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海の涙と3人の夜オヤツ


夕方まで海で遊んで、夕飯をお腹一杯食べて、部屋で一息。

20時をまわった頃。


部屋に戻ると、酔ったレイさんは寝てしまい…黒江さんは「ちょっと電話してくるね」と、1階の休憩所へ降りて行った。


そして、僕とリトはぼんやり窓の外を眺めていた。

大きな窓からは少し遠くに海が見える。


楽しかったなぁ海…

明日も少し海に寄ってから帰ろうって言ってるけど、大丈夫かな。

皆凄くはしゃいでたし、体力が持つのかな。


レイさんの寝息だけの室内。僕もリトも言葉を交わさず、ぼーっとしている。


きっと、僕は今日がとても楽しかったから、今日が終わるのが少し寂しいのかもしれない。

多分リトも。



そんなちょっと切ない静かな室内に、"コンコン"とドアをノックする音が響く。


「僕が出るよ。」

幾分小さな声でリトに言って、部屋の入り口に向かう。


ドアを開けると、そこにはルミさんが立っていた。

「あっ、アン。あのね、食後のお散歩に行こうかなって思うんだけど…」

「あぁ、リト?呼ぶよ?」


「あっ!ルミちゃん!」

呼ぶまでもなく、間髪入れずにリトが小走りで寄って来る。


「リト~、夜も元気だねえ!あのね、お散歩行かない?」

ルミさんがにっこり笑って言う。

勿論リトも嬉しそうに「行く行く!」と応える。


「暗いから気を付けてね。」

僕は当然ふたりで行くのだと思って、見送ろうとしたんだけど…


「えっ?3人で行くんだよ?」

「アンも行くだろ?」

と、ふたりはほぼ同時に僕の顔を見る。


折角ふたりっきりで話せるのに。僕は邪魔じゃないんだろうか…

リトとルミさんは、なんというかちょっと無垢なトコがあるというか。

純粋っていうか。


でも。

ふたりがとても仲良さそうで、正直ちょっと寂しくなっていたのも事実だ。

ここはお邪魔覚悟で、一緒に行こうかな。


「そうだね、僕も行くよ。」


「うんうん!そうこなくちゃ!」

「だよな!」


僕の返事を聞くと、ふたりは嬉しそうに笑ってくれた。






レイさんに『散歩に行ってきます。』と書置きを残し、勿論ちゃんと"御守り"も持って…

僕とリトとルミさんは、夜のお散歩に出た。

宿から出る時に、八重子さんが気付いて灯りも持たせてくれた。しっかりした懐中電灯だ。


街灯がぽつりぽつりとはあるけど、明るくはないので助かった。



海に着くまでに、僕らは色々な事を話した。

今日それぞれの車で何を話していたとか、海で遊んだ事とか、お昼ご飯の事とか…

夕飯に出て来た正体不明の美味しいものの事とか…


こうして歩いているだけでも楽しい。


でも…

ふと、ルミさんが「そういえば車の中でリトが喋ってた故郷の言葉?なんて言ったの?」って言いだすものだから、僕は冷や汗をかいてしまった。

夜になっても外の空気はしっとり暑いというのに。


「えーっと…あははっ、なんだっけ。寝惚けてたから。」とか、リトは誤魔化してた。


なんて言ったんだろ。

リトは僕の顔を見ると、苦笑いして『大丈夫大丈夫』とサインを出してくる。


大丈夫っていうのは結果であって…大丈夫じゃなかった可能性もあるのに。


とは言え、あまり弟を責めれない。

僕にだって迂闊な所はたくさんあるし…


リトのみる夢はとてもリアルなのは知ってる。イメージ力も強いから…寝起きなんて、言葉が戻ってしまっても仕方ないのかもしれない。



「もしかしたら食べ物の事かもね。故郷にリトが好きなクッキーがあってね?」

僕はさり気なく話題を変えてみる。

すると、リトも乗っかってきて「そうそう!クッキーの事かも!」と言い出し、その作り方についてルミさんと話し始めた。


実際に僕らの食べていた"クッキーのようなもの"の作り方は知らない。

けど、ふたりは"ああじゃないかこうじゃないか"と楽しそうに予想し始めて、僕はホッとした。


そしてその光景を眺めるのが、とても幸せに感じる。



3人で会話しながら歩いてくれば、海に着くのもあっと言う間だった。



海の匂いがして、波の音がして。


僕はしゃがんで、砂に触れてみた。

夜の砂浜は冷えていて、気持ちが良さそうだ。


少しだけ、素足で歩いてみたいな…

と、僕が思ったその横で、リトとルミさんは一足早く靴を脱ぎ。


「砂!気持ちいい!」

「足だけ海入りたーい!」

と、走り出してしまう。


「ええっちょっと!気を付けて!?」

元気なふたりに置いていかれて焦る。

そして勿論、心配でもある。


浜辺は月が出ていて開けているから、思ったより明るい。けど、夜は夜だ。



やっぱりふたりはどこか似ている所がある。

ルミさんは最初とてもしっかりしてる人だと思ったけれど…仲良くなってみると、とても無邪気で子供の様な時もあるのだ。


人の事は心配するのに、自分の事となると案外大胆だったり。

今回の遊びに行こうというリトの提案に即答してくれたのも、僕は驚いた。


