01
私の名前はルーテシア・アルヴァンヌといいます。
アルヴァンヌ伯爵家の令嬢で今年で17になります。
今日は婚約者であるゼスタ様に呼び出されて王城の謁見の間へとやってきたのですが、彼にこう宣言されて私は困惑しました。
「ルーテシアお前との婚約を破棄する!!」
私は婚約者である彼から突然の婚約破棄を宣言されてしまったのです。
「こ、婚約破棄ですか?」
ゼスタ様が私に言いました。
「そうだ!!婚約破棄だ!!お前との婚約を破棄すると言ってるんだ。」
彼は私の婚約者であるスバルト王国の第一王太子で私の一つ上の18です。
彼は美しい銀の瞳とアッシュブロンドの綺麗な髪で、きれいな顔立ちをしていました。
4か月ほど前にゼスタ様から婚約を申し込まれてきて、それを私が受ける形でした。
それなのに突然婚約者のゼスタ様から婚約破棄を言い渡されてしまったのです。
私は訳が分からずにゼスタ様に尋ねた。
「なぜですかゼスタ様?私のどこが至らなかったというのでしょうか?理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
ゼスタ様が私に言いました。
「いいか、お前は王太子の婚約者としてあるまじき行為をしてしまったんだ。だから婚約破棄されるんだ。」
「あるまじき行為??」
私はこれまでの行動をいろいろと思い返していましたが、全く心当たりがありませんでした。
ですがゼスタ様は厳しい口調で私に言います。
「そうだ、決して許されない事をお前はしてしまったんだ。」
ますます意味が分かりません。私が一体何をしたというのでしょうか?
私は彼の言葉を待ちました。
「いいか、お前は王家の船であるリウォード号を自分で操縦していただろう?」
「えっ??」
私はゼスタ様が言った言葉の意味が分かりませんでした。
ですが彼はそんな私に構わずに言葉を続けました。
「しらばっくれても無駄だ。お前が先週、リウォード号を操縦してリンク大聖堂に向かった事は調べがついてるんだ。」
私は彼の言う事に心当たりがあったので、こう答えました。
「はい、確かに先週にリウォード号を操縦してリンク大聖堂に行きましたけど?それが何か??」
彼は私に大きな声で言いました。
「ふざけんな!!リウォード号の操縦なんてするんじゃねえ。」
彼が私に言いました。
「いいかお前がこのゼスタ様に婚約破棄されたのは王家の船であるリウォード号を操縦したからだ。」
船を操縦したからゼスタ様に婚約破棄された??
それで婚約破棄?私は全然納得できなかったのでゼスタ様に尋ねました。
「婚約破棄の理由を教えて頂きましたけどそれのどこが問題なのですか?」
ゼスタ様が私に言いました。
「あのなあ!!すごく大問題なんだよ!!」
驚いた私は彼に尋ねました。
「リウォード号を使う許可はゼスタ様から頂いてましたよね?」
彼は私に大きな声で言いました。
「あのなあ!!誰が自分で操縦しろなんて言った!!使用人をたくさん船の上に並べて船頭にアゴで命令しながら使っていいの意味に決まってるだろうが!!お前は王太子妃となる身分だったんだぞ!!」
私はゼスタ様に言いました。
「ただ忘れ物を取りに行きたかっただけだったので、そんな事に城のみなさんをつきあわせるのは悪いかなと思いまして。」
スバルト王国は国土の大半が小さな島々や湿地帯から成り立っており、そのほとんどが農業に適さない土地のために海運業や商業が盛んな場所なのです。
王都であるミルスは水の王都としても有名で、王都ミルスには運河や水路が無数に張り巡らされており、王都ミルスで移動しようとする場合、陸路での移動するよりも船を使った水路での移動の方が便利な場合が多いのです。そもそも船を使わないと移動できない場所もかなりあります。
故にこの王国では貴族といえども船を操縦する事はそこまで珍しい事ではありませんでした。
まあ船を自分で乗り回している令嬢となるとたぶん私ぐらいでしょうが。
私がゼスタ様に言いました。
「もしかして私が船を自分で操縦しておてんばな事をしたからゼスタ様は私をあなたの婚約者にふさわしくないとお考えになったのですか?」
ゼスタ様が私に言いました。
「そうだ、これから王家に入ろうという人間が自分で船を操縦するなんて考えられない!ただしそれだけが理由じゃない。いいかお前が俺を激怒させた理由がもう一つあるんだ。一昨日に水上バスが故障していたから、わざわざリウォード号を操縦して下民共を乗せて目的地まで運んだらしいな?」
私はゼスタ様に言いました。
「はい、みなさん水上バスが出なくて困ってたんで、私がリウォード号を操縦してみなさんをお送りしたんですけど。」
ゼスタ様が私に言いました。
「大きな罪を犯していると分かるだろう?」
私は少し考えてからゼスタ様に言いました。
「私が船を操縦してたから怒ってらっしゃるのではないのですか?」
ゼスタ様が怒りながら私に言いました。
「違うこれは別の理由で怒ってるんだよ!!」
すると私の後ろからかわいらしい声が響いてきました。
「ルーテシアってこんなにバカだったんですねえ??いいですか下民っていうのはこき使うべきであり困らせるべきなんです。」
煌めく淡い赤い髪や透き通っている白い肌そしてサファイアの瞳を持っていて、すんなりとした肢体は華奢で均整がとれていました。
そんな可憐な少女が私の後ろに立っていました。
するとゼスタ様は嬉しそうに言いました。
