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雨、星降りて  作者: 野菜
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プロローグ 堕栗花 

いつから死にたいなんて考えるようになったのだろう。


暖かい家族も優しい友達もいて、ずいぶんと恵まれた環境なのに。


自分から死ぬのは良くないことだと分かっている。でも、なぜ良くないのかと言われたら自信をもって答えられない。周りの人が悲しむから?たくさんの人に迷惑をかけてしまうから?


じゃあ、ボタンを押すだけで、自分の存在を記憶ごとすべて消してくれる装置があったら、消えてしまうことは許される?


「なんでそんなに死にたいと思うのか?」


自分に問いかけるが、答えは出てこない。


俺は真面目過ぎるのだと思う。


高校3年、進路選択や受験という大きな選択肢を前にして、自分の思うように動くことができない焦燥、期待と将来への不安が溢れて、それに押しつぶされている。


くだらないことだと思う。もっと辛い思いをしている人の方が多いというのに、贅沢な悩みだ。実際、受験というのはただのきっかけに過ぎず、今まで生きてきた中で少しずつ積もっていった負の部分と向き合わなくてはならなくなっただけだ。誰のせいとかではない。いつもなら難なくできていたことがだんだんとできなくなっていった。お風呂も歯磨きも布団をかけて眠ることも・・・。

些細なことで落ち込むことが増えた。誰かの幸せでさえ自分を否定しているように感じ、そう感じてしまう自分も嫌いになった。自分には良いところが一つもないわけではないということは分かっているが、それを信じることができなかった。


ただタイミングが悪いだけなのかもしれない。でも、もう涙さえ湧き上がってこなかった。もう何でもできる気がしていた。さっさと終わらせたかった。


今日初めて学校を休んだ。体だけは丈夫で、一度も学校を休んだことがなかったから変な気持ちだ。罪悪感と安堵が心の中でひしめき合っている。でも、それももうすぐ終わる。


雨粒が腕に落ちたのを感じた。今日は夕方から雨の予報だったが、傘は置いくことにしたのだった。小さな雨粒は、腕に目をやるころには消えていた。そうやって雨が体を叩くのをじっと感じていた。



いつまでそうしていただろうか。ビルの下では徐々に傘を開きはじめる人が増えていった。コンビニのビニール袋を片手に持って、重そうな斜め掛けカバンを肩に下げて信号待ちをしているサラリーマン。子供の手を引き、先を急がせる母親と、それをよそに水たまりで無邪気に遊ぶ子供。雨で濡れる前髪を押さえながら駅に駆け込んでいく女子高生達。そうやって足元に見える人々を当てもなく眺めていた。その誰もが顔を上げて自分に気を止めることはなかった。


雨は無視できないほどに強くなっていた。雨は嫌いだ。べたべたと肌に張り付く、さして綺麗でもない水滴たちは全身を不快にさせた。でも、俺はまだ一歩を踏み出せずにいた。99%はその勇気がなくて、0.5%は今宵の流星群が見られないこと、残りの0.5%くらいは助けを求めていたのかもしれない。

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