第五章 秋時雨、訪れ
花香と修一郎は電車を乗り継いでゆきの家に向かっていた。
修一郎はゆきの両親とは毎年年賀状をやり取りしていたようだった。修一郎がゆきの両親に手紙を出すと、ぜひ会いに来てほしいという丁寧な返事がきた。ゆきの家はあれから変わっていなかったが、今の家からは電車で2時間ほどかかった。
それほど混んでいなかった車内も、いつのまにか人が下りていき、ついに、花香と修一郎が乗っている車両には、花香と修一郎の二人だけになっていた。
窓から差し込む西日が車内照らしていた。二人は言葉を交わすことはなく、ただ窓の外の風景を眺めていた。二人は終点の駅で電車を降りた。花香は駅の近くの公園で待っていると言って二人は別れた。
修一郎はゆきの家のチャイムを鳴らした。
「遠いのに、ありがとうね」
ゆきの母親が玄関の扉を開けて言った。修一郎はゆきの両親に迎え入れられて家の中に入った。ゆきの母親がお茶を出して、修一郎はソファに座ってゆきの両親と世間話をしたが、修一郎はあまり集中出来なかった。
「・・・ゆきの夢を最近よく見るんです」
話がひと段落したところで修一郎は言った。
修一郎は、父親の病気や、サッカーのことが重なり、死を考えていたことを打ち明けた。そんなとき、夢であの日の出来事のことがフラッシュバックし、ずっとゆきのことで後悔していたことを話した。修一郎は話しながら視界を滲ませた。顔を上げると涙がこぼれそうで、とてもゆきの両親の顔を見ることが出来なかった。
ゆきの両親は涙をこらえて話す修一郎をそっと見守っていた。
「いいのよ、修一郎君。ゆきはここに来たとき、もう長くはないと言われていたの。ゆきはよく修一郎君のことを話していて、修一郎君といると本当に楽しいと言ってたのよ。」
ゆきの母親は修一郎の背中にそっと手をおいていった。
「ゆきはずっと病気がちで、私たちもあの子のためと思いつつ色々と行動を縛ってしまっていたから、修一郎君と一緒に遊んだり、やったことがないことをするのが嬉しかったんだろうな」
ゆきの父親も優しくそう言った。
「修一郎君は昔からずっとゆきのことを気にかけてくれていたんだな。ゆきと仲良くしてくれてありがとう・・・」
ゆきの両親は修一郎にお礼を言って、うずくまるようにして泣いている修一郎の背中を優しくさすった。
修一郎はゆきの仏壇の前で手を合わせた。
「修一郎君がここに来てくれてゆきもうれしいと思うよ」
「うまくいかないこともあるだろうけど、また時間があったら遊びにきてね」
玄関で修一郎を見送りながらゆきの両親はそう言った。
「あと、これよかったらもらってちょうだい」
そういうとゆきの母親は仏壇に備えてあった梨を袋にいれて修一郎に渡した。
「ありがとうございます。また絶対来ます」
修一郎はそう言ってゆきの家を後にした。
花香は公園のベンチで景色を眺めていた。辺りは学生が下校していたり、子供たちが遊んでいたりして賑わっていた。
「花香・・・」
修一郎の声で花香は振り返った。
「梨もらった・・・」
修一郎は梨の入った袋を掲げて赤くなった目で、泣き笑いながら言った。
「うん。よかった・・・」
花香はそう言ってほほ笑んだ。