「おおリアナ来てくれたか。」
彼女はリアナ・オーランドという名前でオーランド男爵家の令嬢でした。
年は私の一つ下で16です。
彼女とはお互い顔と名前を知っている程度の仲でした。
そのリアナがゼスタに言いました。
「はいゼスタ様の頼みならもちろんでございます。」
私はリアナに尋ねました。
「なぜリアナがここにいるんですか?」
リアナはこう私に言いました。
「私がルーテシアの代わりにゼスタ様の婚約者になるからに決まってます。」
私は驚いてリアナに聞き返しました。
「私の代わりにゼスタ様と婚約する??」
ゼスタ様もさも当たり前の様子で私に言いました。
「ああそうだ、リアナはお前が価値のない女だと教えてくれた。おかげで俺はテメエとの婚約破棄を決断する事ができたんだ。それにリアナはよく心得ている。王族の在り方や誇りというものな。リアナ!!ルーテシアに教えてやってくれ!!ルーテシアがいかに愚かであったかを。」
リアナが私に言いました。
「いい下民なんて何の価値もない連中なのよ。どれだけ迷惑をかけても構わないの。いやむしろ積極的に迷惑をかけるべきよ。下民なんていたぶって命令を出すためだけの役割でしょう。」
ゼスタ様が私に言いました。
「リアナの言う通りだ。いいか王族っていうのは頂点に立つ存在なんだ。ましてや下民なんて何の存在価値もない連中だ。俺たち王族が命令を与えることでしか価値が出ない連中なんだ。誇り高き王家の船であるリウォード号に汚らわしい下民を乗せて、そんな価値のない連中の為にこれから王太子妃となる人間が働くなんてとんでもない事なんだよ。あってはならない出来事だ。」
私はゼスタ様に尋ねました。
「それじゃあ私は自分で王家の船を操縦した事と、王都の困ってる人達を助けたからゼスタ様は私との婚約破棄されるというのですか?」
ゼスタ様が私に言いました。
「その通りだ。だからお前は婚約破棄されるんだ。分かったか?」
リアナがゼスタ様に言いました。
「そうです。全てゼスタ様が正しいです。下民を助けたルーテシアは大馬鹿者だと私も思います。」
えっとこれ私のどこが悪いんでしょうか?
船を自分で操縦するってそこまで悪い事なんでしょうか?ましてや王都の困ってる人を助けたから婚約破棄をしたってどういう事ですか?とてもじゃないですが私が悪いとは思えないんですけど?この二人は何を言ってるんですか?
とんでもない理由で私は婚約破棄されたという事だけはよく分かりました。
するとゼスタが私に言いました。
「ルーテシア、自分の非を詫びて土下座して謝るんだったら復縁してやってもいいぞ。もちろん今後リウォード号を自分で操縦せずに下民は絶対に乗せない事と、これからずっと下民を困らせ続けるという事を誓約をしてもらうがな。」
リアナは困惑した様子でゼスタに尋ねました。
「えっ??ゼスタ様??私が正妻になれるんじゃないんですか?」
ゼスタは笑顔でリアナに言いました。
「心配するな、リアナ。リアナを正妻にするに決まってるだろう。こいつを妾として置いてやるだけだ。愛しいリアナを正妻にするに決まっているだろう。」
リアナは笑顔でゼスタに言いました。
「なんだ、そういう事ですか。安心しました。」
リアナが笑いながら私に言いました。
「良かったわね??ルーテシア??ゼスタ様があなたを妾にしてくれるって。さあすぐに土下座をして謝りなさい。」
ゼスタも笑いながら私に言いました。
「そうだ。すぐに俺様に土下座をして謝れ、そうすれば妾にしてやる。」
私はいろいろと言いたい事はありますけど、私はこう言いました。
「申し訳ありませんが謝罪は致しません。私がゼスタ様に謝罪する必要があるとはとても思えませんので。」
ゼスタが私に言いました。
「だから下民は助ける価値もないゴミだってさっきから言ってるだろうが!!俺様がこれだけ王族の在り方を説いてやってるんだ!!ちゃんと理解しろ。これが最後のチャンスだ、俺様に土下座して詫びを入れろ!!そうしたら許してやる。」
私がゼスタに言いました。
「ですから私は絶対に謝りません。」
さらに私はこう言いました。
「私は一切悪くないけど、婚約破棄を受け入れます。もうあなたとは歩んでいけないと分かりましたから。困った人を助けるのが間違いであるわけがありませんから。」
この先ずっと誰も助けてはならないなんてそんな馬鹿げた誓約などできるわけありませんし、したいとも思いませんでした。
ゼスタが大きな声で私に言いました。
「ああそうかよ!!だったらルーテシア!!テメエは今日中にこの王城から出ていけ!!分かったな。」
私はゼスタに短く答えました。
「分かりました。」
私はゼスタに背を向けました。
すると後ろから二人の会話が聞こえてきました。
「ゼスタ様、こんな女は婚約破棄されて当然ですよ。道理というものを全く理解していません。」
「そうだな、こんな女に慈悲をやろうとした俺が間違っていた。」
「大丈夫です、私はゼスタ様のお考えが正しいと分かっていますから。」
「リアナ、君は本当にいい女だ。あんなバカ女とはえらい違いだ。」
「もうあんなバカ女の事は忘れて私だけを見てくださいゼスタ様。」
「そうだなそうするよ。リアナ??君はかわいらしくて本当に素敵だ。」
私はそんな会話を無視して謁見の間から出ていきました。
捨てられて悔しい思いは確かにありました。
でもそれ以上にこんな考えの人についていく事はできないと思っていました。