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レオ、お母さんになる

 本作は中村颯希先生の「無欲の聖女は金にときめく」の2次創作小説です。レオノーラ還俗日の前夜祭として3/31に投稿しました。

 お楽しみ頂けると幸いです。


 指示系列としては第三部の、「1.レオ、陳謝する」の1時間くらい前。第二部の「レオ、ヤな男とタイマンを張る」がお話の下地となっています。



 拙者、番外編の数々の感動エピソードも大好きだけど、本編の守銭奴全開コメディも大好き侍で候

 ハンナ孤児院の玄関先で3人の男がひざまづき、可憐な少女、レオノーラの前で首を垂れていた


 「レオノーラ様、先日はウチ者が大変な粗相を申し訳ありませんでした!」

 「「申し訳ありませんでした!!」」


 (ええと...俺の記憶が正しければ、こいつ、ゾンネベックとかいう、タチの悪い組織の親分だよな。)

 ちなみに残りの2人はバステオとヘルゲ—―雪花祭でみかじめ料の追徴分としてレオにパンをねだっていたところ、機嫌が悪いからという理由で王子に関節を外された男とその子分—―少なくともレオの中ではそういう認識となっている男達だ。


 なぜ彼らがこんな行動をとっているかと言えば、先ほど「ハーケンベルグ伯爵令嬢が、二十人近い手勢を引きつれて孤児院に向かっている」という情報が子分から入ってきたからだ。彼らはその目的を自分達へ「お礼参り」と、そのための情報収集だと考えた。そこで先んじて平身低頭でお詫びと命乞いをしているというわけだ。

 当時、知らなかったとはいえ、やんごとなきご令嬢を恐喝してしまった自分達。また普段の素行が悪い自覚もある。男達は、この謝罪の失敗は、周囲に控える精鋭達に「掃除」されることとイコールだと思っていた。


 真相は先日広場で皇子の婚約者のように周知されてしまった「公開処刑」の失態をレーナに詫びるために、慰問という建前で孤児院へやって来ただけなのだが、彼らはそれを知らない。


 「どうか命ばかりはご勘弁を!もちろん私やバステオもケジメとして腕の一、二本切り落とされることは覚悟しております」

 「腕、いりません、そんなこと、嬉しくないです」


 硬い土の上にぐりぐりと頭をこすりつける3名。守銭奴のレオとしてもみかじめ料の追徴に思うところはあったが、それでもパンをおねだりした位で腕1本切り落すというのは流石にやりすぎではないだろうか。そしてそんなことされても全然嬉しくない、なにせ全くお金にならないのだから。


 「それにバステオさん、乱暴だった原因、私わかります。ずっと飢えていた、耐えがたいほど、でしょう?」

 「なっ...!」

 「それで、あなた達が謝る、不要です。それよりも、いい誠意の示し方、知っているでしょう?」


 バステオが驚いているが、要はお腹が減って気が立っていただけじゃないか。実際に金銭を奪われたわけでもないし、今更謝られてもなぁと思う。それよりは慰謝料として銅貨の1枚でも貰えないだろうか。レオは思うのだ、誠意の大きさとはすなわち金銭の大きさだと。


 「あ、あの具体的にはに私どもは何をもってお詫びとすればよろしいので......」


 おっと、相手は後ろの護衛達にビビっているようだ。ならば少々ふっかけて掛けてみよう。チャンスと見れば遠慮なく、貰えるだけ貰ってしまおうと考えてこそ守銭奴だ。


 「もし叶うなら、私を、あなた達の、お母さんにしてほしい」


 ヤのつく自由業は、弟がアニキに、アニキがオヤジに上納金を収めるシステムだ。もし叶うなら、自分も最も実入りの良いオヤジと同じポジション――女の体だし発言に制約もあるのでお母さんと表現した――にしてもらって、たんまり上納金を頂けないものだろうか。


 「んなっ!?」

 「いえ、失礼、しました。今のはどうか忘れて......お詫びというのなら、どうか皆さん、これから、無償でここの孤児院の皆、守ってほしいです」

 「へ、へい......おやすいごようでさぁ」


 あぶないあぶない、つい魔がさしてしまった。男たちの驚き方を見るに流石に欲張りすぎだったようだ。そもそも、そっち関係への就職は、ハンナ孤児院ではご法度だし、「ねこばは良くても恐喝はNG」と言うレオなりのコンプライアンスもあるのだ。

