王子様と私
私、空先雲雀には好きな人がいる。
彼はいつもみんなの中心にいる。頭が良くて、運動神経もよく、誰に対しても優しく困っている人がいればすぐさま助け、一人ぼっちの子がいれば声をかけ、みんなと一緒に遊ぶ。おまけに顔もとてもいい。彼はみんなの中心にいるのは必然であった。
私も彼についていく人の一人で、たくさんいる彼の事を好きな人の一人だった。
好きになった理由はやっぱり頭が良いとか運動神経が良いとか顔が良いとか、色々あるけどやっぱり一番の理由は誰に対しても優しく困っている人がいればすぐさま助ける優しいところだった。
私はなぜか男子に嫌な事をされることが多かった。理由は分からない。何か気付かないうちに嫌な事をしてしまったのか、はたまた単純に理由なんてないのか。しかし確実に私は毎日追い詰められて学校に行くのも嫌になっていた。
そんな時救ってくれたのが誠翔君だった。
「おいお前らいくら雲雀の事が好きだからってそんなちょっかい掛けない方がいいぞ!そんなことしたら逆に嫌われるぞ!大丈夫か雲雀?」
「あっありがとう…あの、今言ったことって…」
「ああ、あいつら雲雀の事が好きだから嫌がらせして自分のこと意識してもらおうとしてるんだよ」
「ハァ⁉だっ誰がそんなブスの事好きになるんだよ!」
「おいお前らいくら何でも言いすぎだ!謝れよ!」
この後、色々あったがもういじめられることはなくなり、無事に平穏な学校生活を送れるようになった。
数日後御礼をしようと思い、何か欲しいものがないか聞いたが
「御礼なんかいらないよ!当たり前の事をしただけだし!」
御礼はないと言われた。だから決めた。助けてもらったお返しにもし誠翔君が困ったことがあれば今度は私が助けるって。
それから私はたくさん努力した。誠翔君は他の人に比べて格段に運動神経、頭がいいから、仮に誠翔君に困ったことが出来たとしたら今の私では助けられない。だからせめて力にはなれるくらいの能力がなくては。だからそれから私は毎日一生懸命頑張った。そのおかげ合って運動神経は男子にも負けず、頭も誠翔君ほどは良くなかったが、他の人に比べたら圧倒的によくなった。
少し自信がついてきたある日、髪を切られるのを失敗されてしまった。学校に行ったとき、怖くて教室に入ることが出来なくなった。そんなとき登校してきた誠翔君が私に話しかけてきた。
「あれ髪切った?いいじゃん、いつもと雰囲気は違うけど似合ってるよ!」
そんな言葉を純粋な目と笑顔で言ってくれた。実際に教室に入るとクラスの皆皆が髪形をほめてくれた。
誠翔君は困っている時いつも颯爽と私の前に現れ、そしていつも助けてくれる。その姿はさながら白馬の王子様だった。もうその時から、いや既にもう頭の仲は誠翔君でいっぱいだった。
それから私は勇気を出して誠翔君に声をかけることが多くなった。話すことが多くなりだんだん誠翔君と仲良くなっていく事が出来た。誠翔君から君付けなんかしないで呼び捨てで呼んでって言われたとき他の人からしてみれば小さなことかもしれなかったが、私にとってはものすごく大きなことで飛び跳ねるほどうれしかった。
そして誠翔とたくさん過ごすようになって、私自身もたくさん変わった。まず私も困っている人がいたらすぐに助けるようにしたし、元々あまり明るくなかった性格も信じられないくらい明るくなった。容姿に関しては限界があるけど、出来るだけ誠翔に釣り合うように努力した。好きな人と毎日一緒に過ごし、たまに家にも来るようになるくらい仲良くなり、一生この生活が続けばいい。そんな日々が続いていた。
ある日、誠翔が学校を休んだ。珍しく風邪でも引いたのか。そんなことを呑気に考えていた。教室に入ってきた先生が暗い表情で言った。
「誠翔君のお父さんが亡くなりました。なのでしばらく誠翔君は来られません」
驚きの内容であった。みんなその話を聞き誠翔は大丈夫なのか、いつになったら来れるようになるかなど誠翔の話題でもちきりだった。
初めは誠翔が来たら元気付けよなどとみんなで話していたが、いつまでたっても誠翔は学校に来なかった。誠翔がいないクラスはやはりとても暗かった。中には誠翔の代わりに明るくしようとしていた人もいたがとてもじゃないが明るくならなかった。
今このクラスはすごく暗いくて辛いが、今の誠翔はもっと辛い思いをしているのだろう。だから私は決めた。もしかしたらこの決断は誠翔に嫌われることになってしまうかもしれない。でもここで恩を返さなきゃいつ返すのだろう?今しかない?
