17 4時44分
17 4時44分
私は死神の腕を掴み、朸込から引き離そうとする。
「やめて!」
「なぜですか? 彼女は拒んでいませんよ。邪魔をしないでください。」
彼女はまるで虫を払うように、片手を振った。
私の身体は吹き飛ばされ、視界が回転し、ホームに強かに叩きつけられる。
「っ……!」
まるで敵わない。死神と私には、朸込の言っていた『影響力』のようなものに天と地の差があるのだろう。死神は朸込に向きなおる。
「さあ、今、解放してあげますからね。」
朸込は、微動だにしない。
いくら朸込が拒んでいないからって、死神が間違っていることはわかる。沈黙は沈黙でしかない。朸込は話せないだけ。
意識を繋ぎ止めながら、私はゆっくりと起き上がる。
何か方法はないか。私に何ができる?
朸込に初めて触れられた時の、あの感覚を思い出す。
朸込を通じて放電したということは、朸込の体には電気的に干渉できるということではないか。
彼女に電気刺激を浴びせたら、彼女の体は反応するかもしれない。
視界の端で、電車の灯りが近づいてくる。
このまま何もしなければ朸込は死ぬ。
何かしても、そのせいで死ぬかもしれない。
しかし、私の心は急に澄んでいた。
無茶苦茶な気付き。でも──何か、本質に触れた気がした。
そう在れと望まれて生まれたものは、ただ自分の意思に従って動けばいい。
怪異は、ヒトを傷つけてでも、ヒトを守るために在る。
朸込に電気刺激を浴びせた。
その瞬間、朸込の身体が反射的にしゃがむ。
「——っ!?」
死神が腕を伸ばす。
しかし、突き飛ばす対象は、そこにはいなかった。
「あら。」
死神は、虚を突かれたような声を漏らした。
死神の手は空を切り、そのまま前のめりに倒れて線路に落ちていく。
電車は減速することなく、そのまま走り去っていく。
雨の音が、急に大きくなったように感じられた。
私はホームの床に膝をつく。
——終わった?
私は、這うように朸込の方に駆けつけて、顔を覗き込む。
「朸込さん!」
彼女は目を見開いたまま、しばらく呆然としていたが、やがて息を整えるように大きく深呼吸をした。
「……やってくれたわね。ふふ。」
私は、少し遅れて、ほっと息を吐こうとし、
朸込の背後で、ホームの淵から這い上がってくる腕を見た。