった。俺みたいな服初心者にも入るハードルがあまり高くなさそうで少し安心した。
「せっかく高校生になったからな、ちょっと服欲しくて。色々試着して見るからどれが良いか評価してくれよ」
「別にいいけど俺服全然詳しくないからあんまり期待するなよ」
そうして秀一はトップスやボトムスを選びに行った。俺もちょうど少し新しい服が欲しいと考えていたため展示されている服を見てみるが、全く良し悪しが分からない。
「何かお探しですか?」
よく分からないまま服を見ていると店の店員さんに声をかけられた。
「いや~何か新しい服が欲しいなって少し見てたんですけど違いが分からなくて」
「よろしければこちらで何着か見繕ってみましょうか?」
「本当ですか?じゃあお願いします」
こういう時は俺が訳も分からずに選ぶよりその道のプロに任せる方が100%良い。ここは素直にお願いしよう。
数分また服などを見て待っていると先ほどの店員さんが声をかけてきてくれた。服の見繕いが終わったのだろう。
「大変お待たせ致しました。ぜひあちらで試着してみてください」
「ありがとうございます。では失礼します」
そうして俺は試着室に入り店員さんが選んでくれた服を試着して見る。そして試着して見た姿をスタンドミラーで確認してみる。
…何というかせっかく選んでもらって言うのもなんだが、何だか俺には大人びすぎていて、服を着ているというよりは、服に着られているような気がする。
試着室のカーテンを開け、店員さんに感想をもらう。
「とってもお似合いです!初めてお顔を拝見した時から絶対この服がお似合になると思っていたんですよ!」
「そうですかね?何だか俺には大人びすぎていて、服を着ているというよりは、服に着られているような気がしてあんまり似合ってないんじゃないかなって思って」
「そんなこと全然ないですよ!美しいご容貌も相まってとってもお似合になっておられますよ。もしお気に召さないならば、こちらのような服はいかがですか?」
そうして店員さんに新しい服を手渡される。今度もまた自分には大人っぽい過ぎる気がする。そこから何着もの服を試着して見るが、結局全部大人びて見えてしまう。でもたまにはこんな服もいいかもしれない。
「じゃあすみません。一番最初に試着した服買います」
「本当ですか?お買い上げありがとうございます!」
店員さんの協力も相まって、服を購入することが出来た。少し自分には大人っぽすぎる気もするが、こんな機会がなければこういう系統の買う機会もないだろう。たまにはこういう服を買う挑戦もいいかもしれない。
レジで会計を済ませると同時にスマホにメッセージが届く。
「試着室でいま試着してるからきてくれ~」
どうやら何着か目星をつけ試着をしているらしい。そして試着室に向かう。試着室には一つだけカーテンがしまっている試着室があり、そこに向かって声をかける。
「お~い秀一、来たぞ」
「お、来たか!じゃあ一着目見てくれ!」
そう言うと同時に試着室のカーテンが開き、中からパーカーを着た秀一が現れる
「どうだ?似合ってるか?」
「似合ってるよ。パーカーはあんまり見ないから新鮮で良いと思うぞ」
「う~ん、じゃあ次2着目いく着てみる」
そうして誠翔は2着目、3着目と何種類もの服を試着する。
…正直感想に困る。元の素材が良すぎるせいでどんな服を着ても似合っているため似合ってる以外の感想が出てこない。何ならさっき試しに明らかに似合わない独特な服を渡してみたが、結局着こなされてしまった。
「これで最後だけどどうだ?」
「…俺服よくわかんないから店員さん呼んできていいか?」
そうして俺は先ほど服を選んでもらった店員さんに声をかけ試着室に連れて行き服の評価をしてもらう。流石は店員さんだ、俺と同じく全部に合っていると答えているが、どんなところが似合っているかだったり答えている。また秀一と言う最高のモデルを見つけたためか新衣服なども持ってきて話している。
「よし!決めました。店員さんに最初に選んでもらった服にします」
どうやら秀一も買う服を決めたようだ。ずっと試着しているところを見ていたが秀一も大人びた服を購入するようだった。俺と同じ大人っぽい服を試着していたはずなのに秀一が着るとなると完全に着こなしている。やっぱり服を選ぶ前に自分を磨かなくては限度があるな。
秀一が会計を済ませ二人で店から出る。
「あそこいい店だったな!店の雰囲気とか店員さん良い人だし、服も俺好みのやつが多かったし、また行こう」
「そうだな、良いところだった。俺は服の事よくわからなかったけど店員さんのおかげで服買えたし」
「服選んでる時チラッと見えたけどすっごく似合ってたぞ!」
「そうか?俺には大人びすぎてるような気がしたけど似合ってたなら良かったよ」
「次はどこ行く?お昼にはまだ早すぎるよな?」
「じゃあなんか遊べそうなところ行こうぜ」
「そうするか。俺ちょっと喉乾いたからそこのコンビニで飲み物買ってくる。誠翔は何が良い?」
当たり前のように俺の欲しいものを聞くところが相変わらずのイケメンだ。
「じゃあ麦茶で、はいこれお金」
「飲み物ぐらい奢るよ」
そうして秀一はコンビニに入っていく。ここら辺で遊べる場所はないかスマホで探そうとしたところで何か揉めている声が近くから聞こえてくる。
「だから困ります、私たちこれから予定があるので」
「じゃあ俺達もその予定に入れてくれよ~」
「第一私彼氏いるので」
「そんな彼氏なんかより俺たちの方が絶対良いって」
視線をそちらに向ける。どうやら女性達がしつこいナンパ達に困っているようだ。この問題は簡単に解決できる。秀一を呼んで彼氏のふりをさせればいい。ナンパをしている人たちも秀一の姿を見ればすぐに諦めるだろう。
しかし、秀一が来る前に問題が起きてしまったら元も子もない。俺はたまたま通りがかった知り合い風に声をかけよう。そう心の中で決めたところでナンパに合っている女性一人と目が合う。
…嘘だろ。いや、ナンパをされているという事はそれだけルックスが良いという事だからナンパをされていること自体は全然不思議ではない。ただ問題は何故こうも俺は運が悪いのか。ナンパされている人の一人は雲雀だった。
雲雀はこっちに気付くとすぐに声を上げる。
「あ!ようやく来た!もう遅いよ!すみません彼氏が来たので失礼します」
別に彼氏じゃなくていいだろ…友達で良いじゃん。でも呼ばれたなら行かないわけにはいかない。
「ごめんごめんお待たせ、…すみません、俺の彼女に何か用ですか?」
「うわ…これじゃ勝ち目はないな…。別に!俺たちが用があるのはそっちの女の子でして…」
そうすると今度は雲雀と一緒にいたもう一人の女の子に声をかける。相手も必死だったのかすごい勢いで女の子に詰め寄る。俺は反射的に危険を察知し、ナンパの一人の腕を掴む。それと同時にもう一人のナンパの腕も誰かに掴まれ動きが止まる。
ヒーローの登場だ。なんか特殊なエフェクトが見える。
秀一はナンパの腕を掴み少しすごんだ声で声をかける。
「すみません…俺の彼女に何か用ですか?」
「いっいえ…何でもありません!」
「じゃあ彼女たちに謝ってください」
確実に相手は俺達よりも年上だろう。しかし秀一は臆した様子は全くない。
「すっすみませんでした!」
謝罪をもらったところで俺と秀一はナンパの腕を離す。
ナンパたちは雲雀たちに謝った後に秀一、そしてわざわざ俺にまで必死に許しを請うかのように謝ってきた。いくら彼氏のふりをしてるとはいえ何だか申し訳ない気持ちになった。