…それともあれは、ルミさんもリトの事を気に入ってくれていたからだったんだろうか。



「アンもおいでよー!」

楽しそうな声。女神様によく似た声。

ルミさんが手招きしている。


僕は溜め息を吐きながら、靴を脱ぐ。

濡れたくないし、ズボンの裾を捲るのにしゃがんで…ふと、思い出す。


『もう、前の世界に戻る気は無い?』


あの黒江さんの言葉。

僕らが即答できなかった、その言葉が頭を過っていく。


幸せな"今"を置いて…

僕は…


「アン!どうした?」

ハッとして顔を上げると、そこには心配そうな弟。

僕はしゃがんだまま固まっていたみたいだ。


「大丈夫ー?」

ちょっと離れた所から、ルミさんの声。


僕は立ち上がって、「ゴメン、ちょっと考え事しちゃった。」とリトに笑いかける。

リトも「そっか。」とホッとしたように笑った。


それからルミさんに「大丈夫だよー。」と手を振って、二人でルミさんの方に歩き始める。


波に少しだけ足を浸けて立って居たルミさん。

「もー心配しちゃったよー」とこちらに走って来る途中…




「あっ」


一瞬、時間が止まった気がした。

彼女が躓いて、転びそうになったのだ。


僕とリトは、咄嗟に彼女を支えに走った。



「危なかった…」

「大丈夫…?」



ルミさんは、僕の左腕とリトの右腕を掴んで、そのまま動かない。



『私、知りもしない世界なんて、どうでも良かったの。』



そのまま、動かないまま、俯いた彼女が発した言葉。

それは日本語ではなかった。この世界で僕が、リトからしか聞いたことが無かった言語。


息をするのも忘れて、僕は彼女の言葉を聞いた。



『でも、ふたりを、私が…助けたかった。』



『知らない人も知らない世界も救いたくなかった…それより、私…ふたりを助けたかったの…ずっと』



ゆっくり顔を上げた彼女は、涙を流していた。

そして今度は、この世界の、この場所の言葉で、泣きながら叫んだ。


「会いたかったの!ずっと!!」



折角転ぶのを阻止したというのに、その場に膝をついた彼女。

僕も、リトも、糸が切れて崩れるように彼女を抱き締めた。


それは殆ど反射的で、何も頭で考えられなかった。



ただ、ここにいるよって伝えなくちゃと思った。

魂というものがきっと。

そう想った。






それからしばらく、彼女は泣いていた。

彼女は僕らにしがみついていたし、僕らは彼女をずっとぎゅっとしてた。


きっと僕もリトも泣いていた。声は出さなかったけど。






彼女の泣き声より、波の音の方が大きく聞こえるようになって、やっと彼女の顔を覗き込む。

鼻をすすっているけど、涙は殆ど止まったみたいだ。

目が真っ赤、痛くならないといいなって心配になる。


「なんか、泣いちゃった。」

ぐすぐす混じりに言い訳のように言うものだから、なんだかおかしくて可愛くて、僕は少し笑ってしまった。

「なんで笑うのー。」

こんな時に、同じ事をナティに言われたっけと思う。


違うんだよ、馬鹿にしてるわけじゃないんだよ。

なんだか、可愛くて。愛しいなと思って笑顔になっちゃうだけなんだよ。



リトの方を見ると、こっちはこっちで目が真っ赤だ。

珍しく"なんで"とか"どうして"とか言わないで、黙り込んでいる。


きっと、弟は頭の中で考えている。

沢山の言葉と記憶と思考が頭の中で渋滞している。


こういう所は僕とは違う。

僕は知ってる、ずっと前から。



だから僕も、リトに声は掛けない。

多分彼は今話し掛けても、満足に応えられない。


僕はふたりの手を引いて立たせて、大きく深呼吸した。


「ねえ、僕喉渇いたな。コンビニ行かない?」

















海に一番近いコンビニに僕らはやってきた。

夜でもとても明るい。

今はまだ真夜中って程ではないけど、コンビニという場所は真夜中でも明るい。


最初に見た時はとても驚いた。

その明るさ。

利用の仕方を教えてもらってからは、その便利さや楽しさにも。


時々リトと家の近くのコンビニに行って、お菓子なんか買って帰ったりしてる。


その場所に今日は3人で来た。

心ここにあらずのリトと、まだちょっと元気のないルミさんと、なるべくいつも通りを装ってる僕。



ジュースが並んでいるケースの前にふたりを引っ張って行く。


「ルミさんは、ジュース何が好き?」


「えっ、うーん。なんだろ…リンゴとか、ブドウとか…あ、見て、コレ美味しそう。」

ルミさんは好みを訊かれて、やっと少し声に心が戻ってきた感じがする。


僕はよくこうやって、リトの心を引き戻している。

弟の心はよく"何処か行く"から。

ルミさんにも同じようにしたら、少し効果があったみたい。


彼女が手に取って僕に見せたのは、"100%りんごジュース"だった。

白い花と赤いリンゴの絵が描いてある可愛らしいパッケージだ。


「じゃあ僕もそれにしよ。リトは?リンゴとブドウどっちがいい?」

「えっ?」

やっとリトがこっちを見る。


「リンゴと、ブドウ。どっち?」

ちゃんと弟の目を見て問い掛ける。


