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終局

 


「どうやら私は大事な妹を任せてもいいと思える程度には貴方のお眼鏡に叶ったようだし、話を進めるとしよう…異論はないな?」


 何も言えないレティーナを置き去りに、クレイルは笑顔で話を進める。

 だが、先ほどから一言も発しないレティーナにクレイルが勘づく。


「異論はない…というより声を失っているのか?」


 クレイルは思案すると徐に左腕を胸の前に持ち上げた後、手首の装飾具にもう一方の手を添えた。

 するとその装飾具が淡く光ったように感じたが、レティーナの気のせいだったかもしれない。


 そして顔を上げたクレイルはどこにともなく声を掛けた。


「魔女よ、見ているんだろう?」


 レティーナはここで魔女の名が出てきたことに驚いた。

 疑問に答えるようにクレイルはレティーナに言った。


「現代で魔法を操れるもの…というと答えは自ずと出るだろう?」


 レティーナは納得できるような納得できないような、微妙な顔をした。

 クレイルは構わず、姿を現さない魔女と話を進める。


「…そうだな、王家秘蔵の蔵書で手を打とう。古代魔法の文献だ、欲しいだろう?1冊…いや3冊で手を打とう。引き換えに彼女の声を戻してくれ」


 王家には魔女でさえ近づけない一角がある。

 そこにある蔵書はどんなに喉から手が出るほど欲しくても手に入れることはできないはずだ。


「……」


 シーン。


 …反応がない。


「じゃぁ、この話は無かったことに」


 クレイルが言い掛けた途端、腹立たしげにドンッと船が揺れた。


「…っ!…あ…」


 レティーナが微かな声を洩らした。


「戻ったか」

「あ、あの…」


 レティーナの声を聞いて嬉しそうに笑うと、機嫌よくクレイルが言った。


 同時にクレイルの斜め上空が淡く光ったかと思うと光の中に洋紙が現れた。

 その洋紙に光る文字がひとりでに書き記され、そのまますぅっと消えていった。

 恐らく先ほどの魔女との取引内容について、違わぬように縛るための契約魔法だろう。


 寸分も動じずにクレイルはそれを見届けると、レティーナに改めて向き直った。


「…貴方は気づいていないようだが、他人の為に危険を犯してでも動ける人間は逸材だよ。男なら側近で欲しいくらいだ。…まぁ、男だと私が困るんだがな…」


 最後の方は呟くように言うと、クレイルは先程までと違う、静かで穏やかな声で語りかける。


「…貴方の父上のことだが」


 突然の父親の話にレティーナは思わずクレイルに目線を向けた。


「静養に適した自然の多い土地があるんだ。そこでしばらくゆるりと心身を休めるといい」


 その声はレティーナのその心にそっと触れるような声音だった。

 レティーナの憂いをすべて見透して、そのすべてを包もうとしているように優しく響いた。


 何と言っていいか分からぬまま、感極まったレティーナは瞳を潤ませて、俯いた。


 しばらく言葉にならない感情を見届けると、クレイルは微笑んだ。


 かと思うと待ちきれないようにレティーナを膝から抱き上げた。


「!!」


「――憂いはすべて晴れただろう? …さぁ、祝杯をあげようか、我が婚約者殿…!」


「あ、あの…ちょっと待…」


 勝手に進む話と状況に付いていけずにレティーナは困惑の声をあげた。


 ――が、レティーナの声と戸惑いはクレイルの綺麗な微笑みに黙殺されるのだった。



*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…



 ―――後日、レティーナの困惑を置き去りにして、クレイルとレティーナは正式に婚約の儀を取り交わした。



 クレイルと婚約してから初めて顔を合わせたユーシスは「よっ、婚約したんだってな」とどこかで聞いたことがあるような台詞で声を掛けてきた。


 婚約相手がレティーナだと告げたら、ユーシスはこうなることが分かっていたような顔をして、だろうねと返した。


さらには「だって君、普段は憎たらしいくらい冷静なのに、レティーナ嬢のことになると最初から様子が変だったし」


…などとあっさり評した。


 ただしそれをレティーナの前でもげろしてくれた時には、クレイルは神々しささえ感じさせるほどの迫力と威圧感満載の笑顔をユーシスに披露していた。


 1ミリも動じないユーシスと派手凄みの増した笑顔のクレイルに挟まれて、レティーナは寿命が縮まりそうな心境に陥るが、そんな心境を慮ってくれる人は生憎その場には誰もいなかった。


 長い付き合いだとはいえ、ユーシスに読まれていたのかと思うとなんとなく癪に触るクレイルだった。



 疑惑のハミルト伯爵については、外国からの輸入品を始め、徹底的に調べるように事を進めている。

 怪しい資金の流れや、行方不明になっている令嬢のことも洗い出す算段だ。


 ただ数年経過しているケースもあり、すべてを解明するのは難しいかもしれないが…。


 調書に挙がっていた植物については具体的な名称は判明していないが、かなりの確率で輸入禁止になっている中毒性のあるものではないかとクレイルは予想している。


 まずはそこを足掛かりに包囲網を張り、いずれ帰国したところを押さえるか、逃亡するならこの王国へ足を踏み入れられないように手配書を出す手筈を整えている。


 いずれエルシアン家との婚約の話は立ち消えとなるだろう。



 そしてレティーナの妹、リィシュ・エルシアンについては姉の侍女になるだとかならないだとかいうそんな話も漏れ聞こえてきている。


 レティーナは大いに反対しているようだが、あのリィシュ・エルシアンが引くわけないだろうなというのがクレイルの感想だ。




 …さて、どうなることやら。


 なにはともあれ、その後のことはまた別のお話で…ということで留めておこう。




ここまでお読み頂きまして、本当にありがとうございます。

残すところライト1話です。


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