 ただ、代わりに孤児院に無償で後ろ盾になってもらうことを約束出来た。レオとしては大満足の成果である。


 「孤児院みんな、きっと喜びます。どうか、盾になってあげて下さいね」


 いずれ自分が孤児院に戻って金儲けをする時を考えても、後ろ盾は多い方が嬉しいのだ。それを無償でやってもらうという素晴らしい約束を取りつけたことに有頂天になったレオは、男達にっこりと微笑んだ。


 そして、今後無償で孤児院を守ってくれる約束への感謝と、この後孤児達と話があるので失礼する旨を告げて孤児院へと入っていったのだった


※※※


 レオノーラと別れて少し経った頃、その場で茫然としていた男三人はハッと我に返った。


 「ね、ね、親分、旦那、あれがレオノーラ様なんですよ。俺たちの仕事にも尊敬の念を示してくれてるんです!」

 「うるせえよヘルゲ。ったく、なにが原因がわかるだ。そんなわけねーだろ!」


 ヘルゲはレオノーラの態度にすっかりほだされていたが、バステオはそこまでチョロくはなかった。そして思う、確かに天使のような心の持ち主なのだろう、しかしそれは生れてこの方、ずっと親からの愛情をうけ恵まれた環境で育ってきたからではないか。


 自分たちとて、生まれついての悪人だったわけではないのだ。ヘルゲは母親に育児放棄されていたし、自分は水商売の母に出来た新しい男に、金を稼ぐため花街で体を売るよう強要された過去を持つ。そのトラウマたるや未成熟の女性にしか欲情できなくなったほどである。今代の親分だって似たような境遇だ。そうやって、親の愛情を受けられなかった結果、ぐれたのだ。


 そんな自分たちを拾ってくれたのが、ゾンネベックの先代親分だった。彼は義侠心あふれ、不良達を拾い、一般人には決して手を出さず、みかじめ料も最低限しかとらないような尊敬できる人物だった。その義理の息子として、当時青年だった3人は貧乏ながらも満足のいく生活をしていた。


 しかし下町ではヤの勢力図が大変複雑に展開されていて、その抗争に巻き込まれてあっさりと先代は死んだ。その際、3人は嘆き悲しんだが、庇護されていた町の住民達は「悪人じゃなかったけど、まあ、ヤのつく自由業の人だしね」と淡白だった。そのことに激怒した結果、今代のゾンネベックは質の悪い組織に変貌したという経緯がある。


 「そうさなあ、『お母さんになりたい』なんていうあたり勘はいいんだろうが、なにせ親に愛され恵まれた環境で育ってきたお嬢さんだ。昔バステオが男娼の真似事をさせられた上、逆上した客に片目を切られたことや、義侠心にあふれていた先代が殺されちまった過去なんざ、想像もつかないだろうよ」

 「なるほど、そういう事情がありましたか」


 後方から聞こえた声に三人は、ばっと振り返る。

 そこにいたのは、先ほどもレオノーラの傍に控えていた従者――カイだった。孤児院で「陣構想について秘密のうち合わせをするから」と人払いされ、長い話になると予測されたので、一旦男たちのところへやって来たのだ。不敬にあたる発言を聞かれていたことにゾンネベックの男たちは顔を強張らせるが、そこには触れずにカイは続ける。


 「話はきかせて貰いました。貴方たちなりに事情があることもわかりました。ただ、2つほど訂正させていただきましょう。まず、レオノーラ様は、全てお見通しのうえであの発言をされていますよ。真実を見通すハーケンベルグの瞳の持ち主ですから。その上で貴方たちに更生の機会を与えて下さったのです。」

 「なっ......」


 3人は絶句する。確かに先ほどレオノーラは言っていた


―― あなた達が謝る、不要です。それよりも、いい誠意の示し方、知っているでしょう?

