青春の前触れ
中学校の入学式。私の入学する中学校は複数の小学校から入学してくる。だからあたりを見渡すと知っている人もいれば知らない人もいる。新しい環境に少し不安はあるけど大丈夫。誠翔も頑張っているんだから私も頑張らなくちゃ!
お偉いさんの祝辞などが終わり、無事に入学式が終了する。そして教室に移動し自分の席に座る。周りには知らない人がたくさんいる。だけどこれからの中学校生活が本当に楽しみだった。しばらく待っていると教室に先生が入ってきた。
「皆さん中学校入学おめでとうございます!周りの人と初対面で緊張しているかもしれないけど、それは皆同じです。だから早く仲良くなってくださいね!」
担任の先生は明るい先生だった。担任が明るいとクラスも自然と明るくなる。そのためクラスの雰囲気も明るくなっていった。
「じゃあ今日はここまでだからみんな気を付けて帰ってね!明日は配布物を渡したり、自己紹介とか学校説明とかあるから気を付けてね!」
先生がそうして連絡を終え、クラスの生徒が教室を出ていく。私もその中に続き学校を出る。
学校を出ると両親が私を待っており、一緒に記念撮影を撮ったり、また小学校からの友達とも一緒に集合写真を撮る。
「…誠翔とも一緒に撮りたかったな…」
!
何いきなりしんみりしてるの私!せっかく頑張るって約束したのに。こんなこと考えるのやめやめ。
そうして両親と共に家に帰宅し、入学祝いにごちそうを食べ一日を終える。
次の日、学校ではたくさんの資料が配られたり、学校の案内をされたりいろいろなことをした。そして自己紹介の時間が来た。
「自己紹介は名前と趣味と学校での目標を言ってくださいね!」
そう先生が言い、自己紹介が始まった。
みんな各々の自己紹介を聞き、あっという間に私の順番が回ってきた。
「初めまして!空先雲雀です。趣味は本も読めば、ゲームとかもやるし、運動も大好きです!中学校では様々なことに一生懸命取り組みたいです!困ったことがあればいつでも頼ってください。みんなの力になりたいです。これからよろしくお願いします!」
そうして私も無事に自己紹介を終えることが出来た。
それから私は楽しい中学時代が始まった。友達をたくさん作ることができ、毎日が楽しかった。常日頃から勉強を頑張っていたおかげで、テストは常に1位をキープしていた。というか一問も間違えた記憶はなかった。そして運動も頑張った。時には部活の助っ人をお願いされて部活動に混ざることなどもあった。何度も部活に入らないか誘われたり、どうして入らないのか聞かれたりもしたが、特に部活に興味はなかったため入らなかった。
そして何よりもうれしかったのが、いろんな人の助けになれたことだ。みんな困ったことがあれば私に相談してくれたため、私も手伝える。それが、少し誠翔に近づけているようで嬉しかった。
でも私は時たまに今誠翔がここに居てくれれば、一緒の中学校に通いたかった。そんな情けない考えも頭によぎってしまうのも確かだった。
ある日、放課後、友達で、学校でカッコいいと人気な男の子に校舎裏に呼び出された。
「雲雀さん、皆を助ける姿や優しいところがずっと好きでした!僕と付き合ってください!」
それは告白だった。中学校に入学してから何度目だろうか。何人にも告白されている。理由は人によって様々だった。一目ぼれ、顔が好き、部活の助っ人で活躍しているところに心を奪われた、助けてもらった時から。とにかく様々な理由から何人にも告白された。
「ごめんなさい。気持ちはすっごくうれしいけどあなたとは付き合えない」
理由はそう、
「断る理由はやっぱり小学校時代の友達の誠翔君って人ですか?」
そう、誠翔だ。何度もいろいろな人に告白され何回か付き合ったらどんな感じになるんだろうと考えたことがある。でもその考えをするといっつも付き合う相手は誠翔で、他の人で妄想しようとしても全く妄想が出来なかった。まず、気持ちも小さくなるどころか日に日に大きくなる一方だった。
どうやら私は完全に誠翔に脳を焼かれているらしい。
「うん、そう。だからごめん」
「いや、来てくれてありがとう」
そうして私は彼と別れ家に帰った。家に帰ると私はアルバムから誠翔の写真を取り出し、眺めた。告白されていた時と全く異なり、すごくどきどきとしてきた。改めて確認する必要すらなかったが、改めて私は誠翔の事が好きだと再認識した。
中学生になってから随分と時間が経ち中学三年生になりしばらくした頃。先生に放課後教室に残るように言われた。
「雲雀さん、忙しいところごめんなさいね」
「いえ、大丈夫ですよ。それでどうしたんですか?」
「雲雀ちゃんは進学先、隣町のここら辺で一番偏差値の高い高校に行こうと志望しているわよね」
「はい、それがどうかしましたか?」
それがどうしたのだろう。正直言えば私の学力なら少なくとも何か大きな失敗さえしない限り余裕なはずだ。
「単刀直入に言うわ、やめておきなさい」
私は先生に1ミリも考えていなかった言葉を言われた。
「ああ、かんちがいしないでね!雲雀ちゃんならその高校ぐらいなら余裕で入れるわよ!」
「じゃ、じゃあなぜダメなんですか」
「簡単な話よ。あなたほどの天才がそんなレベルの低い高校に行くべきではないからよ」
レベルが低いとは言うが、毎年数人日本最高峰の大学合格者を輩出するレベルの高校である。衝撃的なことを言われ、まだ思考整理されていない状態で先生に1つのパンフレットを渡された。
「天稟学園高等学校ってあの天稟学園ですか?」
