プロローグ 出会いは0と1の狭間で
※この小説は最終話となる7骨目で唐突なダイジェスト化からの打ち切りENDにて完結となります。事前にご了承の上でお読みください。
何度死んでも生き返ることが出来るのがゲームの良いところだ。
屍王城を隠れ進みながら、私はそう思った。
∞は、その名の通り無限の可能性を秘めた多人数同時参加型ゲームだ。
よくある剣と魔法のファンタジックなRPGではあるのだが、数あるMMOの中でも、登場するキャラクターやモンスター全てにその重要性に合わせたレベルのAIが搭載されているのは、世界広しと言えどコレだけだろう。
プレイヤーは付属のマイクによってゲーム内キャラクターと会話をすることが可能で、中には主目的のはずの冒険そっちのけで擬似恋愛を楽しんでいるような層すら存在するらしい。
風の噂によれば、どこか大国の軍だかがバックについていて、すごく高性能の最新コンピュータが使われているとかどうとか。
それが本当なら、随分とキナ臭いアレだとは思うが……ま、背景はどうでも遊ぶ方には関係のない話だ。
本来、RPGは1人でする派の自分にとって、こういったオンラインゲームは鬼門だったのだけれど、昔からの友人に一緒に遊びたいとゴリ押しされて、その熱気に負けプレイすることになってしまった。
見ず知らずの他人と関わり合わなければ攻略できないイベントのあるゲームなんてクソだ、とコミュ障ぎみの自分が言ってみる。
RPGは自分がその世界唯一の主人公となれるところが楽しいのだ。
誰の目も憚ることなく好き勝手に行動できるところが魅力なのだ。
それに、素性も分からない相手との交流なんて、想像するだけで鳥肌ものだろう。
まぁ、実際のところ、素性が分かっていようが他人と交流なんて真っ平御免なわけだが。
なのに、オフラインで遊ぼうとすると白い目で見られるこの理不尽。
解せぬ。
せっかくの幻想世界に、現実のイザコザを持ち込まれても楽しくないじゃないの。
しかし、片手で足りる程度にしか存在しない大事な友人の、たまのワガママにくらいは付き合ってやらねばなるまい。
一応、許可した相手にしか自分の声が聞こえないように設定したり、プレイヤーキルの対象から外れるように設定したりと、出来る限りの悪あがきはさせてもらった。
が、正直いって他人の動かすキャラクターが視界に入るだけでも気分はよろしくない。
ぼかぁ人間が嫌いなんだよぉ、人間がぁ。
さておき。
現在、私は運営の悪ふざけ要素であるところの青田買いシステムなるものを発動させるべく行動中だった。
一般的に、プレイヤーのレベルがモンスターより高ければ高いほど仲間にしやすいというパターンが多いのだが、なんとこの∞では自分のレベルが敵より50以上低い場合にも交渉次第で仲間になってくれる可能性があるのだという。
プレイヤー登録時に国民番号の入力が必須で、基本的には1人ひとつのアカウントしか入手できないようになっているから検証組もかなり苦労したようだけれど、知り合いに頼んでアカウントを譲ってもらう等の方法でセカンドキャラを作成した者の話によれば、そのシステムは本当に存在していて、リアルの交渉スキルにもよるがレベルが離れていればいるほど仲間になってくれる確率は高くなるらしい。
∞は多くのMMOの例に漏れず、ランダムエンカウントではなくシンボルエンカウントが採用されている。
十把一絡げのモンスターにも少なからず知能というものが存在するが、ダンジョンなど特定の場所に配置されているような雑魚は、下された命令を実行するだけの単純機械と化していた。
直接指示を入力しない限り効果のない相手に即死魔法を繰り返すだけの、どこぞの緑の神官キャラのようなものだ。
この事実を利用して、私はレベル1という最弱存在でありながら、上限の6人でチームを組んでいた場合でもレベルが70は必要とされる高難易度の屍王城で、一切の戦闘を避けながら歩を進めていた。
幾度も死を経験するのと引き換えに、ダンジョン内に生息するモンスター達の行動パターンを把握することで、それを可能としたのだ。
