6.お仕事
朝っぱらから私はウイスキー片手に街の正門に集まっていた。
「おーし、全員集まったな。俺があんたらに依頼したドルーだ。」
真ん中では禿げたおっつぁんが点呼を取っていた。
少しお腹が出ているが太ってるかと言われるとそうでもなく筋肉自体は無駄なく引き締まっているように見える……多分。
元冒険者か何かなのかな?
周りにはやっぱりいかつい兄ちゃんやおっちゃん冒険者。
女性は私と後もう一人、パーティで一人いる。
名前はメローネというらしい。
魔法使いらしい。
パーティの支援担当だとか。
「よろしくね、リアちゃん!」
「リアちゃん?」
メロウさんがいきなり愛称で呼んできた。
いや、初対面で愛称は流石にビビるわー。
「イヤだった?」
「いや、そういう訳じゃないけど少しビビった。」
「良かった!じゃあ改めてリアちゃんでいい?」
「どうぞ。」
「ありがとう!リアちゃんは大人しくてお人形さんみたいだね!」
「……。」
どないして返せっちゅーねん。
とりあえず私は背を向けて馬車に乗り込むのだった。
元々馬に乗ろうとしたけど護衛メンバーの一人がしたたかに地面とキスしたことで私の所定位置は決まった。
やっぱり動物ってのは本能でどういう相手か分かるんだろうね。
そんなことを考えながら私は馬車に揺られていた。
「……っ。」
グロッキー!
サスペン……ぐぇ……
サスペンションのない馬車でさらに整理されていない道路は私の内臓にダメージを与え続けオロロ状態一歩手前だった。
道中吐かなかったのは乙女の意地。
日本ってすごい。
改めて日本の交通のすごさを実感して現実逃避しているうちに夜になった。
で、もちろん雇われた以上は交代で見張りをする必要がある。
グロッキー状態で見張り?
勘弁してください……
「すいません、できれば最初以外でお願いします……」
顔を真っ青にした私のお願いは相当効果があったのか冒険者の皆様は優しい眼で私を見るとちょうど半分のころに見張りを配属してくれた。
面目ない……
「リアちゃん大丈夫?」
メロウさんが心配そうに回復魔法を唱える。
今回に限ってはメロウ様様。
「……少し、落ち着きました。」
回復魔法のおかげで少しだけ私の調子が戻ってきた。
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました。」
「いいのいいの、気にしないで。リアちゃんがいなければ私一人で見張り番することになってたからお礼を言いたいのはこっちだよ。」
女性の冒険者というのは結構レアらしい。
でもギルドには結構女の人も多かった気が……
そのことを訊ねてみるとメロウさんは答えをくれた。
「あーそっか。ギルドにいたような女性の冒険者っていうのは大体の人が副業でやっているの。」
「副業?」
「そうそう、旦那さんの稼ぎだけだと食べていくのが辛いから薬草取りとかそういう依頼を受けて家計を支えてるのよ。だから私たちみたいな冒険者らしい冒険者の方が珍しいのよ。」
そんな事情だったとは。
道理で低ランクの依頼が山のように積みあがっていかない訳だ。
私が納得しているとメロウさんは少しキョロキョロした後に私に耳打ちした。
「それに冒険者に家族がいた場合保険金が出るから家計が苦しい所とかだとそういう理由で冒険者になる人もいるんだって。」
そういう理由、つまる所死んで家計を助けてこいってことか。
私は相当複雑そうな表情をしていたらしい。
メロウさんは苦笑しながら「一部だけだよ。」と付け加えてくれた。
やっぱりさすがは異世界、金が命よりも重い。
この様子だと奴隷制度とかあるのかな……
そういえばギルドの受付のお姉さんが魔族の国で人間は基本的に奴隷って教えてくれたな。
私は恐る恐るメロウさんに聞いてみた。
「話は変わりますが人間の奴隷って基本的にどういう扱いなんですか?」
「敬語禁止。」
「あ……すいませ……ごめん。」
「よろしい。戦いとかで捕まった奴隷は表向きには捕虜っていう扱いになっているから売り買いはできないわね。中にはそういった捕虜たちを高値で取引するような奴らもいるけど。」
「普通なら殺すとかしそうで……しそうだけど。」
「戦士の奴隷、いわゆる戦奴は普通の奴隷よりも死にづらいからよ。つまり――」
「いい労働力になる。」
「えぇ。帝国の方でも戦奴はなるべく回収するようにはしてるけどやっぱり厳しいものがあるのね。」
「ちなみに帝国に……保護?された戦奴はどうなるの?」
「帝国に保護された彼らは魔王様の身の回りのお世話をすることになるわね。ちゃんと働くのなら衣食住提供されるから非人道的な扱いをされることはない……はずよ。」
「はず?」
「魔王様の居城に入れるのはごく限られた人だけなのよ。だから実際にどういう扱いを受けているのかは分からないわ。」
なるほど、奴隷っていうのはデリケートな問題なんだな……
はっ!
なんとなく根掘り葉掘り聞いてしまった。
メロウさんは怪訝そうな目でこちらを見ている。
「リアちゃん大丈夫?やっぱりまだ気分がすぐれないんじゃ?」
「いや、少し気になって。実はあの町を出るのはこれが初めてだから。」
「そうだったのね。それであれこれ。」
「そういう事。迷惑だった?」
「いいえ、大丈夫よ。少しは社会勉強になったかしら?」
「とても。」
私はそう答えるとじっと焚火を見つめた。
どうやら私がまだ吐き気をこらえてると思ったらしい。
……なんだろう、なぜかすごく大切なものを失った気分。
とその時、森の方からガサガサと音が聞こえてきた。
「魔物の襲来だ!」
その言葉に今まで寝ていたと思われる冒険者たちがパッと目を覚ましそれぞれの武器を確認し始めた。
おぉ、なんか熟練っぽい。
「リアちゃん、準備はいい?」
メロウさんもいつの間にか杖を手に森の方向を睨んでいる。
私は慌てて鎌をつかんだ。
「はい!大丈夫です!」
「敬語は禁止って言ったでしょ。さあ行くわよ!」
そういってメロウさんはパッと駆け出した。
って速ッ!?
私も遅れないように急いで走り始めた。