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アラカン派遣探索者は意外とヤれる  作者: あおおに


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6/9

アラカン、ヤッてみる

 結局、真桃ちゃんを送りがてら、また食事を一緒にする事になり、アルコールは厳禁とした上で街中華に入った。

 俺もデレデレして付き合ってしまったが、真桃ちゃんも寂しいのかも知れない。

 地下都市(ハーミット)に住んでるという事は地元を離れているという事だし、親や友人にも事実は伏せている筈だ。表向き、彼女は別の場所に住んでることになっているのだろうが、当然簡単には親や友人とは会えない。


 その日は大人しく帰ったが、また真桃ちゃんに振り回される時がすぐに来そうだ。その時は、喜んで振り回されてやろう。





 翌日、カード払いで30万円のボディースーツを買った。

 給料さえ入れば、なんとかなる筈だ、多分。

 手に入れたのは、ダンジョン産の素材で作られた合成繊維のお陰で破格の衝撃吸収性を持つ一品。これまで着ていたスポーツウェアとは隔絶した性能を持っている。

 と言っても、売り場では一番安かった代物である。いっそうの努力を期待したい。


 そして翌々日、まだ月曜日というのに、俺はダンジョンに向かった。

 【縮地】の新たな使い方を試す為だ。いつも通りの金曜日までは待ってられなかったのである。

 しかし、新しいボディースーツを登録申請するのに寄った事務所で、イヤな事を聞いてしまった。

 俺にゴブリン・ウォーリアー6体をなすり付けた金髪小太りが、同じ事務所の探索者だったという。Ꮯ級でゴブリン狩りをメインにしていた金髪小太りは、A級のクセに同じようにゴブリン狩りをやっている俺に苛立っていたらしい。


 だからって、ゴブリンを大量になすり付けるなって話だが、A級のクセに不甲斐ない俺には耳の痛い話だった。

 それを教えてくれた事務所のお姉さんの口調も、心なしかイヤミっぽかった。

 金髪小太りは守秘義務契約書でガチガチに縛られた状態で、地下都市(ハーミット)を追放されたそうな。

 なお、守秘義務契約書は魔術的に効果を及ぼすらしく、最初の面談で俺が使った時に変な感じがしたのは、そのせいらしい。


 という訳で、俺には事務所のお姉さんの鼻を明かすという新しい目的も出来た。

 ついでに、真桃ちゃんが遊びに来やすい様に、もっと大きな部屋に移るという目的もあったりする。

 もっと高性能なボディースーツや武器、ハンドガンなんかも買いたいっていう目的も、あるにはある。

 なんにせよ、今日から俺は新生三烏柔内となるのだ。

 その為に、ゴブリンなんかにつまずいちゃいられないのである。


 入り口から30分程歩いて、草原エリアに到着。

 俺のいつもの狩り場だ。が、目的地はもっと奥。ゴブリンが当たり前に複数で現れるエリア。

 もうしばらく歩くと、出た出た、ゴブリン・ウォーリアーが3体。心なしか、これまで相手して来た連中より強そうに見える。

 俺は【縮地】を起動すると、向かって来るゴブリンたちにチャクラムを投擲した。

 

 ドスッ、ドスッ、ドスッ!

 投げた瞬間、タイムラグなしにゴブリンの身体に食い込むチャクラム。

 致命傷にはならないが、確実にダメージが入った。

 俺はゴブリンたちに駆け寄ると、一番右側の個体の頭部をメイスでぶん殴る。これは、致命傷だ。

 2体目には腹に蹴りを入れて距離を取り、3体目は【縮地】を効かせたメイスを一撃。吹っ飛ぶ3体目を尻目に2体目に追撃を加え、あっさり3体を倒した。


 地に伏したゴブリンの肉体がボロボロに崩れていく。

 他に敵がいないのを確かめ、ホッと息をつく。

 体内の魔力は、ほとんど減っていない。やはり、この戦い方だとスキルの多用が可能らしい。

 俺はチャクラムを拾うと、更に奥のエリアを目指して歩き始めた。




 やがて、周囲は荒れ地エリアへと景観を変える。

 同時に、身長180センチを超える巨体が視界に入る。体重は、軽く100キロを上回ってそうだ。

 オークである。

 ちなみに俺は、身長175センチで体重68キロ。

 絶望的な筋肉量と脂肪量の差。


「ゔぉおおおお〜~〜っ!!」

 豚っぽい雄叫びを上げ、オークが走って来る。

 右手には、イボイボのついた金棒。薄汚れた革鎧。ゴブリンより、小マシな装備だ。ちなみに、オークの持つ金属もゴブリン鉄と呼ばれる。


 俺は剥き出しのオークの顔面に、【縮地】を効かせたチャクラムを投げつけた。

 ズバンと片目を潰して、チャクラムが刃を喰い込ませる。

「ぴぎゃっ!」

 怯むオーク。

 俺はオークに迫ると、【縮地】つきのメイスを叩き込んだ。

 頭部がかち割れる衝撃映像とともに、オークがぶっ倒れる。


 オークの身体が崩れて行くとともに、俺の身体がじわりと熱くなった。さすがに、ゴブリンとは吸収出来る魔力量が違う。

 そして、オークの残骸の山の中に、キラリと光る石が転がっていた。

「これが魔石か」

 青黒く輝くビー玉程の大きさの石を拾い、腰のポーチにしまう。ゴブリンでも上級の個体になると落とすそうだが、魔導具のエネルギー源だ。オークの物で、1個1万円になるらしい。意外と侮れない。


