ダンジョンて、ホントにあるの?
リハビリ第2弾となります。
今回もAIさんに協力いただいてますが、前作よりは大分控え目になっています。
その分、僕らしい文章になってれば良いのですが。
俺、こと三烏柔内は、もう60才が見え始めたところで失業する事となった。
新しくやって来た上司と、どうしてもソリが合わなかったのだ。神経を病みそうになって、会社から逃げ出した訳である。
しかし、そのまま悠々自適な老後が送れる程の蓄えなんぞある筈もなく、俺は早々に次の仕事を探す必要があった。
が、アラカンである。
ロクに技能さえ持たないアラカンである。
あ。アラカンて言うのは、アラウンド還暦(60才)って意味ね。アラフィフの一つレベルが上がった奴。
で、そんなアラカンが就職活動するなんて、大変なのが目に見えてる訳だ。
俺は、安直に派遣会社の門を叩いた。
「どうぞ、お掛け下さい」
派遣会社の担当者は、俺よりはるかに若く、俺よりはるかにモテそうな男だった。
だが、俺がアラカンだと知っても迷惑がる様子もなく、にこやかな態度を崩そうとしないところは好感が持てた。
「わたくし、担当の村松と申します」
「三烏です。よろしくお願いします」
余所行きの表情で頭を下げる俺の前に、村松氏は水晶かガラスか何か透明な素材で作られたオブジェを差し出した。
「ごく簡単な健康チェックみたいなものです。一度これを触っていただけますか?」
「は、はぁ」
俺の知らない間に、健康チェックの技術革新があったのか?
もし、オカルト的な話なら、早く逃げ出さないと・・・。
逡巡しながらも、俺は手を伸ばした。
中指の先だけで、軽くタッチする。
硬質な感触。
しかし、冷たくはない。
むしろ温かいような・・・と、いきなりオブジェが青い光を放った。
思わず目を背けてしまった程の強い光だ。
「わわっ!」
慌てた俺が手を離すと、光も静かに収まった。
手を引っ込めた姿勢のまま、しばしフリーズする俺。
オブジェの向こうで、やはり村松氏もフリーズしている。が、村松氏のその口許に浮かんでいるのは、喜びの笑みか?
やがて、村松氏は絞り出すように言葉を発した。
「・・・ひ、光りましたね」
「ひ、光りましたが・・・?」
「それも、盛大に」
「けっこう眩しかったてすけど、それが何か!?」
「よろしい、三烏様、ここからは内密の話となります」
「えぇっ!?」
村松氏は1枚の書類を差し出した。
「守秘義務契約書です。これに、サインを」
「いや、ここからは私が聞く必要がある話なので?」
「もちろんです!これは、三烏様にとって大きなチャンスです!」
やけに熱が入った様子の村松氏。明らかに先程までと目の輝きが違う。
そして、守秘義務契約書をしつこく押し付けて来る。
「分かりましたから!」
仕方なく俺がサインをすると、何か身体から抜けて行くような不思議な感覚が。
「・・・!?」
「おや、何か感じられましたか?さすが、高位適応者になると違いますね」
「高位適応者?」
「そう、高位適応者です。今から詳しい話をさせていただきます」
村松氏は姿勢を正した。
「今触っていただいたのは、迷宮適性を調べる簡易装置です」
「めいきゅう・・・適性?」
「迷宮てす。ゲームやラノベでいうダンジョン」
「ダンジョンって・・はぁ!? あのダンジョンですか!?」
アラカンだとて、ゲームもすればラノベも読む。特に、俺はダンジョン探索ものが好きだった。
「ダンジョンをご存知なら話は早い! まさに、そのダンジョンへの適性が三烏様は高いという事です」
なんだか、興奮気味の村松氏。
「いやいや、その前に、まずダンジョンが実在する前提で話をされても・・・」
「そうですね。まずは、これを見ていただきましょう!」
村松氏は近くのPCのモニターを持って来ると、いくつかの資料や映像を俺に見せながら、滔々と説明を始めた。
それは平安時代の日本で一つのダンジョンが発見されてから、それが秘匿されながら歴史の裏側で争奪合戦が繰り返され、第二次世界大戦後になって遂に大がかりな利用方法が確立され、現在に至るというものだった。
ダンジョンは、実在したのだ!
