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アラカン派遣探索者は意外とヤれる  作者: あおおに


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4/7

スキルの可能性

 金曜日。

 朝からダンジョンに潜る日。

 一応、そう決めている。土日休みの人たちと同じに、「明日から休みだ」という気持ちになれる様に。ただ俺の場合、木曜まで休みなんだけど。

 まあ、そこはそれ。

 俺はいつものスポーツウェア姿でダンジョンを歩いていた。


 最初はあれだけビクビクしていたダンジョンももう慣れたもので、入り口から30分以上かかる場所を鼻歌まじりでうろついている。

 辺りは、見通しの良い草原エリア。

 出て来るのは、小剣で武装したゴブリン・ウォーリアーたち。

 こいつらが、ゴブリン鉄でできた小剣や初級ポーションを落としてくれるのだ。

 ドロップ数は、8時間やって、どちらも1〜2個。


 それも適性がAクラスの俺だからそれだけの数が出るが、他の人だと2~3回の探索で戦果なしなんて事もザラらしい。

 どうりで、真桃ちゃんみたいな美女がほいほい食事について来る訳だ。

 ちなみに彼女は、芸能事務所の斡旋でダンジョンに来たらしい。

 芸能事務所もダンジョン事業に手を出してるという側面もあるが、ダンジョンでレベル上げをすると見た目が良くなるって言うんで、タレントの卵が送り込まれて来るんだそうな。


 真桃ちゃんなんて、今でもびっくりするぐらいに綺麗なのに、これ以上綺麗になっちゃったら、まともに目線が合わせられなくなるよ。

 でも、もしかして俺もレベルが上がったら、イケオジになれるのかな?

 だったら、探索にも力が入るってなもんだ。

 そんな訳で、出会うゴブリン・ウォーリアーを片っ端から倒していく。この辺りは、敵も単体で出て来るので、危険度も低い。


 が。

 こちらに向かって一直線に走って来る人影が目に入った。

 スポーツウェアの上に革鎧を着た探索者だ。まだ若そう。そして、金髪、小太り。

 その後ろから、数体のゴブリンが追いかけて来ている。いわゆるトレインてやつだ。

 俺もとっさに逃げ出そうとした。巻き込まれては、堪らない。


 と。

「おい、力を貸してくれ!2体もってくれたら、後は俺がやるから!!」

 走って来ながら男が叫んだ。

 2体ぐらいなら、なんとかなる。

 俺は一本手裏剣を2本投げると、端にいた2体を自分に引きつけた。

 残りがまだ4体いるが、それを相手取れるとは、金髪小太りニーチャンも見かけにはよらないものだ。


 が。

 男は、全速力のまま俺の横を駆け抜けて行った。

「え!?」

 当然の様に、俺が引っぱった2体だけでなく、残りの4体も俺に向かって来る。

「え!?」

 だ・ま・さ・れ・た・!!


