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雨、星降りて  作者: 野菜
2/9

プロローグ 喜雨は短い

あの雨の日の後、すべてが変わった。


小さいときの記憶はあまり覚えていないが、この日の記憶だけは鮮明に覚えていた。



8月も終わりに近づいた日曜日、その日は朝から大雨だった。

海水浴に行く予定だったが、雨で行くのをやめた日。


私は初めての海を楽しみにしていたから、「海に行きたい」とずっと駄々をこねていた。

そんな私を慰めるために父は車を走らせておもちゃ屋へ行き、私が欲しがっていた「人生ゲーム」を買ってきてくれた。


「花香も6歳になったから遊べるようになったな」


欲しかったゲームをもらって、海のことなんてすっかり忘れて喜んでいる私をみて父が嬉しそうに言った。

それから母と父と三人で私が勝つまで何時間もゲームをした。

ゲームに疲れたころにはお昼になっていた。

3人で家の近くのファミレスに行って、そこで私は初めてパフェを食べた。

その帰り、まだ降りやまない雨の中、父と一緒に傘を片手にスキップしながら家に帰った。


「二人とも濡れるよー」


後ろから見守っていた母がそう言ったが、楽しそうにカメラを向けて私たちの様子を撮っていた。

そのあとみんなで昼寝をして、手巻き寿司を食べた。


「雨の日も楽しかっただろ?」


ベッドに入る頃、父が言った。


「また人生ゲームしたいねー」


母もそう言って、私は


「わたしもー」


と言って二人に抱きついた。



次の日、両親は死んだ。


私の保育園のお迎えの途中で、交通事故に巻き込まれたらしい。

その日は珍しく父と母の二人で迎えにきていた日だった。


それからの記憶はあまりなかった。


私は小学校から高校までの間を祖父母の元で暮らした。祖父母は優しく接してくれたが、私は心を閉ざしていた。どうせまたみんないなくなってしまうんだと思っていた。

どのコミュニティでも友達はいなかった。

そんな私を心配したのか、ある日、祖母は、両親が事故に合う前日の出来事を私から聞いて、


「雨の日にはお父さんとお母さんが花香ちゃんのことを見にきてくれるんだよ」


と言った。子供だった私はそれをずっと信じて、雨の日を待っていた。雨の日は一日中窓の外を眺めていた。

今でも祖母の一言に少しだけ希望を持ってしまう。あの事故は何かの間違いで、次に雨が降った日には、両親に合えるのではないかと考えてしまう。

いつしか私は雨の日が好きになっていた。


勉強は頑張っていたから、大学には進学することができた。両親が教師だったので深く考えずに教育学部に入った。英語が得意だったから英語の教師になればいいかと考えていた。


雨の日は何かが起こると信じている。傘をさして、周りの人の顔もよく見えない中で、私はいつも考えている。

ドラマや漫画では、雨が降るとたいてい良くないことが起きる。そうじゃない。雨の日は私にとって楽しかった日。何か良いことが起こる、いや、起きて欲しいと信じている日。


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