気になること
ユーシスはクレイルと言葉を交わした後、用事を思い出したと言って去っていった。
ユーシスのあの興味津々の様子から、単に婚約話を聞きたいが為に声をかけたのかもしれないとクレイルは邪推する。
たどり着いたクレイルの気に入りの場所は、敷地内の奥まったところにあるガゼボだった。
規則的に木々が植えられ、晴れた日は木漏れ日が差し込む。
そこのベンチに腰掛けながらクレイルは読書や考え事をするのが好きだった。
借りてきた本に目を通しながら、だが意識は先ほどのユーシスとの会話を思い出していた。
リィシュとは順調そうで良かった、か……。
ユーシスには言わなかったが、リィシュに対して気になることがないわけではない。
ただそれは人となりがどうということではなく、あえて取り立てるほどのこともない、些細なことばかりだったが。
例えばリィシュは何もないところでよくつんのめる。
庭園を案内しただけでも3回ほど足を取られ、バランスを崩していた。
妙齢の女性だけに足腰が弱っているわけではないはず…いや、そう思いたい。
恋愛の駆け引きに慣れた令嬢がつかう、手管のようなわざとらしさも感じなかった。
ただ単に抜けているだけなのか?
それとも何かに気を取られているのか?
3度目なんて本当に転びそうになり、思わず手を差し伸べてしまった。
思い返すと同時にその時の感触が甦った。
抱き止めると軽くて柔らかい感触とともに花のような芳香が馨った。
リィシュを支えながら、その瞬間クレイルの脳裏に別の女性のことが過った。
年は3歳差だったか…彼女の方が少し背が高く、華奢な印象だった…。
そこまで考えたときクレイルは不快になった。その女性を連想した自分に軽く苛立ち、残像を振り払うと何もなかったことにした。
他にも…と意識を戻すようにクレイルはリィシュの気になる点について思い返す。
たまにビクッとするんだよな…。
何もないのに、身体の一部がビクッと動くのだ。
会話している最中にも一瞬だけ意識が余所に行っている気配を感じることがある。
そう頻繁ではないし、リィシュも特に何も言わない。だからリィシュと会っている時には知らない振りをしていたが。
あれは何なんだろうと思いつつ、どこかで似たようなことがあったなと引っ掛かる。
だがいくら思い返してもその記憶を探り当てることができず、クレイルは考えることを放棄した。