「そうよ、私立でお金がかかるけどあなたなら大丈夫、学費、寮費、様々な物を無償で提供されるAクラスに余裕で入れるわ」
「…私、確かに他の人より少し賢いですがAクラスには入れるほど頭がいいと思えないのですが…」
「大丈夫よ、仮にあなたがAクラスに入れないならその年のAクラスは0人だから」
「でも…やっぱりやめときます。私はこの地元が好きなので」
「そっか、残念、Aクラスに入るために全国の天才がその小さな枠を取り合うから更に成長につながると思ったのだけれどね~」
その言葉を聞きどうしても聞き逃せない言葉を拾った。
全国の天才が取り合うという事は、もしかしたら誠翔がここに受験しに来るかもしれない。いや、誠翔なら受験するに決まってる。確率は低いだろう。しかし確かに誠翔に再開できるほんの少しだけの小さな光を見つけた。
「…先生、やっぱり少し考えてみてもいいですか。後このパンフレットいただいてもいいですか?」
「本当!いいわよ、是非もって行ってちょうだい!」
そうして私はすぐさま家に帰り、両親に天稟学園について相談した。両親は二人とも私の行きたいところに行きなさいと背中を押してくれた。
次の日改めてやっぱり天稟学園を受験すると先生に伝えた。
そしてあっという間に受験当日がやってきた。
天稟学園はとても大きな都会の中にあり、少し雰囲気にのまれた。流石全国でもトップクラスの高校、受験会場だけでもたくさんあった。
私は受験会場に着くなりすぐに急いで誠翔を探したが、誠翔の姿はどこにも見当たらなかった。
試験は確かに少し難しがったが、思っているよりも簡単で誠翔がを見つけられなかったショックによりいつも通りの力を出せなくても問題なく解けるレベルだった。そしてあっという間に試験が終わってしまった。
試験会場を出て校門をくぐった。私はものすごく暗く、一見試験の手ごたえが全くなかった受験生に見えるだろう。
「あれ~まことのやつどこにもいないな~。あいつ先に帰りやがったな。一緒に帰りたかったのに~。まぁどうせ新幹線で会えるか」
私はすぐにその声がした方に顔を上げた。そこには誠翔ほどではないがモデルのようなイケメンな男性が立っていた。その男性に話しかけようとしたが、話しかける前にすぐにその場を去ってしまった。運動神経には自信があったが、そんな私でも絶対に追いつけないと思うほどの足の速さだった。
そうして私は家に帰った。
数日後、公立高校の受験も受けた。自己採点は満点だった。周りの皆はさすがと言っていたが、正直今の私にはどうでもよかった。数日後、合格発表を見に行ったが、やはり合格していた。
ある日、学校から帰宅するとポストに封筒が入っていた。天稟学園からの合格通知だった。私はすぐにも開けたい気持ちでいっぱいだったが、両親が返ってくるのを待ち、一緒に開けた。
天稟学園高等学校合否通知
合格おめでとうございます。あなたは見事合格いたしました。入学手続書類を確認し入学申請をしてください。
どうやら無事に合格したようだ。そしてもう複数紙が入っていた。
おめでとうございます。あなたは入学試験テストで好成績を収めたため、Aクラス配属が決定いたしました。つきましては同封されてある学費免除申請願い、寮費免除申請願い、給付型奨学金願いを入学書類と共に送付してください。
どうやらAクラスにも無事に合格したようだ。
両親は私以上に喜んだ。私も嬉しかった。ただ本番はこれからだ。もし誠翔が天稟学園を受けているならAクラスに入学しているはずだ。入試で男の子が言っていたまことという名前。これが誠翔の事かは分からない。でも私にはこれに縋るしかない。
それからの学校はあっという間だった。中学校の卒業式は確かに悲しいく寂しい気持ちもあったが、誠翔に会えるかもしれない。そんな気持ちが強く楽しみな気持ちが強かった。
高校入学まで残り数週間。引っ越しの準備などをしているところで一本の電話が来た。
「お電話失礼します。こちら天稟学園高等学校教務課の者です。空先雲雀さんのお宅で間違いありませんか?」
天稟学園からだった。
「はい、合ってます。私が空先雲雀です」
「そうでしたか。空先さん、あなたは今年度の入試テストで満点を取り、入学順位トップを取った二人のうちの一人です。毎年天稟学園は入学順位1位の人に新入生代表挨拶をお願いしているのですが、お願いできますか?」
その言葉を聞き鼓動が早くなった。
入学順位トップ、正直その部分は誠翔との約束があったがどうでもよかった。問題は入学順位トップがもう一人いる事。これは誠翔に違いない。
「すみません、もう一人の入学順位1位の方の名前を伺ってもよろしいですか?」
「はい、少々お待ちください。…はい、名前は最上秀一さんですね」
天国から地獄に落とされた気分だった。誠翔が天稟学園を受けたのなら私が満点を取ったテストぐらい誠翔も余裕で満点だろう。しかし違うという事は誠翔は受けていなかったという事だ。つまりあの時のまことは、誠翔とは違うまことだったのだ。
「…すみません、辞退させてください」
「そうですか分かりました。お時間いただき申し訳ございませんでした。」
電話が切れた。ついさっきまで持っていた楽しみだという気持ちが粉々に散っていった。
そして天稟学園の入学式当日がやってきた。
普通入学式と言えばこれからの青春や未来、希望に期待に胸を膨らませこれからの高校生活を楽しみにしている物だが、私、空先雲雀は全くワクワクしなかった。
これからまた最高の日々が待っているとも知らずに。