昔ながらのゲームとは違い∞のモンスターは現実に準拠している部分も多く、例えば重要な部屋の扉を守っているような一見戦闘が必須と思われる相手でも、必ず交代や余所見、ともすれば居眠りなんていう隙が生じる。
100%同じ時間に同じ動きをするわけではないので運要素も必要になってくるが、門番系モンスター達の勤務のローテーションが変動しないことが分かったので、比較的不真面目なモンスターが担当になる時間帯を狙って行動すれば、そこそこ安定した成功率をはじき出すことができた。
ま、これが色々と鈍いアンデッドの巣窟ではなく、鼻や耳の発達した獣タイプや体温に反応する爬虫類やロボットタイプなどの生息するダンジョンであれば、また違った攻略法にもなっただろうけど。
それでも最弱の身でのダンジョン突破は簡単なものではなく、ゲームオーバーの文字を見た回数はすでに4桁に突入している。
運営からありがたくも、死望遊戯の称号をいただいたほどだ。
ちなみに、コレはゲームスタートからリアルタイム準拠で444時間以内に444回死亡すると貰えるというのが検証チームの働きにより判明している。
現実に18プラス半日以内という条件は、普通に社会生活を送りつつ健全にゲームをプレイしていたらまず達成できないし、一定期間死なないことにより手に入る称号の方が明らかに有用なので、所持者は非常に少なかった。
あと、痛みが伴わなかろうが画面ごしだろうが、やはり死は精神的な苦痛を伴うらしく、一般的なプレイヤーは両手で数えられる程度にしか経験はないものらしい。
ご他聞に漏れず、少なくない経験値やお金、ランダムにアイテムを失うシステムが存在するので、それも死を忌避させるひとつの要因となっているのだろう。
どこかに訴えられそうなフザケた名はともかく、この称号を選択しているとアンデッド系のモンスターに襲われにくくなったり、仲間にしやすくなったりするという特典があった。
特に知能も感覚機能も最底レベルのゾンビなどは、完全にこちらをスルーしてくれるようになる。
サモナーな友人の召喚モンスターである戦乙女からの話によれば、何でも、アンデッド特有の波長というか死臭というか、そういうものが薄っすらと私から感じとれるようになった、ということなのだそうだ。
テイマーであり、かつアンデッド系モンスターを好む私にとって、相当有用な効果だと思う。
そんな私は今、無謀にも四強と名高い屍王城の主であるアンデッドキングをテイムしようと驀進していた。
四強とは、文字通りこのゲームにおける四天王的な存在だ。
∞のスタート地点となる始まりの大陸と別に、東西南北に大きく特徴の分かれた4つの大陸が存在しているのだが、そのそれぞれの大陸に1体ずつ四強シリーズとプレイヤーたちが呼称するボスモンスターが配置されている。
そいつらは最終ボスや裏ボスのいる別世界「煉魔獄」への扉を開く特殊アイテムを所持している、と有志による攻略サイトに書いてあった。
ダンジョン自体の難易度は上の下程度でありながら、未だプレイヤーのレベル上限100であるのに対して、四強ボスは推奨チームレベル120という反則級の強さを持っている。
それでも、ほんのわずかなトッププレイヤーたちの中に、撃破に成功したチームがあるというのだから、本当に廃人とは恐ろしいものである。
ソロで討伐が出来るプレイヤーがいたとしたら、良い意味でも悪い意味でもチート呼ばわりは免れないだろう。
ボスモンスターであるからにはテイムなど無理なのではないかと思われがちだが、少なくとも中ボスのテイムが可能なのは広く知れ渡っている事実だ。
その情報は、大丈夫のフレーズで有名なシリーズの攻略本にも載っている。
反面、ダンジョンボスのテイムは未だに誰も成功したことがないという話だが、まぁ、ものは試しと言うか、出来たらラッキー程度の気持ちで挑戦ぐらいしてみても良いだろう。
ちなみに、そんな軽さで4桁死ねる人間は私くらいだと言って、友人は呆れた目を寄こしていた。
