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8 由来

8 由来


「ねえ、あなたって、何か設定はあるの?」

 メリーさんが突然そう尋ねてきた。

「設定?」

 私はきょとんとして問い返す。

「そう。例えば私の場合、誰かに捨てられた恨みがあるとか、〈テケテケ〉なら電車に轢かれて胴体を真っ二つにされた恨み、とかのルーツ。ないの?」

 人形の顔は無表情だが、その声には微かな好奇心が混じっていた。

「私のルーツ……わかりません。ただ、確かなことは……」

 私は言葉を選びながら続けた。

「周囲のヒトが構造をよく理解していないものに取り憑いて、異常な動作をさせられるってことだけです。」

 メリーさんは小さく首を傾げた。

「ふーん。つまり、あなた自身の過去とか、何で存在するのかとか、そういう設定に基づいて動いてるわけじゃないのね?」

「……はい。」

 メリーさんはしばらく黙り込み、考え込むような様子を見せた。そして、傾げていた首を、人形的な動きでガクリと戻して、こう言った。

「なるほど。それなら、あなたは河童や雪女みたいなものなのかも? 自然に対する畏怖から生まれるタイプの怪異って感じ。」

「河童や雪女……」

 私が言葉に耳を傾けていると、朸込が頷きながら口を開いた。

「それ、意外と当たってるかもね。勝手に動く電子機器とか、なんで勝手に動くのかがわからないブラックボックスが由来なんじゃない? 隙間の怪の能力って、そこに憑りつくものでしょ?」

「なるほど、今どきのポルターガイストってことね。」

 メリーさんがからかうように言った。朸込は腕を組みながら話を続ける。

「改めて考えると、物語から生まれる怪異と、現象から生まれる怪異の二種類あるのか……例えば河童なら、水辺で足をさらわれるとか、雪女なら吹雪の夜に戸を叩く音とか……不安を感じる現象や未知の現象を、妖怪のせいだっていうやつね。最近だと、〈くねくね〉がいい例かも。田んぼとか遠くの山道で、何かがくねくね動いて見えて、正体を理解するとおかしくなるって話。でも、〈くねくね〉がくねくねして見える理由は、じつは陽炎なんだとか、おかしくなるのは熱中症の症状なんだとか、最近、そういう話がバズってたわ。」

 メリーさんが満足そうに頷いて返す。

「ヒトって、自分の知らない現象を妖怪のせいにしたくなるものよ。で、その理由が科学的に説明できると、現実味が増して、余計に信じちゃうんだから。だって、面白いでしょ? 〈くねくね〉が見えたら、氷で頭を冷やせっていう伝承があったら。」

 私は二人の話を聞きながら、自分の能力が何を意味しているのか、少しだけ考え始めていた。私も「現象の理由を押しつけられた結果生まれた存在」だったのだろうか、と。

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