表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

13 収穫

13 収穫


「自殺?」

 沼の怪は、髪を指で弄びながら考え込んだ。

「知らないなあ。だって、私は基本ここから動かないし。出歩くの、そんなに好きじゃないのよね……お肌カサカサになるし。」

 私たちは顔を見合わせる。調査一件目にして怪異に出会えたのは幸運だったが、あまり収穫はなさそうだ。


「でも、」


 沼の怪がゆっくりと続ける。

「トモダチなら……何か知ってるかもしれないわ。」

「トモダチ?」

「そう……火消の風っていうの。第一部室棟にいるのよ。」

 その名を聞いた途端、朸込が「はあ?」と大げさにため息をついた。

「火消の風って……私が前に追い払ったやつじゃない?」

「へえ……あんたなんだ。〈光を放つ除霊師〉って。」

 沼の怪は、興味深そうに朸込を見た。

「なにそれ? 私、そんな風に呼ばれてるの?」

 私はそのやり取りを聞きながら、少し戸惑っていた。

「朸込さん……火消の風って何ですか?」

「簡単に言うと、生ぬるい風が吹いて、光を消す怪異よ。」

「光を消す?」

「そう。懐中電灯でも、スマホのライトでも、火でも消してしまうの。一時期、学生の間でも噂になってたのよ。」

「そんな怪異が、自殺の話を知っているかもしれないんですか?」

 沼の怪は、また少し笑う。

「火消の風って、昼間は部室棟の学生たちの話を聞いているのよ。だから、キャンパスの噂話はだいたい知ってるの。このキャンパスの情報屋ね……自殺が続いてる駅の話も聞いてるかもしれないわ。」

「なるほど。」

 私は納得しつつ、しかしどうしても気になったことがあった。

「ところで、朸込さん。どうやってその〈火消の風〉を撃退したんですか?」

「え?」

 朸込は眉をひそめた。

「いや、だって、火も光も消されるんですよね? どうやったらそんな怪異に勝てるんですか?」

「……ああ、それね。」

 彼女は適当に手を振る。

「ケミカルライトを使ったのよ。」

「ケミカルライト?」

「そう、あのポキっと折って光るやつ。あれ使ったら、逃げていったわ。」

「え、それだけ?」

「それだけよ。」

 私は何とも言えない気分になった。そんな……そんな簡単な方法で?

「あなた、顔に出すぎよ。」

 朸込が苦笑する。

「いや、あの……もっとこう、呪術とか、対策を練って戦ったとか……」

「ケミカルライトを折っただけよ。」

 雑すぎる。

「まあ、とにかく、火消の風なら役に立つかもしれないから、一回会いに行ってみたら?」

 沼の怪はそう言いながら、スマートフォンをスワイプする。

「そうね……第一部室棟、久々に行くことになるわね。」

 朸込は私に視線を向ける。

「麻乃華ちゃんも来るでしょ?」

「……興味はあります。」

 私は、自殺についての情報収集以上に、火消の風という存在自体が気になった。


 だが、その時。


「……ん?」

 朸込が何かを見つけたように、岸辺を見下ろした。

「……何かあるわね。」

 私も視線を向ける。

「これ……は……?」

 岸辺の泥の中に、何かが半ば埋もれていた。

 日光に晒された白いもの。

 骨だった。

「……ヒトの?」

 私がそう問いかけると、沼の怪は「あー」と呑気な声を上げた。

 朸込が、沼の怪を見つめる。

「この骨……まさか、あなたが?」

 沼の怪は何も言わない。ただ、ニコニコとこちらを見つめている。


「行きましょう。」

 朸込がそう言うと、私の手を引いた。

「でも……」

「もういいのよ。」

 私は振り返る。


 沼の怪は、ただじっと、沈黙したまま立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