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闖入者 2



 一頻り楽しそうに騒いだヨシュアは、興奮して体力を使いきったのか、クレイルの膝の上でうつらうつらとし始めた。


 ヨシュアは眠りへ誘われるのに抵抗するかのように二度瞬きすると、そのまま眠ってしまった。

 クレイルはそっとヨシュアの顔を覗きこみ、完全に寝ついたことを確認すると、起こさないよう慎重に抱き上げ、控えていた侍従にヨシュアを託した。


 退室を見届けたクレイルはレティーナを振り返る。


「よかったら城内を散策しましょうか。案内しますよ」



…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…



 柔らかな陽射しが降り注ぐ庭園をクレイルと二人でゆっくりと歩いていた。

 クレイルはレティーナの歩調に合わせてくれる。

 相手にそう思わせることなく自然にやってのける様子はとてもスマートだった。


「急に相手をさせてしまってすまなかった。まさかあの場にヨシュアが乱入してくるとは」

「いいえ、ヨシュア様の素直で明るい様子にわたしの方こそ楽しんでしまいましたわ。それに年端のいかない子に分別を求めるのは酷というものです」


 クレイルはヨシュアのことを困ったやつだと言いながら、責める様子のない寛容な態度が見てとれた。

 その横顔には肉親への情が滲んでいる。


 やはり…とレティーナは思う。

 彼は王太子として当然に側に置く人間を見極めているだろうし、そうあらねばならない。必要なら切り捨てる強さもあるのだろう。けれど、その懐に入れた人には情を持って接している。


 やっぱり、この方と婚約したい。


 王族として悪い噂のあるレティーナは受け入れなくても、妹としてなら取り入るチャンスはあるはず。


 それに、エルシアン家を指名してきたのは先方なのだ。大きなアドバンテージがなくても、致命的な欠点さえなければなんとかなるわ、きっと。

 レティーナは内心でそういい聞かせて自分を鼓舞した。



  ヨシュアとの一件で多少なりとも打ち解けた空気を感じたのか、クレイルは当初から訊きたかったことをレティーナに問いかけた。


「それにしても、こんなに突然婚約の話が持ち上がって、貴方にとっては迷惑だったのではありませんか?」

「そんな…迷惑だなんてとんでもございません」


 むしろ願ったり叶ったり。ぜひとも早く結婚してください。式はいつですか。できるだけ早くお願いします。


 レティーナは漏れ出しそうになる脳内思考をすんでのとろこで呑み込んだ。さすがにそのまま吐露すると引かれたうえに距離を取られそうな予感しかしない。


 レティーナは歩みをとめた。

 勇む気持ちを抑え、代わりに視線で訴えかけるようにクレイルをじっと見つめる。

 立ち止まったレティーナに気付き、数歩先からクレイルは振り返った。


「あの…わたしはぜひにともこのお話を進めて頂きたいと思っております」


 想いを映して揺らめくような瞳をクレイルは見つめ返す。


「わたしには誇れるほどの美貌も、他家に抜きん出て示せる後ろ楯の価値も持ちませんが、殿下に寄り添うことができるこの僥倖を逃したくありません」


 レティーナを見つめたまま、クレイルは僅かに目を見開くと、一瞬だけ押し黙った。

 だが、それもほんの一時のこと。

 意識するよりも先に口から出た相槌に続けた。


「そう…ですか。貴方がそう仰るのならこの婚約はきっと前向きに進めていけるのでしょうね」


 思った以上に真剣なレティーナの様子に、クレイルは気圧されるように、けれどどこか思案するように返したのだった。



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