ということで、何とか死亡回数5桁を達成する前にボス部屋まで辿り着くのが私の目標だった。
∞の世界に1体ずつしか登場しないという激レアシリーズのモンスターに対するテイムチャンスは1度きりだという話だから、ボスモンスターについてもおそらく同じだと考えて、交渉は慎重に行わなければならない。
そして、およそ4ヶ月。
プライベートのほぼ全て、実に3桁を超える時間をこのダンジョンにかけ続けて、私はついにレベル1のまま城の最下層に辿り着いていた。
過去に1度最上階に到達して、そこに中ボスしかいなかった時は、普通に泣いたし、しばらく荒れた。
ストーリーやキャラのネタバレはOKでも、地図は自分で埋めたい派だったことが災いしたのだ。
けれど、その長い長い苦労も、ようやく報われようとしている。
今、攻略サイトで確認済みの威圧感の塊のような存在が、ちゃちなモニター画面から微妙に見切れながら立ちふさがっていた。
四強ボスのアンデッドキングは、攻略本情報をそのまま信じるなら、全長約12メートルの巨大なミイラだ。
彼の周囲には白い冷気が漂い、身に纏う荘厳な闇色の甲冑からは8本の腕が伸びている。
同じく8つの手には多様な種類の武器が握られており、その巨躯から想像もつかないほどの速度で繰り出される連続攻撃は、全て当たれば盾役すら即死させるほどの威力がある、らしい。
カタカタという音に視線を落とせば、キーボードに乗せている指が小さく震えていた。
さすがに緊張しているようだ。
前代未聞の交渉に向け、私はミネラルウォーターで乾いた喉を潤してから、心を落ち着かせるため目を瞑り、数回深呼吸する。
奇跡を起こしたもう神よ、今こそ我に力を。
「よくぞ我の元まで辿り着いた、魔を狩りし卑小なる者よ。
我が名はアンデッドキング。尊き主より賜りし生命の衣を護る者」
「これはこれはご丁寧に、私はテイマーのリリリと申します。
早速ですが、キングの強さに惚れました。
主従契約からお願いします」
言いつつ、自キャラの右手を上げるRのキーを押す。
しばし、沈黙が場を支配した。
「……何だ、いきなり訳の分からぬことを…………んん?
ま、待て……貴様、レベル1?
馬鹿な、レベル1の人間がどうやってここまで辿り着いたというのだ!?」
相手のステータスを見破る能力でもあるのか、彼からすれば豆粒のようなサイズの私へ視線を落としたボスモンスターことアンデッドキングが驚愕の声を上げている。
「いえーい、死亡は友達ぃ!」
せっかくなので、キャラをジャンプさせると同時にバンザイのポーズを取らせて、お茶目な自分を演出してみた。
「……気でも触れているのか?」
正気を疑われてしまった。
コンピュータにもそういう概念があるのか。
「別段、頭部の病などは患っておりません。
だから、私にテイムされて下さい」
「意味が分からぬわ!
ええい、レベル1の者など相手にしておれるか!
即刻立ち去れ!
でなければ、骸も残さず葬り去ってくれようぞ!」
「私は滅びぬ、何度でも甦るさッ」
いやぁー、さすがは四強。
ここまでよどみなく会話できるとは、素晴らしい人工頭脳をお持ちのようだ。
というか、立ち去れば見逃してくれるあたり、生足こそ出していないが∞界のルビカン様と言われるだけのことはある。
典型的な武人気質だから、やはり弱者という存在には価値が見出せないのだろう。
ヒットポイントが3割削れた時点で「詫びよう、我は貴君らの実力を見誤っていたようだ。ここからは全力でお相手させていただく」とか言い出すような、恥ずかしい性格は伊達じゃないってことだ。
最初から分かってはいたけれど、それでも四強唯一のアンデッド系である彼を仲間にしたかった。
ぐぬぬ、残念無念。
三顧の礼の応用で何とかならないもんか。
「おい、聞いておるのかっ。
早々に立ち去れと申してお…………むっ?」
とか何とかグダグダ考えていると、私とキング2人きりであるはずの空間に、唐突に何者かの声が響いてくる。
「ふぅむ?
