表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

17 4時44分

17 4時44分


 私は死神の腕を掴み、朸込から引き離そうとする。


「やめて!」


「なぜですか? 彼女は拒んでいませんよ。邪魔をしないでください。」


 彼女はまるで虫を払うように、片手を振った。

 私の身体は吹き飛ばされ、視界が回転し、ホームに強かに叩きつけられる。


「っ……!」


 まるで敵わない。死神と私には、朸込の言っていた『影響力』のようなものに天と地の差があるのだろう。死神は朸込に向きなおる。


「さあ、今、解放してあげますからね。」


 朸込は、微動だにしない。


 いくら朸込が拒んでいないからって、死神が間違っていることはわかる。沈黙は沈黙でしかない。朸込は話せないだけ。


 意識を繋ぎ止めながら、私はゆっくりと起き上がる。

 何か方法はないか。私に何ができる?


 朸込に初めて触れられた時の、あの感覚を思い出す。


 朸込を通じて放電したということは、朸込の体には電気的に干渉できるということではないか。

 彼女に電気刺激を浴びせたら、彼女の体は反応するかもしれない。


 視界の端で、電車の灯りが近づいてくる。


 このまま何もしなければ朸込は死ぬ。

 何かしても、そのせいで死ぬかもしれない。




 しかし、私の心は急に澄んでいた。


 無茶苦茶な気付き。でも──何か、本質に触れた気がした。

 そう在れと望まれて生まれたものは、ただ自分の意思に従って動けばいい。

 怪異は、ヒトを傷つけてでも、ヒトを守るために在る。


 朸込に電気刺激を浴びせた。

 その瞬間、朸込の身体が反射的にしゃがむ。


「——っ!?」


 死神が腕を伸ばす。

 しかし、突き飛ばす対象は、そこにはいなかった。


「あら。」


 死神は、虚を突かれたような声を漏らした。


 死神の手は空を切り、そのまま前のめりに倒れて線路に落ちていく。

 電車は減速することなく、そのまま走り去っていく。


 雨の音が、急に大きくなったように感じられた。

 私はホームの床に膝をつく。


 ——終わった?


 私は、這うように朸込の方に駆けつけて、顔を覗き込む。


「朸込さん!」


 彼女は目を見開いたまま、しばらく呆然としていたが、やがて息を整えるように大きく深呼吸をした。


「……やってくれたわね。ふふ。」


 私は、少し遅れて、ほっと息を吐こうとし、


 朸込の背後で、ホームの淵から這い上がってくる腕を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