――孤児院みんな、きっと喜びます。どうか、盾になってあげて下さいね


 ヘルゲは、いい誠意の示し方と聞いたとき、法外な慰謝料でも請求書してくるのかと疑った自分を恥ずかしく思った。かの少女は、自分への謝罪など不用だから、更生して今後は弱きを守る盾となって欲しいと言っていたのに!

 そして、それはまさにゾンベックの先代親分がやっていたことではないか


 「また、親に愛され恵まれた環境で育ってきたというのも誤りです。彼女は幼いころに母親を亡くし、その後は卑劣な輩に日も差さぬ牢獄のような場所に監禁され、虐待を受けながら育ったのです」

 「なんだと!?」


 そしてカイは涙ぐみながら、「レオノーラ残酷物語」を続ける。

 それは食卓に着くことも許されず、たまにしなびた野菜や古くなったチーズの欠片を口に押し込まれるだけだった食事風景から始まり、気まぐれで理不尽な折檻を受け、寒さに震えながら寝床を確保し、冷たい雨に打たれ、泥に足を取られながら弱った体で薬草を摘む話だった。


 毎日ハーケンベルグ夫妻に脚色つきの手紙を書くことで磨かれた語彙力と想像力は、えらく残酷でえぐい環境を鮮明に語ることを可能にしていた。


 バステオは思った、自分より過酷じゃないかと。


 「それを踏まえた上で、もう一度レオノーラ様の言葉を思い出してみて下さい」


――バステオさん、乱暴だった原因、私わかります。ずっと飢えていた、耐えがたいほど、でしょう?

――もし叶うなら、私を、あなた達の、お母さんにしてほしい

――いえ、失礼、しました。今のはどうか忘れて


 ああ、認めよう。自分は母親からの愛情に飢えており、そのコンプレックスで乱暴者になった。しかし、より過酷な環境で育った少女は、愛を求めるのではなく、愛を与えたいと考えたのか。そして思わず母親になりたいと口に出したものの、母の愛をしらぬ自分では親代わりにはなれないから、どうか忘れてと――


 大分酷い勘違いだが、カイは先日酔ったとき「僕は……叶うなら、母親になりたかった……!」なんて言っていたし、そう言えばバステオも女性の二つの膨らみについて、迂遠で優雅な表現をする男だった。


 バステオは先日負傷中だったこともあり、レオノーラに「無欲の聖女」という通り名がついた時の光景を見てはいなかった。しかし彼女以上にその名がふさわしい人物はいないことを確信した。


 金欲の塊であるレオに対して、おそらく世界で最もかけ離れた評価である。


 その後、カイはレオノーラの元にも戻り、ゾンネベックの男たちは帰路についた。そうしてアジトへ着く頃には、彼らの心は一致していた。


ーー彼女を悲しませない生き方をしよう


ーー自分のことは顧みず、本当に他人のためにばかり心を砕く、神のごとき高潔な人物、レオノーラ・フォン・ハーケンベルグ。ならば、自分たちは彼女のために心を砕いて生きていこう


――そして願わくば許してほしい、仲間内だけでこっそりと、貴女を「母」と呼んで慕うことを



※※※


 その後、ゾンネベックは大きく組織の方針を変えた。


 それにより構成員から脱退者も出たが、残った者は全員が真っ当な職につき、みかじめ料を取ることを廃止した。つまるところ彼らは、ヤのつく自由業から町を護る自警団とへと転身したのだ。


 時に無償で奉仕活動を行い、時に身を挺して弱き者の盾となる彼らはその後、町の住民から大いに慕われる組織となっていく。さて、そんなゾンネベック自警団には、仲間内だけで通じる、こんな合言葉があった。


 『ゴットマザーを悲しませるな』


 金貨王の治世とゾンネベック自警団の治安維持によって、焼けたパンの芳香が鼻腔をくすぐる東通りは今日も平和である。

 勿論、明日の本祭にも参加します

 早朝にエイプリルフール企画を投稿予定です。


 わたくし、神様の定食屋の3巻のあとがきを読んでいて思ったのだけれど


中村先生が無欲の聖女番外編を投稿された時にみんなでXで拡散したり書籍のレビューを書いたりしてトレンド入りすれば、無欲の聖女も5巻が出たりコミカライズされたりってことが、ワンチャンあるんじゃないかしら??

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