第六章 星の輝き
あかねはラーメン屋での手伝いの帰り道、家まで近道するために、駅の近くの公園を通って帰っていた。公園の中の突っ切っていると、ブランコに一人座る花香を見つけた。
「花香じゃん、こんなとこでどうしたの?」
あかねはそう言って花香のところへ駆け寄った。
「あかねちゃん・・・私、修一郎君に最低なことバレちゃった・・・」
花香は泣きはらした目であかねに言った。あかねは花香を連れて近くのファミレスに入った。
花香はそこで、両親が幼いころに事故に合い、祖父母の元で暮らしていたこと、裕福ではなかった祖父母に迷惑をかけないように、大学入学を機に一人暮らしをしていて、バイトでは生活が出来なかったため、SNSで知り合った人と関係を持ってお金をもらっていることを話した。そして、さっきホテルから出てくるところを修一郎に見られてしまったことを打ち明けた。
「修一郎君凄い顔してた・・・私最低なことした・・・」
花香は泣きながら言った。
「とりあえず修一郎のことはいい。ウチがちゃんと説明するから心配しないで。それより花香はそんなお金の稼ぎ方はやめて。いくら高額だとしても、花香の人生はお金で買えないから。スマホ貸して。ウチが消してあげる」
あかねは花香に水を差し出して言い、半ば強引に花香からスマホを受け取って、花香が連絡を取っていた男のラインの連絡先をブロックしてすべて削除した。
「私の家ラーメン屋なんだけど、パパが倒れちゃって人手不足でバイト募集してるから、よかったら来てほしい。時給は高くないけど、シフトはたくさん入れるから。ウチ花香好きだから花香が辛い思いしてるの嫌だよー・・・」
あかねも少し涙ぐみながら言った。
「うん、心配かけてごめんね。ありがとう、あかねちゃん」
花香は泣きながら言った。
花香が落ち着いてから、2人は晩御飯のミラノ風ドリアを食べた。あかねは今日は頑張ったからと言って、ジェラートとティラミスも頼んで2人で食べた。
「ウチ修一郎と話してくる。明日もまた話そう。それまで元気にしててね」
ファミレスから出るときにあかねはそう言って、花香の手を握った。
あかねは家に帰ると、修一郎の部屋のドアを勢いよく開けた。修一郎は、何をするでもなく、ただベッドに横たわっていた。
「さっき花香に会って、何があったか聞いた。マジでバカだよ。花香に助けてもらったのに何もしないなんて。お前が助けてあげないといけないのに!」
あかねは怒って言った。あかねは花香の両親のことやなぜあんなことをしていたのかを修一郎に話した。
「どうせ連絡先すら聞いてこなかったんでしょ。これで今すぐ話して!」
あかねは花香のラインを修一郎に渡した。修一郎は今まで何度も花香と会ってきたのに何一つ花香のことを知らなかったことに気が付いた。
修一郎は何も持たずに家を飛び出しながら、花香に電話をかけた。
「花香、今どこにいる?」
電話がつながると修一郎は焦って尋ねた。
「修一郎君、ごめんね。私は大丈夫だから、心配しないで・・・」
電話の向こうからはくぐもった花香の声が聞こえた。
「まって、今から会えな・・・」
修一郎がそう言う前に電話は切れてしまった。
修一郎は夢中で走った。道行く人は不思議そうに修一郎を見たが、修一郎はそんなことには気がつかなかった。横断歩道の数十秒の信号の待ち時間すら長く、じれったく感じた。
修一郎はあのビルに向かって走った。自分の吐く息がだんだん荒くなっていくのを感じていた。息を切らしてビルの下までたどり着いた。太陽はとっくに沈んでいて、あたりは暗かった。所々にある街頭や駅や大学、疎らに通る車の明かりだけが周囲を照らしていた。修一郎はビルの反対にまわると、屋上へとつながる外階段の扉と開けた。修一郎は夢中で階段を駆け上がり、屋上につながる扉を開け放した。
***
外階段につながる扉を開き、修一郎は俯いて肩で息を切らした。
「やっぱりいた」
屋上の壁に寄りかかり空を見上げていた花香は驚いて修一郎の方を見た。
「修一郎君・・・」
「よかった・・・」
修一郎は花香を抱きしめた。
「泣いてるの?」
花香も修一郎を抱きしめながらいった。
2人は誰もいない屋上に寝転んで空を見上げた。晴れた空には星が綺麗に見えた。
「もう会えないと思った・・・」
「私最低なことしちゃってごめんね。今まで修一郎君のことわかってたつもりだったけど、全然何にもわかってなかったよね。ここに来たら修一郎ことわかる気がしたの。さっきまで、誰にも会いたくないって思ってたけど、修一郎が来てくれて嬉しかった。私たち一人で頑張りすぎてたんだね。ほんとは助けて欲しかったんだね」
「俺こそごめんなさい。あかねから家族のことも聞きました。いつも俺の話ばっかり聞いてくれて、花香がこんなに大変だったなんて知らなかった・・・。」
「謝らないで、私、星が綺麗ってやっとわかった気がするから」
「・・・嬉しいです。俺も今まで花香のこと何も知らなかったんだって思いました・・・」
「修一郎君、ありがとう。」
「それは俺の方です。・・・でもなんであのとき俺を助けてくれたですか」
「・・・あのとき私もずっと死にたいって思ってた。死ぬ日まで決めてて、その日までは頑張ろうとしてたんだ。でも、修一郎君を見てとっさに助けなきゃいけないって思った。自分がいなくなることはどうでも良かったけど、結局、他人が死んじゃうのは嫌だったっていう、自己中な考えだったんだと思う。死にたい人を助けることが正しいかはわからないけど、助けたからには、修一郎に元気でいてほしいと思ったんだよ・・・。あのとき、私の居場所はハンバーガーショップしかなかったし・・・」
「・・・俺は花香さんに助けてもらってよかったと思ってます。俺こんなですけど、俺も花香さんの力になりたいです。・・・」
「明日もまた、いつものハンバーガーショップで会えますか?」
「・・・うん」
2人の目に映る星空は滲んでいた。