「みんな、これから誠翔の家に行って誠翔を元気付けよ。誠翔は今助けを求めているはず。何時も助けてもらってるお礼をしに行こ!」
この言葉を聞いてみんな賛成してくれた。その日の学校はいつもよりも明るかった。
放課後皆と誠翔の家に行く。インターホンを鳴らすと誠翔のお母さんの香織さんが出てきた。以前あった時よりもやつれていてクマも出ていた。でもつかれたそぶりは見せずに誠翔を呼びに行ってくれた。
数分が経過した。もしかしたら今日は会えないかもしれない。そう思ったところでドアが開いた。中から誠翔が出てきた。クラスの皆が励まそうと、また久しぶりに誠翔に会えたおかげで元気な声で誠翔に話しかけた。私も誠翔を元気付けた。誠翔が泣き出したときには私ももらい泣きしそうになった。
それから数日して誠翔が学校に来た。以前よりも元気はなかったが、学校に通いみんなと過ごすうちにだんだんと元気を取り戻していった。一か月後にはすっかり元通りになった。誠翔が元通りになってくれて本当に安心した。
また楽しい日々が戻ってきた。しかしその楽しい日々も長くは続かなかった。
ある日朝のホームルームで誠翔が三月いっぱいで卒業式が終わり次第遠くに引っ越すことが話された。私はその話を聞き泣いてしまった。
その後の学校は本当につらかった。すごく楽しい時間があっても不意に卒業式まで、そんな言葉が頭をよぎる。永遠に卒業式が来ないでほしい。そんな希望もむなしく、あっという間に時間が過ぎ、卒業式当日を迎えた。
誠翔は私たちとは違う制服に包まれて卒業式に参加した。卒業式では在校生の歌や卒業生の歌、学校の偉い人の話を聞いたりなど着々と進んでいった。周りの皆は晴れやかな表情をしていたが、私は全然晴れやかな気持ちになれなかった。
最後のホームルームの時間は本当に泣きそうだった。ホームルームが終わり、皆が誠翔とお別れの会話をしていた。私もすぐに話したかった。でも今の私は話したらすぐに泣いてしまいう。私は泣いた状態で誠翔と別れたくはなく、お手洗いに向かい頑張って涙を引かせた。
教室に戻ったころにはすでに誠翔はいなかった。
私は全身の血の気が引くのが分かった。お別れもできずに別れるのは嫌だった。私はすぐにお父さんとお母さんに事情を説明した。話を聞いた二人はすぐに誠翔がいるであろう駅まで送ってくれた。どの時間の新幹線に乗るかは分からない。もしかしたらもう新幹線に乗って行ってしまったかもしれない。それでも私は一生懸命走って誠翔を探した。
「あれ?雲雀ちゃん?」
声をかけられた方を見たらそこには香織さんがいた。
「どうしたのこんな所で?」
「あっ、あの…私まことにお別れを言いに!」
「そうだったの!誠翔なら多分今1番ホームにいるからそこに行きなさい。ただもうすぐ出発しちゃうから急いで」
「ありがとうございます!」
そうして私は急いで1番ホームに向かった。そして私は探し続けていた誠翔を見つけた。
誠翔は私を見るととても驚いたような顔をしていた。当たり前だ。
「良かったっ、間に合って」
今の私はおそらく髪や制服が乱れていてあまりきれいな姿ではないだろう。でもそんなことはどうでもいい。
「卒業式で話したら泣いちゃいそうでお手洗いで勇気を出して戻ってきたらもう行っちゃったって聞いて、お父さんとお母さんに無理を言って連れてきてもらったの」
しまった、私の話ばかりしてしまった。本当はもうすぐ新幹線が行ってしまい迷惑な状況なはずなのに。
「会いに来てくれてありがとう。本当にうれしいよ」
良かった。今言うしかない。
「本当はもうそろそろ新幹線の時間でしょ⁉でもこれだけは伝えたくて、今まで何度も助けてくれてありがとう!私たちずっとずっと友達だよ!」
この言葉を言えてずっと曇っていたはずの心が晴れた。そして誠翔はこう返した。
「もちろんだよ。そしてきっとまたどこかで会える。僕も雲雀に何度も救われたよ。」
また会えると言ってくれて本当にうれしかった。
「雲雀はずっと勉強や運動に関して僕のことをすごいと言ってたけど、僕は雲雀の方がすごいと思ってる。でもそれはお互い様。だから次また会う時までお互い誰にも負けないようにしよう。そして次あった時どっちがすごくて正しかったのか決めよう。」
誠翔の言葉それはこれからの私に元気をくれた。
「うん!約束!誰にもまけない!」
そして新幹線がやってきた。誠翔は香織さんと一緒に新幹線に乗り、お互いを見送った。そして、私は誰もいなくなったのホームで決意した。私は次に誠翔に合うその時まで負けない。そして、次誠翔と再会し誠翔に勝った時に本当は一番伝えたかった言葉、"好きだ"という気持ちを伝える。
それからあっという間に数日が過ぎた。その数日の間は少しでもまことに釣り合うよう可愛く見えるように化粧を覚えたり、いろいろした。今日は中学校の入学式、これからの自分に胸を膨らませ中学校に向かった。