多分ここでいつもの"これでいいよね"をしてしまうと、リトも戻ってこないから。


「あ。リンゴがいい。」

どこか気の抜けた声ではあるけど、ちゃんと自分で選ぶ。

僕はホッとして息を吐いた。


「じゃあコレ3個ね。…ねえ?お菓子も買っちゃう?好きなの買ってあげる。」


「えっえっ、いいの?」

「お菓子、食べたい。」


ふたりがちゃんと僕の顔を見た。

もうそれだけで、嬉しくなる。


ここに、ふたりが居る。




















リンゴジュースとお菓子を買って、僕らは海辺に戻って来た。


乾いた砂の上に座って、3人で並んでジュースを飲んだ。


お菓子はコーンのスナックと、カップに入ったシフォンケーキ。

サクサクしたスナックを少し食べて、甘い生クリームをつけながら小さくカットされたシフォンケーキを食べて。


リンゴジュースを少し飲んで…。


ふうっと息を吐く。



夕飯をいっぱい食べた筈なのに、散歩して泣いて、少しお腹が空いていたみたいだ。



波の音を聞きながら夜のオヤツタイムをしていると、

ふと、ルミさんが呟くように話し始める。


「あの…ごめんね、急に、びっくりしたよね。」


確かに驚いたけど、別にルミさんのせいじゃないのになんで謝るんだろう。

むしろ…きっと接触し過ぎた僕らのせいではないんだろうか…


リトも同じ事を思ったのか、「なんで謝んの?」とルミさんに返す。

ちょっと不機嫌そうな声だ。


「怒ってる?」

「怒ってないよ!だって俺が悪いのに…」


「待って待って、誰が悪いとかって話じゃないでしょ?」


リトはきっと不安なんだ。

ルミさんが女神様の記憶を思い出してしまったのではないかと。


僕とリトと、それから自分が死んだ時を…

怖かった事を思い出してしまったんじゃないかって。


でも何をどう訊いたらいいのか。


取り敢えず喧嘩みたいになるのは止めたけど、そこから言葉が出てこない。



少し間を置いてから、今度はリトが小さな声で言う。

「ルミちゃんは、思い出したの?女神様の事。」


真剣な顔をしていたルミさんだったけど、リトの言葉を聞いてきょとんとして、それから笑った。

「女神様…あはっ、女神様って。」


「なんだよ、女神様は女神様だろ?」

「だって、ふふふっ!」

「真面目な話してんのに!」


どうもルミさんにとっては"女神様"という名称が自分の認識と違ったみたいだ。

僕らはどう言えばわからなくって、ずっと女神様を女神様って言ってたけど…


ルミさんは「ごめんごめん。」と謝った後、考えるような仕草をして、

「…思い出したかぁ…うん、そうだねえ。わかんない。」

と、呟いた。


僕を見るでもなく、リトを見るでもなく、海の方を眺めて。

「なんかね、気持ちがぶわーってなってね、言葉が出たの。でも、細かい事はよくわかんない。」

そう言うとリンゴジュースを飲み、僕がさっきそうしたように、ふうっと息を吐く。


そして僕とリトの顔を交互に見直し、照れたように笑う。


「わかんないけど、凄くふたりに逢いたかったんだっていうのは思い出した!」


その顔は女神様とは全然違う。

彼女は女神様じゃない。女神様とは違うけど、でもきっと…その気持ちは女神様のものだったんだろう。



僕が助けなくても、リトが助けなくても…

女神様は大丈夫なのかもしれない。


貴女の未来は、…きっと、大丈夫。



「俺も凄く逢いたかったよ。」

「僕も。」


リトがルミさんの左手を握ったから、僕はルミさんの右手を握った。


「へへっ、そっかぁ。」

彼女は嬉しそうに笑う。

僕とリトは泣きそうなのに。


でも、良かった。

これからは彼女の笑顔を沢山見れたらいいな。



















宿に帰るともう23時近くなってて。

「もう!心配したんだから!」って、黒江さんに怒られた。


黒江さんは、どうもずっとソワソワして迎えに行くところを、五条君に止められていたらしい…。

「ダメですよ!店長抑えて!青春だからあああ!」って。




青春、青春かあ…。

そういえば、「夏と海と言えば恋でしょ!」って言ってたな五条君。


恋…かぁ。


もう一度お風呂に入って、布団に入るとすぐに眠くなってきたけど…

同時になんだか、とても寂しいような気持ちになった。


今ここに…ナティシアが居たらいいのになぁ。


あの甘くてフワフワした、それこそシフォンケーキみたいな彼女に、無性に逢いたくなった。




いつか一緒に来れるかな、海。


























「おっはよぉー!!」

「朝だよー!!」


明るいキャアキャア声。

聞き覚えのある、よく似てる二人の声。


…ナティの事考えながら眠ったから、夢を見てるんだろうか?


「ねー!海行こうよー!」

こっちはレティシアの声だ。


「おい、今何時だと思ってんだよ。まだ7時になったとこだぞ。」

あれ、レイさんの声だ…




「アン!起きてよお~。ねえねえ。起きないとチューするぞお~。」

これはナティシアの声…


え?


