初ダンジョン探索
第一話を投稿したところ、割と反応が良かったですね。
やっぱりAIに頼らない方が良いのか、それとも僕がAIを使いこなせてないだけなのか・・・。
そして――その日が来た。
ダンジョン探索初日。
朝、指定された集合場所に向かうと、すでに十数名ほどの探索者たちが集まっていた。若い連中が多いが、俺と同年代、あるいはそれ以上に見える者もちらほらいる。皆それぞれ武器や防具を身に着け、いかにも「それっぽい」雰囲気を漂わせていた。
スライムやゴブリンを相手とする、迷宮適性の比較的低い人たちだ。が、適性が低いからと言って、弱いとは限らない。迷宮の深部に潜るのに向いていないだけで、彼らの中にも猛者はいる。
その中で、俺だけが妙に浮いている気がする。なにせ装備が事務所の支給品であるスポーツウェアに、腰に短剣一本だ。ただ、このスポーツウェアは迷宮素材を使った、防刃効果を有した一品である。
「三烏さんですね?」
声をかけてきたのは、三十代前半くらいの女性だった。動きやすそうな革鎧に身を包み、腰には細身の剣を提げている。関係ないが、ずいぶん綺麗な方だ。
「本日、同行するパーティーのリーダーを務めます、佐伯です」
「三烏です。よろしくお願いします」
頭を下げると、佐伯は軽く頷いた。
「今日は入り口付近の低危険区域での実習です。基本的には見学と補助。無理に前に出る必要はありません」
「了解です。足手まといにならないようにします」
「最初は皆そうですから、気にしなくていいですよ」
淡々とした口調だが、どこか安心感があった。
この中では俺が一番迷宮適性が高いのだろうが、今は一番の雑魚だ。この安心感は、ありがたい。
やがて全員が揃い、俺たちはダンジョン入口へと向かう。地下都市の一角にある巨大なゲート。その奥に、例の“異界”が広がっているらしい。
ゲートをくぐった瞬間――空気が変わった。
「……うおっ」
思わず声が漏れる。
そこは、薄暗い石造りの洞窟……かと思えば、その先には木々が生い茂る森が見える。さらに奥には、なぜか砂地のようなエリアまで覗いていた。
「これが、ダンジョン……」
「環境がパッチワーク状に繋がってるのが特徴です。油断すると迷いますよ」
佐伯が説明してくれる。
まるで世界がバラバラに切り貼りされたような空間。
現実感が、まるでない。
「さて、行きます」
佐伯の号令で、パーティーが動き出す。
俺はその最後尾についていく形だ。
しばらく進むと、ぬるりと湿った音がした。
「来たな、スライムだ」
前衛の男が呟く。
視線の先には、半透明のゼリー状の物体が蠢いていた。ゲームで何度も見た、あのスライムそのものだ。
「ピョンピョン跳ばないんですね……」
「跳ばないな。ただ溶かしてくるから注意しろ」
軽口を叩きながら、前衛が一撃で切り裂く。スライムは抵抗らしい抵抗もなく、ぐしゃりと崩れた。
「……あっけない」
「この辺りは雑魚ですから」
その後も、数体のゴブリンが現れた。緑色の小柄な人型。こちらは多少の知性があるのか、石のナイフを持って襲いかかってくる。
「一体任せるぞ」
そう言われ、別の探索者が軽やかに前に出ると、あっという間に首を刎ねた。連携に慣れた、危なげない動きだ。
戦闘は、思ったよりも現実的で、そしてあっけなかった。
だが――
「三烏さん、これ持って」
「え?」
倒されたスライムの残骸から、小瓶が取り出された。
「初級ポーションです。運がいいですね」
「これが……」
透き通った液体が入った小瓶。これ一つで、8万円。
「俺、まだ何もしてませんが……」
「同行者にも分配はあります。研修ですから」
なんとも現実的な話だ。
その後も何体かモンスターを倒しながら進む。俺は基本的に見ているだけだったが、それでも緊張で汗が止まらない。
そんな時だった。
