03
それから2週間後王都にある王家御用たしの衣料品店にゼスタとリアナの姿があった。
リアナは国費で無駄な買い物をしているにも関わらずご満悦な様子だった。
「ゼスタ様、今日も一点物のドレスを買ってくれてありがとうございます。この真紅のドレスとってもすてきです。」
「ああ、かわいいリアナのためならなんでも買ってあげるよ。」
「ゼスタ様、ロマエ地区に新しい宝石店ができたんですよ。すっごいキレイなエメラルド宝石が売ってるんです。それも欲しいです。」
「ああ、いいよいいよ。かわいいリアナのためだ。宝石でもなんでも買ってあげるよ。」
「キャーうれしいゼスタ様。」
「どうせ金なんて下民から搾り取ればいくらでも出てくるんだからな。」
そして買い物を終えたゼスタとリアナは王家の船であるリウォード号の前に戻ってきたのだった。
そこには王国騎士団の騎士達がゼスタとリアナの護衛の為に展開しており、王国騎士団長であるルーカスが二人を出迎えたのだった。
ゼスタは騎士団長のルーカスにこう命令を出した。
「よし、これからロマエ地区に移動する。ロマエ地区までの通行規制を出せ!!」
これを聞いたルーカスは驚いた様子でゼスタに尋ねた。
「えっ??ゼスタ様??王城にお帰りになられるのでは?」
ゼスタがルーカスに言った。
「気が変わったんだ。リアナに新しい宝石を買ってやる事にしたんだよ。」
ルーカスがゼスタに言った。
「今日だけでリアナ様にとんでもない金額を使われていますが?」
ゼスタがルーカスに言った。
「別にいいだろう。金なんて下民からいくらでも搾り取ればいいんだから。」
ルーカスがゼスタに言った。
「それにすでに4回行き先を変更されており、今日だけで4回の運行規制を出しております。」
ゼスタがリアナに言った。
「それがなんだ??4回だろうと10回だろうと王太子である俺様はリアナと一緒に行きたい所に行くだけだ。」
「そうですよね。」
ルーカスがゼスタに言った。
「すでに運河の通航規制を何度も加えているのです。これ以上新たに運行規制を加えれば王都の移動手段が麻痺してしまいます。多くの民たちが移動できずに困ってしまうのです。どうかこのまま王城にお戻りください。」
だがゼスタはこう言い放った。
「それがどうした。下民なんざ困らせておけばいいだろうが。」
ルーカスがゼスタに言った。
「ならばせめて運行規制だけでもお考え直しを。」
ゼスタがルーカスを怒鳴りつけた。
「ふざけるんじゃねえ!!いいか大船団で移動するからいいんだろうが!!運行規制をかけて下民が困ってる姿をリウォード号から眺めて楽しんでるんだ。俺様の楽しみを勝手に奪うんじゃねえ!!」
リアナがルーカスに言った。
「そうです、下民が困ってる姿はなかなかいい眺めなんですよ。私たちの楽しみを奪わないでくださいよ。」
ゼスタがルーカスに言った。
「その通りだ、そんな事よりもはやくリウォード号を出発させる準備を始めろ。」
するとルーカスが申し訳なさそうにゼスタに言った。
「申し訳ありませんがリウォード号は出せません。駆動系が故障してしまったようです。」
ゼスタがルーカスに言った。
「なんだと??故障だと??だったらさっさと直しやがれ。」
ルーカスがゼスタに言った。
「無理を言わないでください。リウォード号には特注品の魔導回路が組み込まれたエンジンが使われています。簡単に直せるような造りのエンジンではないんです。」
ゼスタがルーカスに尋ねた。
「今まで故障した事なんてなかっただろうが?」
ルーカスが言いにくそうにゼスタに言った。
「実は今はリウォード号のメンテナンスができない状態になっているのです。」
ゼスタがルーカスに尋ねた。
「メンテナンスってなんだ?」
「船が故障しないように管理する事です。」
「ロベルト殿がいつもメンテナンスをしてくれていたのですが、2週間ほど前からメンテナンスにきてくださらないのです。」
「ロベルト??誰だそいつは??」