 俺は【縮地】でゴブリンたちの背後を取ると、ヤケになってメイスを振り上げた。





 ボロボロの状態で、俺はなんとか砂漠エリアの安全地帯まで戻って来た。

 金髪小太りの件は、すでにスマートゴーグルの映像とともに事務所に送ってある。後は、上の方でなんとかしてくれる筈だ。

 怪我の方も、念の為に取っておいた初級ポーションを飲んだら、動ける程度には治った。

 まだあちこちが痛いが、傷は塞がったみたいなので、問題ないだろう。


 血糊がついて破れまくったスポーツウェアに、他の探索者たちがびっくりしているが、俺はそれどころではない。

 やがて目当ての人間を見つけると、小走りに近寄った。

「真桃ちゃん、頼みがある!」

「え?えぇっ!?オジサン、大丈夫なの!?」

 キツネ面の女性、月ノ宮真桃が俺の姿を見て、あたふたしている。


「大丈夫。ポーションは飲んだ」

 俺は背中に負っていたザックから、ゴブリンの小剣を2本取り出した。

「チャクラムって作れるか?」

「チャクラムって、あのドーナツみたいな?」

「そうそう。古代インドで生まれた投擲武器のチャクラムだ」


「適当な大きさの輪っかを作って、外側を刃物にしたら良いのかな?」

「ああ、そんな感じ。試しに作ってよ」

「良いけど、どうしたんですか?その怪我と関係あり?」

 どうやら、真桃ちゃんは心配してくれているらしい。

 俺は真桃ちゃんの前に腰を下ろすと、金髪小太りの件を話す事にした。





「それで、もう一回【縮地】を使おうとしたけど、やっぱり魔力不足で発動しなくてさ、そこから手裏剣を投げたら手裏剣が瞬間移動して・・・」

 一本手裏剣ていうのは、投げた瞬間は刃先が上を向いている。そこから目標に届くまでに90度回転して、初めて刃先が前を向くのだ。

 【縮地】の効いた手裏剣は、回転する間もなく刃先を上に向けたまま、ゴブリンの頭にぶち当たった。

 結果、ゴブリンは痛がっただけだったが、投げる物に【縮地】が効くのなら、これを利用しない手はない。瞬間移動して来る物など、避け様がないからだ。


 が、一本手裏剣ではダメだ。

 回転する間がなければ、目標に刺さらない。

 どんなタイミングで目標に当たってもダメージを与えられる投擲武器・・・俺が思いついたのが、外周の全てが刃物になっているチャクラムだった。

「なるほど。そういう理由ですか。じゃあ、頑張ってみます」 

 真桃ちゃんは頑張って、小剣2本からチャクラムを4枚作ってくれた。


 その後は医務室に連れて行かれ、やけにマッチョな医者(?)から治癒魔法をかけてもらい、痛みまで消え去った。治療代1万5000円・・・。

 スポーツウェアはもうダメなので、廃棄した。

 そろそろ給料日なので、それで安めのボディースーツを買うしかない。

 俺がげっそりしていると、真桃ちゃんがまた食事に付き合ってくれた。いや、お金を払うのは、俺なんだけどさ。


 今日は、初めて入る居酒屋だ。

 値段も安いし、ダンジョン産の謎料理も多かったので、面白がって色々頼んでみた。

 酒も色々飲んだ。

 真桃ちゃんが潰れた。

 ・・・・・。


 20才ぐらいでは、まだまだ酒に慣れてなかったのだろう。

 仕方なく、おぶって自分の部屋まで連れて来た。途中、人目が痛かった。警察に通報されてないだろうか。いや、冗談抜きで犯罪だよね、これ。

 真桃ちゃんをベッドに寝かせると、コーヒーを淹れてデスクセットに陣取った。

 ゴブリン・ウォーリアー6体相手に死闘を繰り広げたせいで身体は参っている筈なのだが、眠気なんぞやって来そうにない。おぶってて分かったのだけど、真桃ちゃんの魅力はお顔だけではなかったのだ。

 芸能人、恐るべし!


 しかし、死闘を乗り越えたお陰で、次のダンジョン行が楽しみになった。

 チャクラムもそうだけど、【縮地】のもっと効果的な使い方が判明したのだ。

 スキルの部分起動とでも言うか、片手だけ【縮地】を効かせるなんて事に成功したのである。

 つまり、メイスを持った右手だけに【縮地】を効かせた訳だ。効果は覿面で、ゴブリンたちは受ける事も躱す事も出来ず、メイスで頭をカチ割られる事になった。

 

 全身に【縮地】を効かせるのは1日に2回が限界だったけれど、片手だけや投擲武器にかけるのなら、はるかに回数を増やす事が出来る。

 これは、俺にとって何よりの朗報だ。

 次からは、もっと深部に潜れるだろう。もっと稼ぎを増やせるだろう。

 俺は、自然と湧いてくる笑みを抑えられずにいた。


 もっと深部に潜れるようになったら、お金も入って来て、イケオジ度も上がって、下半身の方も復活して来て・・・。

 ははは。頭の中がピンクに染まってきた。

 俺はベッドで寝入っている真桃ちゃんに指先を向けると、「無事に帰すのは、今晩だけだぜ」そう言って、一人で笑い転げた。


 あかん。やっぱり酔ってるわ。


 結局、そのまま椅子に座ったままうたた寝してしまったらしい。

 ふと目を覚ますと、窓の外はまだ薄暗く、時計は朝の五時を指していた。コーヒーはすっかり冷めている。身体を伸ばすと、あちこちが軽く軋んだが、昨日の痛みはほとんど残っていない。さすがは治癒魔法だ。

 

ベッドの方を見ると、真桃ちゃんは毛布をしっかり抱き込んで、規則正しい寝息を立てていた。無防備だが綺麗な寝顔に、少しだけ視線を逸らした。


「……ほんと、芸能人だな」

 誰に言うでもなく呟くと、キッチンに向かってもう一杯コーヒーを淹れる。今度はちゃんと温かいうちに飲んだ。胃に落ちていく感覚が、妙に落ち着く。


 しばらくして、ベッドの上でごそごそと動く気配がした。

「……ん……あれ……?」

 目を擦りながら起き上がった真桃ちゃんが、状況を理解するのに数秒かかった。


「ここ……オジサンの部屋……?」

「そう。居酒屋で潰れてたから、運んできた」

「うわぁぁ……ごめんなさい……」

 顔を真っ赤にして、ぺこぺこと頭を下げる姿に、思わず苦笑する。


「別にいいよ。ちゃんと無事だしな」

「無事って……変な意味に聞こえます……」

「考えすぎだ」

 そんな他愛のないやり取りをしながら、軽く朝食でも、という話になった。冷蔵庫を開けると、卵とハム、それから昨日買った安い食パンがある。


「簡単なのでいいか?」

「はい、むしろ助かります」

 フライパンでハムエッグを焼き、トーストを並べる。ダンジョンだのスキルだのとは無縁の、ごく普通の朝の光景だ。


「なんか……こういうの、いいですね」

 ぽつりと真桃ちゃんが言った。

「何が?」

「普通の生活っていうか……ダンジョンの外の時間って、ちょっと安心します」


 その言葉に、俺は少しだけ頷いた。

 危険も、金も、妙なトラブルもあるダンジョンだけど、こういう時間があるから続けられるのかもしれない。

 そんな事をぼんやり考えながら、俺たちは静かな朝食をとった。

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