第十九章 彼女を愛した透明人間
夜空には無数の星が輝いている。一つだけ、その星たちよりも大きく輝いている月は、静かに優しい光を地上に放っている。
俺は天から月子を見守る。月の周りで大きく七色に光る輪となり、月子に光を差しのべる。
俺が虹になる時に、月子の目から流れた涙を月子の形見として持っている。
月子の涙を流れ星に変え、月子の元へ届くように、毎晩流し続ける。
その流れ星は、ゆっくり、ゆっくりと流れる。
月子が願い事を叶えられるだけの時間、消えることがないように。
その流れ星の色は、毎晩違っている。
この流れ星は、月子だけに見えている。
俺から月子に、七色の虹をした特別な流れ星として許されたプレゼントだ。
月子は毎日夜空を見上げる。雨の日も雪の日も、月が顔を出せない日も夜空を見上げ、祈り続ける。
そして、俺の命日だけ月子は祈りをやめる。三六四日祈り続け、命日の夜だけ祈りをやめる。
俺は虹の架け橋となり、月虹となる。月子が虹の橋を渡って来られるように月虹となれるのだ。
月子の想いが虹の橋を渡り、俺のところまで届く。
月子が微笑みを忘れないように、俺は月子の心に棲んでいる。
俺は月子に天から呼びかける。
おれも……いつも……いつまでも……君を愛しているから……。
そう……俺は……彼女を愛した透明人間。
俺の周りに吹く風は いつも いつも冷たかった 素顔を隠すため 品疎な心を隠すため 綺麗といえない衣をまとっていた
言葉だけのつながりは 見られたくない姿を隠す道具 偽りの姿をつくった 見えないつながりだから 癒されることができていた
また逢わないの…… その言葉に揺れた心 このままでいい 逢わずにいたい 終わりたい 嫌われたくないこの気持ち
そう…… 逢えば淋しい季節に戻るだけ 終わっていいさ また汚い衣をまとうだけ 冷たい風には慣れている
涙をためる準備をし 瞳がくもっていいように 逢う日 逢うまで 逢ったとき 君はギリシャ神話の女神のよう 白いベールをまとう君
ふたえの瞳は俺の理想 笑うと瞳が輝いた 口に含んだクッキーを キスした瞬間口移し
わずか一本のキャンドルの灯り 右手に持ちあなたと手をつなぎ 口と口を合わせた日 やっとベールの中へ入れた俺 女神の心に触れたんだ 恋しくて……愛おしくて…… 逢ったら後悔すると決めていた俺 恋しくて……愛おしくて…… 悔し涙は嬉し涙にかわったのさ
これは、ぼくの父と母の話だ。偶然に、ぼくは母が父に書いたラブレターを見つけた。そして、同じように父が母に書いたラブレターも見つけた。月虹は、父と母を幸せにしてくれたようだ。
そしてぼくも、こうしてこの世に生まれ、虹という名をもらったのだから。