「王国最大の工房であるマルゲルド工房で一番有能と言われている方ですよ。何度も王城に船のメンテナンスにいらっしゃってましたが。」
「このゼスタ様が下民ごときの名前なんて覚えるわけないだろうが!!」
するとリアナもゼスタに同調するのだった。
「そうですよね、下民の名前なんてどうでもいいですよね。」
ゼスタがルーカスに尋ねた。
「下民ごときがリウォード号の修理なんてできるのか?」
リアナがゼスタに言った。
「そうですね、下民ごときがそんな事をできるなんて信じられません。」
ルーカスが二人に言った。
「ロベルト殿が高い見識をもっておられてリウォード号の修理をしていたのは間違いございません。」
ゼスタがルーカスに尋ねた。
「ふーん、まあいい。それでなんでそいつはメンテナンスに来ないんだ?」
ルーカスがゼスタに言った。
「それがロベルト殿が言うにはゼスタ殿がルーテシア様に非礼な行いをした事を正式に謝罪しないかぎり、リウォード号のメンテナンスは一切しないとの事でした。」
ゼスタがルーカスに言った。
「なんだと??なんで俺様があのバカ女に謝らなければならないんだ。」
リアナもルーカスに言った。
「そうよ、あの女は王家の船を自分で操縦して下民に手を差し伸べるようなとんでもないバカな女なのよ。謝る必要なんてないじゃないの。」
ゼスタがルーカスに言った。
「リアナの言う通りだ。そいつに強制的に修理させろ!!王家の船を修理しないなんて怠慢だろうが。」
ルーカスがゼスタに言った。
「いえリウォード号以外の船は今もちゃんとロベルト殿にメンテナンスしてもらっていますので、怠慢とは言い切れません。」
ゼスタはさらに怒り出すのだった。
「なんだと??他のどうでもいい船は直して、俺様のリウォード号だけを直してやがらないのかそいつは!!」
ルーカスがゼスタに言った。
「はい、その通りです。」
「ゼスタ様??修理をしていただきたいのなら、ルーテシア様に謝られてはいかがですか?」
「ふざけるんじゃねえ!!!なんで俺様はこれぽっちも悪くないのに、謝らなければならないんだ。」
「その通りです。あのバカ女を謝らせればいいんです。」
「ではリウォード号の修理はできませんがそれでよろしいのですか?」
「そんな事言ってねえだろうが!!」
「ではどうなさるのですか?」
ゼスタは返答する事ができずにうなるしかなかった。
「うー。」
リアナがルーカスに言った。
「ルーカス、つべこべ言わずにリウォード号を修理してください。それとあのバカ女を私達に謝らせてください。」
「リアナ様??お話を聞かれていましたか?申し訳ないですが我々騎士団ではリウォード号の修理はできないのです。それが唯一できるロベルト殿が修理する条件としてゼスタ様とリアナ様がルーテシア様に謝罪する事を提示されております。」
「聞いてましたよ、失礼ですね。私は頭がいいんですよ。つまりルーカスが船を修理して、あのバカ女を謝らせればいいという事ですよね。」
「なんでそうなるんですか?リアナ様??我々では修理できないと何度も申しあげていますよ。」
「だって私あんな女に謝りたくないですもん。こんなにもかわいい私を困らせないでください。」
「そうだ、ルーカス、リアナを困らせるんじゃねえ。リアナはこんなにもかわいいんだ。だから何とかしろ。」
ルーカスは大きなため息をついたのでした。
「ですから無理なものは無理なんです。」
リアナはそんな事は気にもせずにルーカスにこう言うのだった。
「ルーカス?騎士団長っていうのは、私の言う事に、分かりましたとだけ言えばいいんです。分かりましたか?」
するとルーカスが厳しい口調でこうリアナに言うのだった。
「リアナ様?申し訳ありませんがゼスタ様とご婚約され王太妃になられるというのであれば、もっと教養や礼節を学んで頂けませんでしょうか?」
リアナがルーカスに尋ねたのだった。
「待ってくださいルーカス、まるで私に教養や礼節がないバカだと言っているように聞こえるんですが?」
ルーカスがリアナに言った。
