7.私と魔狼とおっさんと……おっさんと?
襲撃をかましてきたモンスターはどうやら魔獣の類だったらしい。
いわゆる魔狼って奴か。
私は鎌を構えると群れに突撃した。
最初の一匹の攻撃を紙一重でなんとか躱すと鎌を地面に刺すように後ろにおいて走る。
グッと手ごたえを感じて狼が切断されたのが分かった。
そのまま鎌を上にあげて狼を外すと今度は横薙ぎに振る。
一体もかかる事は無かったけど牽制にはなった。
変則的な刃を警戒している狼たちに熟練冒険者さんたちの攻撃が襲い掛かる。
「そっちの魔狼を片付けろ!」
「一匹逃げたぞ!カバーてくれ!」
息の合った冒険者たちだったけどやっぱりある程度のばらつきがある。
多分パーティ単位で戦ってるからかな?
パーティごとにそういった戦略の違いがあるからそこの隙間からモンスターが漏れたりするんだと思う。
それをカバーするのが私の仕事になるのかな?
私は一歩下がると鎌を振るう。
丁度魔狼が飛び掛かってきたところだった。
ガスッと音がして魔狼が攻撃を躱す……って躱す!?
私は驚いて鎌を振り回す。
明らかに空中で避けようがなかった気が……
もしかして私の狙いが甘かっただけ?
可能性はある。
でも今は目も前の敵に警戒!
私は魔狼を睨みつけた。
魔狼も私を睨みつける。
一歩踏み出すと私は鎌を振り下ろした。
魔狼は読んでいたかのように横に一歩。
それだけで私の攻撃は躱された。
やっぱり間違いない。
こいつ、普通の魔狼よりも強い。
であれば私も出し惜しみはしない方がいい。
鎌に魔力を流し込む。
普通の鎌だから本当は流せないんだけどね。
いわゆる魔力付与に近い奴。
体内の魔力を鎌に沿うようにして表面だけ流すイメージ。
ただMPを馬鹿みたいに持っていかれるからあまり使わないけど。
それ以前に「死生魔法」とかいう明らかなチート魔法を使うといろいろ面倒なことになるし。
一応これが私の本気になる……と思う。
魔狼が唸りながら前足に力を入れている様子が見えた。
パンッと軽い音がして目の前に魔狼の牙が見えた。
速くね!?
とりあえず一歩下がって鎌を下から振り上げる。
魔狼はまたもそれを空中で躱した。
私は一気に下がって距離を取る。
オーケーなんとなくカラクリは見えたぞ。
多分魔力を固形にして足場を瞬間的に作ってる。
某配管工兄弟でいう所の二段ジャンプ。
つまりあいつのMPが持つ限り無限に空中でジャンプすることが出来る。
……いや、それヤバくない?
近接戦闘はやめようか、うん。
私は鎌をさげると片っ端から魔法を乱射し始めた。
「ウィンド!アイス!ファイア!ファイア!」
本職魔法使いが見たら嘆きそうなくらい適当な詠唱でとりあえず魔力を撃つ。
魔狼も段々私の考えることが読めてきたのか焦ったように空中で距離を詰めようとする。
距離を詰められそうになった時だけちょっと大きめの魔法を撃って後ろに下がる。
そんな勝負をしているとなぜか私の頭の中でウィリアムテルが流れ始めた……
《実況》さぁ始まりました魔狼と私のチキンレース!実況は私、リアーナ・ムエルテがお送りします。さぁ一見リアーナ選手が優勢に思えますがいかがでしょうか?
《解説》いやー分かりませんよ、魔狼は今でこそ空中にいますが地上という安定した大地にいると爆発的な脚力で詰めてきますからね。
《実況》なるほど、西部劇でよくある空き缶を地面に落とさないように銃で撃って浮かせ続けるゲームのようですね。おぉっとここでリアーナ選手魔狼を一歩地面に近づけさせてしまいました、どう思われますか?
《解説》そうですねー、今のは魔狼の意地でしょうか。リアーナ選手が放った炎の下に回り込まれてしまいましたね。このまま地面に近づけさせると競技は終了してしまいます。
《実況》ぜひともリアーナ選手には頑張っていただきたいところ!おぉっとここでリアーナ選手なんとか巻き返しました!素晴らしい魔法でしたね!
《解説》氷魔法で足を滑らせその直後に風魔法を放ち上に行かせる。見事な対応でしたね。
《実況》さあ他の冒険者たちは魔狼をあらかた片付け現在リアーナ選手のみがこの魔狼と対峙しております。行商の日程を変えないためにもここで頑張ってほしいところ!
《解説》そのうちに冒険者の方も魔狼に攻撃を加えてきますからね。それまでに仕留めてもらい所です。
《実況》あぁっとここで魔狼が地面に降り立ちました!しかしかなり疲弊している!
《解説》地面には降りられてしまいましたがこのまま一息で仕留めればリアーナ選手の勝ちになりますね。
《実況》リアーナ選手飛び出したぁー!鎌を握っています!
《解説》MP切れが近かったせいでしょう。後がないのはリアーナ選手も同じようですね。
《実況》さあ魔狼も飛び出した!どっちが勝利の女神に微笑まれるのか!さあ結果は――
「こんなもんにいつまでも手間取ってんじゃねぇよ。」
おっさぁぁぁぁん!
スキンヘッドのイカしたおっさんがグイっと戦斧を振り下ろして魔狼は両断された。
勝者、おっさん。
なーんーでーだーよー!
私はへなへなと地面に崩れ落ちた。
「リアちゃん大丈夫?」
メロウさんが駆け寄って回復魔法を施してくれる。
「私たちのチキンレースがはげたおっさんの手で……」
「誰がはげたおっさんだ!ファッションだこれは!」
おっさんが突っ込んだ。
メロウさんがちょっとビビりながら私に話しかける。
「リアちゃん、一応この人ランクBだからね?あなたより上だから。」
「いい勝負だったのに……」
「あぁもう、なんで助けたのに貶されるんだ……」
おっさんはぶつぶつ言いながら去っていった。