ゴブリンが二体、こちらに突っ込んできた。
「一体抜けた!」
誰かが叫ぶ。
もう一体は処理されたが、一体がこちら――俺の方へ向かってきた。
「うおっ!?」
足がもつれる。
逃げなきゃいけないのに、体が言うことを聞かない。
その瞬間――
視界が、ぶれた。
いや、違う。
気付けば俺は、数メートル後方に立っていた。
「……は?」
自分でも分からない。
さっきまで目の前にいたゴブリンは、空振りして体勢を崩している。
「今の……三烏さん!?」
佐伯の声が響く。
その隙にゴブリンは倒され、戦闘は終わった。
「え、いや、俺……」
「今の、スキル発動ですよね?」
「スキル?」
言われて、ようやく気付く。
さっきの感覚。
一瞬で距離が“飛んだ”。
「……【縮地】?」
なぜか、その言葉が頭に浮かんだ。
「短距離転移系……当たりスキルですね」
誰かが呟く。
「ただ……」
俺は膝に手をついた。
「……きつい」
全身から力が抜けるような感覚。まるで全力疾走を何本もやった後のような疲労。
「魔力消費が大きいタイプですね」
佐伯が冷静に分析する。
「使いどころは選ぶ必要がありますが、強力です」
強力、らしい。
だが、今の一回で、もう二度と使いたくないと思うほど消耗した。
「本日はここまでにしましょう。十分な成果です」
こうして、俺の初ダンジョンは終わった。
それから三週間。
研修期間として、俺は何度かダンジョンに潜った。
結果から言えば――
「まあ、期待ほどではないですね」
村松氏は、少しだけ苦笑いを浮かべた。
「すみません……」
「いえいえ。初級ポーションを安定して持ち帰れているだけでも上出来です」
確かに、俺は毎回1本か2本はポーションを拾っている。
だが、Aクラス適性者としては“普通よりちょっと良い程度”らしい。
探索が大体週一ペースなので、ポーションの獲得数も5〜6本となる。慣れれば、もう少しペースを上げられるかも知れないが。
「スキルの使用回数が限られているのがネックですね」
「一日……二回が限界です」
「消費魔力型ですね。長期的には伸びる可能性もありますが、現状は慎重運用が必要でしょう」
つまり、切り札ではあるが、常用はできない。
「というわけで、三烏様には当面、ソロでの低危険区域探索をお願いすることになります」
「ソロ、ですか」
「ご自身のペースで、無理なく稼いでいただく形ですね」
――そうして。
俺は一人でダンジョンに潜るようになった。
「……さて」
今日もまた、ダンジョンの入口に立つ。
パーティーの賑やかさはない。あるのは、自分の足音だけだ。
武器は、長さ60センチ程のメイスと予備のナイフ。頭部には、通信、索敵、簡易鑑定、それにマッピング機能を備えたスマートゴーグル。
これらは、事務所からのレンタル品だ。
あと、いざという時の為に拳銃が欲しいが、これは自分で買うしかないので、まだ手に入れていない。
なお、ダンジョン内では銃器や刃物の所持が許可されている。
「まあ、気楽でいいか」
そう呟いて、一歩踏み出す。
スライムを見つけては倒し、ゴブリンを見つけては距離を取りながら確実に仕留める。危なくなれば、無理はしない。
そして、時折――
「……ここだな」
確実に仕留めたい場面でだけ、【縮地】を使う。
一瞬で距離を詰め、あるいは離脱する。その性能は確かに強力だ。
だが、使用後はしばらく動きたくなくなるほど消耗する。
「便利だけど……燃費が悪過ぎるな、こりゃ」
苦笑しながら、小瓶を拾い上げる。
「お、ポーションか」
今日の成果、一つ目。
派手さはない。英雄的でもない。
だが――
「……悪くないな」
アラカン男の第二の人生としては、上出来だろう。
俺、三烏柔内。六十手前にしてダンジョン探索者となった男は、今日も地道にスライムを狩り、ポーションを集めて生きていくのだった。




