4.一話だけの師匠だったよ…
やべぇ……
私は今、リテイク人生最大の難関を迎えていた。
その名も……
「君には才能がある。もっと磨こうとは思わないのかい?」
余計なお節介である。
どうも数日前のあの騒ぎを見ていたらしい。
で、鎌という珍しい武器を使っていることからも悪目立ちし、私が酒場で金髪のさわやか系青年に絡まれているという訳だ。
「めんどくさいんで結構です……」
「まあまあそういわずに。もっと強くなれば……」
「あ、そういうのには関わるなと親から言われているので……」
「いやいやいやいや!絶対に損はさせないから!」
どこの悪徳商法だ……
で、何よりたちが悪いのがこの男、まさかの私よりも上位の冒険者だ。
ちらりと見えたギルドカードには明らかに私よりも上位であるカラーが……
一応ギルドには階級らしきものもあるけど正直今までたいして興味もなかったので流していた。
とはいっても私のランクはDだけど。
そう、いうまでもなく誇るようなものではない。
対する相手はランクA。
このままではしたもない修行に身を投じることになってしまう!
「強くなれればお金もたくさん稼げるよ?」
「私、頑張って(お酒のために)修業します!」
私、リアーナ=ムエルテはどこまでも欲望に忠実な冒険者だった……
で、来ました異世界ものでよくある冒険者専用の訓練場。
ちなみにあのチンピラどもを伸したのもここだったりする。
「で、そもそもお宅はどちら様ですか?」
「アーロンと言います。ランクAをしています。」
「えぇまあランクAであることは存じてますが……」
ってな感じで私はみっちり仕込まれることになった。
そりゃあもう色々と……
基本的な間合いの取り方、足の運び方や、魔法のコツ、気配の有無、果ては護身術まで。
お前は私の兄貴かよ!っていうぐらい色々叩き込まれた。
なんで一般女子高生にそんなことを平気で教えようとしますかねぇ……
なんて思いながらもやっていたが事実アーロンの教えてくれる術は基本的に私の役に立つ範囲の物だった。
下心があろうと今の私ではお主には勝てんよ。
なんて調子乗ってみたり。
そんなことを考えながら軽い手合わせをしていたらべしっと頭に痛いのを一発もらった。
「余計な考え事をしている暇があるなら頑張って僕から一本取ってみてください。」
ぐぬぬ……
まるで内心を読むような言い方をしやがる……
私はそう思いながら少し集中しつつ手合わせを再開した。
しかし、私は結局一本も取ることなく日が沈む寸前でアーロンとは別れた。
あーだりぃ……
酒を飲む気にもなれねぇ……
珍しく酒代が浮いた私はちょっと上等な宿屋に泊まることにした。
お風呂入ってー、ちょっと上等な料理に舌鼓うってー、寝る!
「だりぃー。」
その一声で私はすとんと眠りに落ちた……
そして三日目。
そう、まさかの三日目!
あの男、さわやか気質のくせにめちゃくちゃ粘着質だった。
なんだよその清濁併せ吞むような性格は。
やる気をなくした私はぐでっと背中を丸めて鎌を構えていた。
「ほら、姿勢が崩れてますよ!背筋を伸ばして武器を構えてください!そんな姿勢だから――」
「ウザい。」
ポロリと本音が漏れた。
あーまさかのシリアス回?
ほらさっさと謝っときなよリアーナちゃん。
案の定アーロンの目がぴくってなったし。
ところがどっこいシリアスと言えど進むべき道は自分で切り開くタイプの私はたとえ泥沼でも突き進むのだ!
「……なんですって?」
「姿勢がどうだー構えがどうだーあーだこーだてめぇの言いたい事ばっかり言いやがって。正直うっとおしいんだよ。」
「……その舐めた口調はどこから来るんでしょうね?」
「この口からだよ。お耳が聞こえねーならあたしが穴開けてやるよ。」
あーあ、言い切っちまったよ。
アーロンから凄まじい殺気。
まあ当然だよね。
でも、あたしだってただウザいと思いながら聞き流していた訳じゃない。
私はその反面として一切の気配を絶った。
皮肉なことにアーロンから教えてもらったことの一つだ。
まあさ、偽善で教えてくれるのなら私だっていくらでも回してやるけど。
そんな下心丸出しの教育で私が丸め込めるとでも?
私は鎌を構えた。
めんどくさいので我流。
そもそも鎌を使って戦うなんて変態は多分全世界探しても自分だけだろうし。
「本当に勝てるとでも?」
「しらねーよ。勝つ負けるじゃない。てめーを撒くのが私のミッションなんだからな。」
私は炎をアーロンに放った。
当たり前だがこの程度でアーロンは倒せない。
アーロンが剣で切っている間に私は後ろに回り込んだ。
回り込みながら鎌の刃を足元から気づかれないように上げる。
私が後ろに着くころにはアーロンの首元には鎌が迫っている寸法。
だけどやっぱりランクAは違う。
するりと刃を受け流すと私の懐に飛び込んできた。
「はっ!」
とっさに私は後ろに飛びのく。
アーロンの後ろから鎌が迫る。
それもアーロンは危なげなく躱すと剣を構え直した。
――強い。
シンプルにそう思う。
なんの予備動作もなく剣を構え突撃したり受け流したり。
無駄な動きが一切ない。
だからこそ手強い。
私にあるアドバンテージはこの鎌だけ。
逆に言えば鎌という戦ったことのない相手だからこそアーロンは攻めあぐねている。
どこまで戦えるかはそこにかかっている。
私は鎌を斜に構えた。
鎌に魔力を込めて地面に振り下ろす。
土塊がアーロンに向かって飛び出した。
土煙も濛々と立ち込めている。
うんうん、上等だ。
私は土煙から脱出すると炎を煙の中に投げ入れた。
「アリーヴェデルチ。」
おぉ、粉塵爆発なう。
予想以上の強力さにちょっとばかりビビった。
うん、まあ厄介な奴を撃退したってことで。
まぁ、いい奴だったよ…