「厳しい言い方になりますが、まさにその通りだと思われます。」
するとリアナはあからさまなウソ泣きの演技を始めてゼスタにこう言ったのだった。
「うあーん、ゼスタ様、ルーカスがひどい事を言う。助けてください。」
ゼスタはこのウソ泣きを真に受けてルーカスにこう言うのだった。
「おい、ルーカス??さっきからリアナにひどい事ばかり言いやがって、リアナがかわいそうだと思わないのか?」
リアナもそれに同調した。
「そうです。私がかわいそうです。私にひどい事を言わないでください。」
ルーカスが二人に言った。
「ひどい事ですか?お言葉ですが、ゼスタ様もリアナ様もルーテシア様にひどい事を言われたと伺っておりますが?」
ゼスタがルーカスに言った。
「何を言ってるんだ!!あの女はいいんだ!!どれだけひどい事を言ったって。でもリアナはだめだ。こんなにかわいらしいんだから。」
リアナもそれに同調した。
「そうです、私はイジメてはダメなんです。ルーテシアは頭空っぽのバカ女だからどれだけイジメてもいいんです。」
ルーカスが深いため息の後でリアナにこう言った。
「はあー。厳しい事を申し上げますが、私から見ればリアナ様の方がよっぽど頭空っぽに見えますが。」
リアナはさすがにショックを受けたのだった。
「なんですって??」
リアナはウソ泣きの演技でまたゼスタに助けを求めたのだった。
「うあーん!!ゼスタ様!!こいつを何とかして。」
ゼスタがルーカスに言った。
「おいルーカス!!いい加減にしろ!!騎士団長ごときが言いたい放題言ってリアナを泣かしやがって!!」
ルーカスがゼスタに言った。
「ゼスタ様、恐れながら言わせて頂きます。リアナ殿と婚約するのは止めた方がよろしいかと。やはり気配りができて心優しいルーテシア様との婚約を破棄したのは間違いであったと思います。リアナ様は頭が空っぽの上に、とても身勝手な方と見受けます。リアナ様を王太妃にするのは王国にとってもゼスタ様にとってもプラスになるとはとても思えません。リアナ様とのご婚約は即刻取りやめられた方が宜しいかと。」
「ふざけた事を言ってるんじゃねえぞ!!いいかリアナは俺の言う事になんでも賛同してくれて、リアナはこれだけかわいいんだ。こんなかわいいリアナが俺様の婚約者にふさわしいに決まってるだろうが!!」
「うあーん、ゼスタ様、私をイジメるこいつらの顔なんて見たくありません。こいつらを城に追い返してください。」
「そうだな。」
「俺様もテメエらの顔なんぞ見たくもない!!とっと王城に戻りやがれ!!それと今日は騎士団の全員城の外に出る事を禁ずるからな。」
「お待ちください、我々騎士団の仕事は運河の巡回など城の外に出なければできない仕事がほとんどなのですが??」
「そんなもん知った事か!!テメエらの顔なんざみたくねえんだ。」
「しかし?そんな事をすれば王都の機能が麻痺してしまいますよ??」
するとゼスタは懐からある書状を出したのだった。
「ルーカス??忘れたわけじゃないよな!!これは親父からの書状だ!!この国の事は全て俺に任せるというな!!」
「もちろん存じております。」
「分かってるんだったらとっとと全員失せろ!!!」
ルーカスは仕方なく騎士たちを纏めて城へと撤収したのだった。
ゼスタとリアナは怒りに任せて騎士団の全員を城に帰してしまったので、ゼスタとリアナは取り残されてしまったのだった。
「くそあいつらふざけやがって。」
「ゼスタ様、私をイジメたあいつらに罰を与えてください。」
「そうだな、大きな罰を与えてやらないとな。」
「だがどうやって王城に戻るかな?」
「うーん??」
ゼスタはなんの考えも思い浮かばなかったのだった。
「そうだ、いい事を思いついきました。こういうのはどうですか?」
リアナはゼスタに自分の考えを伝えました。
「うんうんそうだな。この際ぜいたくは言ってられないな。」
「しかしリアナ君は本当にすばらしいな。」
「それほどでもあります。」
そしてゼスタとリアナの二人は水上バスの停留所へと向かったのだった。