僕はここでやっと目を開いた。

至近距離にナティの顔がある。

逢いたいなと思っていた彼女の目がぱちぱちと瞬きしつつ、僕を見ている。


「はっ?え?」


「んふふ!寝惚けてるんですかぁ~?」

ナティは楽しそうに僕の頬をつつく。



「こらっ、そこ!公然とイチャイチャすんな!」

「ダメだよレイちゃん!邪魔したら馬に蹴られるんだよっ!」


「え、アンと…そういう…?」

今度は隣の布団で寝ていたリトの声。

僕は勢いよく起き上がる。


「違ッ…おはよう!!」

僕は焦って元気よく挨拶してしまう。

違くもなんともないんだけど。

そう、違くないから恥ずかしいんだ。


「えへへへ、アン寂しかった?」


ナティシアにそう言われて、それも違くないから。

図星だから、僕は皆が居るっていうのに赤面してしまった。







それから、今度は双子姉妹も加わって、皆で朝ご飯を食べた。

ご飯と味噌汁とお魚と。

"日本の朝食"といった感じ。


でもとてもホッとする。


食べている間は大人しかったレティとナティ。

食事が終わった途端に、ルミさんに絡みまくっていた。

「お噂はかねがねだよ!」「そうだよ!お噂してたよ!」

と、騒々しいふたりだったけど、彼女は「えぇー、どんな噂だろー」と困り笑いしながらも相手してくれていた。


宿を出る頃には仲良しになって、オーナーも加えて女性4人でキャアキャア言ってたぐらいだ。


どうやら女性には女性の話があるらしく。

「いや今大事な話してるから男子禁制やで!」とオーナーに言われて、僕とリトはちょっと寂しい思いもしたのだった。






今日はレティもナティも加わり、皆で昼まで海で遊んだ。


双子姉妹は泳ぐのがとても上手で、僕とリトも泳ぎを少し教えて貰った。

ふたりは教えるのは、ちょっと下手だったけど…


ナティと話す時間ができたのは有難かった。


「ねえ、なんで僕が寂しいってわかったの?」


「あはっ、それはねえ、私も寂しかったからだよ!」


嬉しそうに言ったナティシア。

こんなに嬉しそうに"寂しかった"なんて。


そうか、同じ気持ちだったから、嬉しいのか。


「だから会いに来ちゃった!海楽しいねえ、また来ようね?」

「うん、そうだね。」


ナティは可愛いけど、強い。

僕が思ってるより、女性は強いのかもしれない。



弱くて可哀想で、守ってあげなきゃって思ってた女神様。

でもきっとそんな女神様だって、走って追いかけて来てくれた。


僕達が逢いたいって思ってた時間よりずっと長く、もしかしたら女神様は逢いたいと思っててくれたのかもしれない。



「僕、やっぱり、ここに居たいな。ずっと。」

「海にずっと居たらふやけちゃうよ?」

「ふふっ、違うよ、ナティの隣に居たいんだよ。」

「えーーーっ!やだぁ!もう!えへへへへ!もう!!」








そうしてしっかり"夏と海と言えば恋でしょ!"をやって…僕達は昼過ぎには帰路についた。

帰りは車が3台に増えた。


僕は帰りも新城さんの車に乗った。

今度は僕は助手席に招かれ、後ろではレイさんと黒江さんと吉春君が仲良くお昼寝を始めた。


今日はレイさんも黒江さんも少し海に入っていたし、吉春君は全開だったし…

流石に皆疲れたみたい。


車の中が静かになると、新城さんが「お前も寝て良いぞ。」って言ってくれたけど…


ひとりで運転させてるのも申し訳ないし、それになんだか目が冴えていたから、僕はずっと起きていた。

