異世界転生しても特殊スキルなんてなかったので本でも執筆して一発当てるわ
異世界転生した先で俺は特に戦闘に特化したスキルを与えられなかった。当然である。
俺の日課と言えば、高速帰宅ギネス記録に挑戦しては、漫画や小説を読みあさるだけの毎日。勉強もスポーツも友達付き合いも何もかもを犠牲にしてきた結果といえよう。
そんな俺はつまらない毎日に辟易しながら、電車を待っているときにスマホで漫画を読んでいたら、線路に落とされ、現世で命を落とした・・・。
しかし、俺はなんてラッキー!異世界転生に成功したのだ!
これぞまさしく中世ヨーロッパ風の理想的な剣と魔法の世界・・・!と思っていた矢先、自分のスキルを確認して愕然とした。俺のスキルはほとんどEランク、よくてDランクだった。固有スキルを持っていたので確認してみると「調子不良 戦闘時調子がよくなるまで数ターンかかる」いたな、こんな特性を持った、某有名なモンスターをカプセルに入れるゲームの不遇モンスター。
この世界では人のステータスを確認することは容易である。
その分、人間の評価というのは全てステータスとスキルによって評価が左右される。急に転生してきて困りながら街をうろうろしていた俺に優しく話しかけてくれたお姉さん(実は街の警備員だった。つまり俺が不審者に見えたらしい)は、俺のステータスを確認してあからさまにお気の毒という冷たい目を向けてきた。
ちなみにお姉さんのステータスはほとんどがB。戦闘力も俺と600以上差がある。絶対に怒らせてはいけない。
ちなみにこの世界での転生者は少なくないらしい。俺、最近転生してきて右も左もわからないんですけど・・・と相談するとお姉さんは役場でそういった者への対応窓口があることと、その役場の場所をテキパキと説明してくれた。
前世で女子に優しくされたどころか生ごみを見るような目か、嘲りの目で対応され続けられていた俺としては、それだけでお姉さんに恋をしてしまいそうに感じた。意を決して「お姉さん、もしお暇ならこのあとお茶でも・・・」と声をかけようとしたときにはもう視界の遠くの方にいて、イケメンと話していた。
「僕、今転生してきたばっかなんだよね~、てか、お姉さんチョー可愛いじゃん!?やば~」
とか話してるイケメンにさっきのクール系お姉さんは目をハートの形にして、話し込んでいる。・・・・こっちの世界でも所詮は顔か。(実は顔じゃなくてステータスだ、それにしたって世知辛い)
はてさてそういう訳で転生窓口に相談したところ臨時の身分証明を慣れた手つきで渡され、仕事の斡旋がされた。
窓口のおっさん「前世でやっていたご職業などは?」
俺「はい!学生です!」
窓口のおっさん「そうだったのか!得意科目は?」
俺「保健体育です!とくに性教育の範囲が・・・!」
窓口のおっさん「なし・・・と。あとは?授業後の課外活動してたの?」
俺「帰宅部っす!」
窓口のおっさん「キタクブ?聞いたことないな、何をする部活なんだ?」
俺「誰よりも早く家に帰ることを目標としていまして・・・・!」
窓口のおっさん「・・・ああ、そう。じゃあ君が出来そうな仕事はこれぐらいかな?」
と、提示された仕事は週6日勤務の工場での仕事だった。朝7時から夜10時まで2回の飯以外休みもない超ブラックな仕事である。冗談じゃない。
俺「あの冒険者とかは・・・?」
窓口のおっさん「無理だね、そのステータスじゃ。スライムにやられて死ぬよ」
俺「そのスライムが激強スライムの可能性は・・・」
窓口のおっさん「ない。」
俺「ちなみに仕事をせずに、国から金をもらって暮らすというのは」
窓口のおっさん「そこのフィールドに出て野垂れ死ぬっていう方法ならあるぜ」
結局俺は工場に勤める他なかった。いや、まあ、仕事をなんやかんやで斡旋してもらえただけでも幸せだと思わないとだめなんだろうが。
毎日数百匹の蛙を数え、チェックし、繁殖した分のをおたまじゃくしや、必要数の蛙を納品する仕事だった。それ以外の時間は、蛙の餌箱が空になっていないか確認したり、蛙の交尾を眺めていたりした。
こんな小さな箱のなかでしか暮らせなくても、パートナーを見つけて、一所懸命に生きられるなら、それは俺の生活よりもずっと幸せに満ちているような気がした。俺は蛙みたいな生き物は全然好かなかったし、むしろ気持ち悪いとすら思っていたが、こうして毎日世話をしているとなんだか愛着のようなものを感じる。
そんな感慨も虚しく、こいつらはすぐ出荷されるのだが。この世界での蛙は非常に有用な生き物らしい。毒やら魔法やらとの親和性が高いのだとか。蛙を食したり、蛙を薬にしたりすることはこの世界の常識なんだとか。確かに魔女はぐつぐつに煮立った大釜に蛙やトカゲやらをぶち込んでいるイメージはある。