04
一方のルーテシアはロベルトの水運の仕事を手伝っていたのだった。
ロベルトが私に言いました。
「ルーテシア??やはり君の船の操縦技術は一級品だね。前よりも上達しているかもしれない。」
私がロベルトに言いました。
「ありがとう、おだてても何も出ませんよ。」
ロベルトが私に言いました。
「何も出してもらう必要なんてないんだよ。だってルーテシアとこうして毎日過ごす事ができてるんだ。こんなにうれしい事は他にないよ。」
私がロベルトに言いました。
「そう言ってもらえると助かります。」
なんというかロベルトと一緒にいると心地がいいんですよね。
「なあ?ルーテシア??君と初めて会った時の事を覚えているかい?」
そんなの忘れるわけないじゃないですか。
「もちろん覚えていますよ。リーメリア水路で私がカヤック(手漕ぎボート)に乗っていて、ロベルトがそれを橋の上から見ていたんです。」
「ああ、そしたら俺は橋から身を乗り出しすぎてそのまま水路に落ちてしまったんだよな。それで君が慌てて助けにきてくれた。」
「あの時は驚きましたよ。突然落ちてしまうんですもん。」
「自在にカヤックを操るルーテシア君がすごいと思ったんだ。でも君が誰なのかを聞いて驚いたよ。助けてくれた君がアルヴァンヌ伯爵家のご令嬢だったんだから。」
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ロベルトはマルゲイド商会に入ってからずっと頑張り続けていました。
人が嫌がる事も率先してやっていたと聞きます。
ロベルトの熱心な働きぶりに工房のトップであるマルゲイド様も絶大な信頼を寄せていると聞きます。
「それで聞いてほしい事があるんだ。」
ロベルトは改まって私にそう言いました。
「マルゲイド工房長からさっき俺に話があったんだ。俺にマルゲイド工房長の座を譲るつもりだと言ってくれたんだ。」
「えっ?それじゃあロベルトが次期工房長になるという事ですか?」
「うんそうだ。」
「おめでとう、ロベルト。」
「ありがとうルーテシア、でもここからが本題なんだ。ルーテシア俺は初めて会ったその時から君は俺にとっての憧れだったんだと思う。そしてその気持ちはすぐに君への愛しさへと変わっていったんだ。」
ロベルトは私に言いました。
「出会ったときからずーっとルーテシア君を想い続けてきた。君にふさわしい男になりたい、君の傍にいられるようになりたい。ただそう思い続けて一生懸命がんばってきたんだ。あの時は本当に情けない男だった。でも今なら君にふさわしい男になれたと思うんだ。」
「それじゃあ、ロベルトが商会で一生懸命がんばっていたのは??」
「もちろん君にふさわしい男になるためだ。」
その言葉を聞いて心臓がドキドキと大きく鼓動していました。
私はとても恥ずかしくなってしまいました。
私もロベルト、あなたと一緒に過ごしていくうちにあなたの事が気になるようになっていました。
でもそれはほっとけない弟みたいに思っていたからです。
だから私はいつもロベルトを気にしていたのだと、そう思い込んでいました。
でもそれだったら、どうして今ロベルトにふさわしい男になるためだと聞いて私はドキドキしているのですか?
もしかして私はロベルトを弟として見ていかったんじゃないかと思えてきました。
そうでなければ、今のこの胸のドキドキが説明できないじゃないですか。
ロベルトにゼスタと婚約した時に、ゼスタは寂しそうにしてくれました。
そして私はどこか心のどこかにつかえている物を感じていました。
その時はたぶん気のせいだと思っていたんですが、もしかして私はずっとロベルトの事を。
そんな事を思っていると、ロベルトが私に言いました。
「ルーテシア??俺は今とても後悔しているんだ。ゼスタの奴は君と一緒になれるという最高の幸福を自分から捨てる選択をして、いとも簡単に君との婚約を破棄してしまった。ゼスタと君が婚約すると聞いた時の俺では何もできないと思ってしまったんだ。ただ君の幸せを願うぐらいしか自分にはできない。そう思い込んでしまった。でもそれは大間違いだった。君がゼスタとの婚約すると聞いた時にゼスタから君を奪う決心をするべきだった。だからもう後悔したくないんだ。君にはもう二度と辛い思いはしてほしくない??だからルーテシア??僕と結婚してくれ。僕と一緒に生きてはくれないか?」
私はロベルトのその言葉を聞いてこう思いました。
ロベルトと一緒にいたいという気持ちが心の底からあふれ出てきました。
とても恥ずかしくなり、今私の顔は真っ赤になっているはずです。
「ロ??ロベルト??」
私はとても取り乱していました。
ロベルトは力強く私に言います。
「ルーテシア!!もう君を他の男になんて絶対に渡さない。そう決めたんだ!!俺が君を絶対に幸せにすると約束する。信じてくれ。」
そんなの信じるに決まってます。
ロベルト私はあなたという人を誰よりも知っていますから。
そして今やっと分かりました。
私もあなたと一緒にいたいと心から願っている事に。
「ルーテシア??俺への返答は君の心の整理がついてからで構わない。」
私はとても恥ずかしいと考えながらロベルトに言いました。
「は、はい。」
するとロベルトが遠くの方を見ながら私に言いました。
「うん??大変だ、誰かが溺れてる!!」
「はい、そうですね、誰か溺れて。ええっ??」
私も運河の進路方向を目をこらして確認すると、確かに進路方向の水面に誰かが溺れているのを見つけました。
私たちはすぐに船を走らせてそちらへと急行しました。