と言っても何を話していいのかわからず、時々新城さんの顔をチラチラと見るだけ。



車のスピードが落ちて、ふと動きが止まる。

少し渋滞しているようだ。


すると、新城さんがこちらを見て、目が合う。


あぁ新城さんの目って…ちょっと青いんだな。

僕らの目程ではないけど…。初めて気付いた。


そんな事を思いながら、じっと見詰めてしまって…。


新城さんが可笑しそうに笑った。

「なんだにらめっこか?」


「えっ、あっ、ごめんなさい、つい。」


「ついってなんだよ。」

ククッと喉で笑いながら、新城さんは前方に視線を戻した。


そしてまた暫しの沈黙を挟んで…

落ち着いた声で僕に語り掛けてくる。


「お前ら、もう戻る気無いだろ。」


戻る気、きっと黒江さんがこの前言っていた事だろう。

前の世界に戻る気があるか、だ。


そしてその話を新城さんに訊きに行けって言われてたんだった。


でも、新城さんは断定するように言った。

戻る気は無いのだろうと。


この人にはなんだかいつも見透かされてしまうような。

隠し事ができないような気がする。


でも敢えて、僕は訊き返した。


「なんでそう思うんです?」


すると新城さんは前を見たまま、笑って言った。

「お前らは俺みたいに追いかけて来た女を見捨てる程薄情じゃないって知ってるから。」


まるで自分は薄情みたいに言うけど…僕だって知ってる。

だからちょっと、言い返す。


「僕も知ってますよ。新城さんは情に厚いって。」


怒られたら怖いから少し小さな声で。


でも新城さんは怒らなかった。


「そっか、まあ、お前らにとったらな。」

優しいけど、ちょっと寂しそうな声だった。


















行きよりも時間がかかったけど、夕暮れ時、Twinkle(トゥインクル)Magic(マジック)に無事到着し、そこで解散となった。

ルミさんの家は途中で寄れたのに、「最後まで一緒に!」との彼女の希望でここまで一緒に帰って来た。


オーナーが気を利かせてくれて、ルミさんと僕とリトを店内に入れてくれて…レイさんが淹れてくれたお茶を飲んで…一息ついたまでは良かったんだけど。


「はぁー、そろそろ帰らないと…」

「そうだね、駅まで送るよ。リトも行くだろ?」

「勿論!」


と、3人で席を立ったその時。


突然にザァーーーッと水音。

強い雨がTwinkle(トゥインクル)Magic(マジック)の屋根を打ったのだ。


僕もリトもルミさんも、その雨にポカンと立ち尽くし…



黒江さんとレイさんは何故か吹き出して笑った。


「神様がまだ帰るなってさ!」

「少し雨が弱まってから行ったら?傘かしてあげるから。」


結局それからレイさんの焼いたクッキーを3人で食べて。

お茶を2杯お代わりして。


やっと雨が弱まった。



「じゃあお世話になりました。」

「いってきまーす。」

「いってきます。」


僕と、ルミさんと、リトと。

3人で傘を差して、駅へ向かう頃には辺りは暗くなっていた。


名残惜しいけど、でも、なんだか…


焦りとか不安とか寂しさとか、何か心の何処かにあった重みが無くなっている気がした。




大丈夫。


きっとまた会える。

会おうと思ったら、会える。


女神様とも、ルミさんとも。




だから…

「またね!」

3人でそう言って、笑顔で手を振った。









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