そして、なぜか秘匿されているダンジョンに、俺なんてアラカン親父が誘われている理由だが。
「ダンジョンと言うかダンジョン内に充満する魔力には、適性がありまして、適性が低いとダンジョンに居るだけで肉体的にも精神的にも著しく消耗します。逆に適性が高ければ、ダンジョンに居た方が体調が良くなります。三烏様、先程の光の強さからして、貴方の適性はAクラスてす。これは、日本人全人口の0.05%程の上澄みと言えます」
「それって、相当・・・」
「そうです! 相当に有利なお話です! もう、年齢なんか関係ないぐらいに、てす!」
なにか、ますます熱が入って来る村松氏。
「三烏様に斡旋出来る業務は、迷宮探索者もしくは迷宮行動体討伐者ですね」
「それって、わたしの想像が間違ってなければ、かなり物騒な仕事なのでは?」
「大丈夫です。一人でやれって訳ではありませんし、ちゃんと先輩探索者が指導を行いますから」
「でも、怪我したり、下手したら生命にかかわる様な目に合うんじゃ・・・?」
「本当にご心配なく。安全マージンは十分に取っています。ここ20年での死傷者数は、普通の工場の死傷者数と大差ありません」
村松氏はグイグイ推して来る。そのグイグイさに呑み込まれそうで、俺はどんどん逃げ腰になる。
「な、なんで、そこまで推して来るんですか、こっちはアラカンの爺ぃですよ?」
「先程も申しました通り、Aクラスという適性の前には、年齢など関係ありません! 50才や60才でも、大きな戦力となり得ます。そしてここからが大切なのですが、適性が高ければアイテムのドロップ率が高まります。ドロップアイテムは派遣事務所が代行して売買を行い、売り上げの1割を手数料としていただく事になっています。つまりぶっちゃけて言うと、三烏様が探索者をやっていただけると、事務所が儲かる公算が高いのです!」
「そ、それはまた、ぶっちゃけましたね。でも、ドロップアイテムって、どれぐらいの金額で売買されるのですか?」
「分かりやすい例で言えば、初級ポーションの買い取りが10万円前後ですね」
「え?では、探索者には9万円が?」
「いえ、税金が引かれますので、実際は8万円程になります」
「それでも、8万円ですか・・・」
「初級ポーションでしたらスライムやゴブリンも落としますので、Aクラスならば月に3〜4本取得する事も可能ですよ」
「じゃあ、月収30万前後に・・・」
「基本給が別にありますからね。20万円。そこに残業代、ドロップアイテムの買い取り代が加わりますので、三烏様なら月収50万は堅いですね」
「う・・・!」
基本給20万円てだけでも、普通なら喜んで働かさせてもらうところなのに、月収50万円!?
「ぜひ、お願いします」
俺は慌ててに頭を下げた。
「おお、そうですか。Aクラスの方をスカウトしたとなったら、私の評価もアップします。こちらこそ、ありがとうございます」
村松氏はさわやかに笑いながら手を差し出して来る。俺はその手を取り、がっちりと握手をかわした。
そこからの展開は、あまりにも早かった。
契約書類をいくつか書かされ、健康診断という名の精密検査を受け、気が付けば三日後には新幹線に乗せられていた。行き先は西日本、中国地方の某所――地名は最後まで教えてもらえなかった。
「到着したら分かりますので」
村松氏はそう言って、にこやかに笑うだけだった。
やがて降り立った駅は、ごく普通の地方都市に見えた。人の流れも、駅前の風景も、何一つ特別なものはない。だが、そこから黒塗りの車に乗せられ、人気のない山道へと入っていくと、空気が変わった。
辿り着いたのは、古びたトンネルだった。
「ここから先が、三烏様の新しい職場になります」
そう言われて案内されるまま歩いていくと、やがてトンネルの奥に巨大な金属扉が現れた。まるで映画に出てくる秘密基地の入口のような代物だ。
厳重な認証をいくつも通過し、その扉が重々しく開いた瞬間――俺は思わず息を呑んだ。
「……なんだ、こりゃあ」
そこに広がっていたのは、地下とは思えないほどの巨大空間だった。
天井は遥か上方にあり、人工の光が昼のように空間を照らしている。高層ビルのような建物が立ち並び、道路には車が走り、人々が普通に生活している。まるで一つの都市が、そのまま地下に移されたかのようだ。
「地下都市へようこそ」
村松氏が誇らしげに言った。
「ここには現在、およそ三十万人の迷宮適性者が居住しています。探索者だけでなく、研究者、整備員、商人、家族連れまで含めて、一つの社会が形成されているのです」
「三十万……」
俺の頭は、すぐにはその数字を受け入れられなかった。
地下に、そんな規模の人間が?
だが、目の前の光景がそれを否定させてくれない。
「まずは住居へご案内します」
都市の一角へと連れて行かれ、エレベーターで数階分ほど降りる。通されたのは、簡素だが清潔なワンルームだった。ベッド、机、小さなキッチンとユニットバス。独り身の俺には十分すぎる。
「こちらが三烏様のお部屋になります。家賃は給与から天引きですが、かなり低く抑えられていますのでご安心ください」
「いや……十分です。むしろ上等すぎる」
思わず本音が漏れた。
失業して路頭に迷いかけていたアラカン男にとっては、まさに天国のような環境だ。
「初回の探索は一週間後になります。それまでは自由行動です。都市内の施設を見て回っていただいて構いませんし、簡単な基礎講習も任意で受講できます」
「一週間後か……」
まだ実感はないが、俺は本当にダンジョンに潜るらしい。
あの、ゲームや小説でしか知らなかった世界に。
「無理に焦る必要はありません。まずは慣れるところから始めましょう」
そう言い残して、村松氏は去っていった。
静かになった部屋で、俺はベッドに腰を下ろす。
「……とんでもないことになったな」
口に出してみて、ようやく現実味が湧いてくる。
六十手前で失業したはずの俺が、今は地下都市の住人で、しかもダンジョン探索者になる予定だなんて。
人生、何が起こるか分からない。
その翌日から、俺は地下都市の中を歩き回った。
食堂では見たこともない食材を使った料理が並び、装備店では剣や防具が当たり前のように売られている。訓練施設では若者だけでなく、俺と同年代かそれ以上の連中が汗を流していた。
「よう、新入りか?」
気さくに声をかけてきた白髪の男は、見た目は完全に俺と同世代だったが、軽々と大剣を振り回していた。
どうやら本当に、年齢は関係ないらしい。
それどころか――
「ここに来てからの方が、体の調子がいいんだよ」
そんな話を、あちこちで聞いた。
俺自身も、なんとなく体が軽い気がしている。
もしかすると、俺の第二の人生はここから始まるのかもしれない。
そして迎える、初めてのダンジョン探索の日。
期待と不安を胸に、俺はその時を待つのだった。