 どうやら【縮地】のお陰で、オーク1体なら問題なく狩れるようになったらしい。

 俺はニンマリと笑った。

 オークは、他に初級ポーションと精力剤を落とす。この精力剤がなかなかの効果らしく、30万で売れるという。1個拾えば、手元に24万入る計算だ。もしもの時の為に、自分の分も取っておこう。

 

 それからの数時間、俺は文字通り「オークの天敵」と化していた。

 荒れ地を縦横無尽に駆け巡り、【縮地】を乗せた超速の打撃と投擲を繰り返す。


 かつての俺なら、オークの怪力に一撃でも掠れば、その瞬間に骨が砕けていただろう。だが、三十万の投資をしたボディースーツは伊達じゃない。俊敏な動きを妨げず、それでいてオークの金棒が空を切る風圧を物ともしない安心感がある。


 1、2、3……。

 倒すたびに魔力が体内へ流れ込み、全身の細胞が活性化していく。

「……よし、これで10体目か」

 ポーチには10個の魔石。そして幸運なことに、例の「精力剤」の瓶も二つほど手に入った。一瓶24万。二つで48万。ボディースーツの代金どころか、来月の家賃や遊興費まで一気にまかなえる計算だ。


 心地よい疲労感と高揚感を抱え、俺はダンジョンを後にした。

 




 ダンジョン外の派遣事務所。

 ドロップアイテムの売買手続きをしてくれるのは、例のイヤミなお姉さんだ。彼女は俺の顔を見るなり、あからさまに「また来たのか」という顔をして、爪をいじりながら言った。


「お疲れ様です。……今日は早かったですね。また初級ポーションですか?」

 相変わらずの塩対応だ。A級の皮を被った「ゴブリン狩り専門」だと侮っているのが透けて見える。


 俺は黙って、テーブルの上にドロップアイテムを並べた。

 まずは、オークの魔石が十個。

「え……?」

 お姉さんの指が止まる。

「これ、全部オークの……? いや、でも、あなたは確か草原エリアで……」


 俺はさらに、無造作に精力剤の小瓶を二つ並べた。

「追加だ。ついでに、これも査定頼むわ」

「……精力剤!? これ、ドロップ率低いはずじゃ……。しかも2つも?」

 お姉さんの顔から余裕が消えた。彼女は慌てて端末を叩き、俺のIDカードと照合する。


「ちょっと待ってください。……単独ですよね? 三烏さん。……えっ、討伐記録、オーク十体……所要時間は……3時間以内?」

 彼女の大きな瞳がさらに見開かれる。


 草原エリアでゴブリンに苦戦していたはずの男が、いきなり上位エリアのオークを乱獲してきたのだ。この異常な効率向上を前に、彼女は言葉を失っている。


「査定、早くしてくれないか。腹が減ってるんだ」

「あ、は、はい! ただいま! ええと、魔石10個で10万円、精力剤が買い取り一瓶30万円……。ギルドの手数料と税金を引いて……合計、56万円になります……!」

 支払いの手続きをする彼女の手は、明らかに震えていた。


 さっきまでの「小馬鹿にしたような視線」はどこへやら、今は畏怖と驚嘆が混じった、いわゆる「強者を見る目」で俺を見ている。

 俺はキャッシュカードを受け取り、軽く手を振って事務所を離れた。


 背中越しに、「失礼いたしましたっ、またのお越しをお待ちしております!」という、今まで聞いたこともないような営業スマイル全開の声が聞こえてきたが、あえて振り返らなかった。


 うん、ちょっとこっちがイヤミだったね。こういうのは、今回限りにしておこう。

 




 その夜、俺は一人、馴染みの一品料理屋『はるか』の暖簾をくぐった。

 店内は出汁のいい香りが漂い、温かな雰囲気に包まれている。


「いらっしゃい、三烏さん。今日はいい顔してるわね」

女将が、にこやかに出迎えてくれる。

「ああ、ちょっといい稼ぎになったからさ。今日は贅沢させてもらうよ」


 俺はまず、キンキンに冷えた生ビールを注文した。

 お通しの冷奴を突きながら待つこと数分。目の前に黄金の液体が現れる。

「……くぅぅぅっ!!」

 喉を鳴らし、一気に半分ほど飲み干す。

 五臓六腑に染み渡るとはこのことか。命を懸けた狩りの後の酒は、何物にも代えがたい。


「はるかさん、とりあえず『焔地鶏の塩焼き』と『ソードカツオのタタキ』。あと、お勧めの日本酒も一合、冷やで頼むよ」

「はいよ。奮発するじゃない」

 次々と運ばれてくる絶品の料理たち。

 皮はパリッと、中はジューシーに焼かれた地鶏。薬味がたっぷり乗った旬のカツオ。それらを上等な酒で流し込む。

 

 脳裏には、今日倒したオークの感触が残っている。

 確実に強くなっている。

 あの金髪小太りも文句は言えないだろう。事務所のお姉さんの驚き顔も拝めた。

 次はもっといい部屋だ。真桃ちゃんを呼んでも恥ずかしくないような、広くて綺麗な部屋。そして彼女に美味しいものを奢ってやろう。


「新生、三烏柔内。……悪くない出だしだな」

 俺は独りごちて、最後の一杯を飲み干した。


 明日の筋肉痛すら、今は心地よい勲章に思えた。

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