偶さか僕を訪ねてみやれば、何やら珍妙な虫が紛れ込んでおるようじゃな」
「……え、誰?」
辺りを見回せば、アンデッドキングの頭上より更に高い場所から、ひとつのこげ茶の塊がゆっくりと下降してきていた。
普通の人間より少し大きい、2メートルくらいのサイズの塊だ。
それが地面に達した途端、どうもローブだったらしいこげ茶の布部分が霧のように消失し、その中身が露わになる。
「おうおう、さても濃厚な死の気配を纏った人間が存在するとはのぅ。
不可思議なこともあるものぞ」
「デス様っ!」
アンデッドキングが慌てた様子で彼のものと思わしき名を呼び、素早く跪いた。
そこに立っていたのは、靡く純白のロココ調衣装と全身から発される青白い炎を纏った漆黒の人骨、その眼窩の奥にはあざやかな真紅の輝きが……っえ、待って、なに、めっちゃ格好良くない!?
どちゃくそ好みなんですけど!
ツボ百烈突き木っ端微塵不可避レベルなんですけど!
うっは、ヤバイ! テンション爆上げ!
キングの存在が現在進行形で霞んでいってる!
いったい彼は何者……いや、待てよ……デス?
「って、まさか死神!?
王、しょうなり沢山、越えられない壁、しょうなり沢山、神!?
えええっ! 全然聞いたこと無いけど、未知の隠しボス!?
きゃー、デス様ぁー!
僕と契約して主従関係になってよ!」
「何という不敬なッ!
貴様、そもそも変わり身が早すぎるのではないか!?」
恭しく頭こうべを垂れていたアンデッドキングが、私の発言を耳にした瞬間、首が取れそうな勢いでこちらを向き叫んだ。
それに対し、私は拳を握り全力で主張を返す。
「強さに惚れたということは!
更なる強者が現れた場合は、アッサリそちらに乗り換えて当然の尻軽女であるということッ!」
「おのれ、最低の発言を堂々としおってからに!」
「デス様ぁー!
ぜひ私にテイムされてくださぁーっい!」
「止めんか、不届き者めが!」
高揚する気分のままに口を開き、キャラクターにジャンプ動作を行わせるJのキーを連打する。
例え最上級の魅了魔法を使われたとして、きっとここまで分かりやすく狂う人間もいないんじゃないだろうか。
あまりにも好みすぎるアンデッドの登場に、私の理性は宇宙の彼方まで吹っ飛んでしまっていた。
この会話がもし運営のログにでも残っていようものなら、それが誰かの目に触れでもしようものなら、思い切り舌を噛んで死ぬしかないだろう。
「なに、構わぬ。良い暇つぶしじゃ」
「キャー、強者の余裕ステキぃー!」
「ぐぬぅぅ……」
「さて、人間。我が身を欲するからには、よもや対価もなしに事が成されるとは思っておるまいよ。
余の力を得る代わり、お主は何を差し出す心積もりじゃな?」
問いながら、彼は何もないはずの空中に腰掛けて足を組み、頬杖をついた。
彼の動きひとつひとつに、異様に興奮する私。
多分、鼻の穴とか超広がってる。
「はい!
私がなぜ頑なにレベル1であり続けたかデス様にはお分かりになりますか!」
「さて、問答は不得手でのぅ」
「全てはこの瞬間のため、最凶の存在の威光を我が物とせんがため。
私が差し出すもの……それは、私の未来。
これから得るはずの経験値の全て、です!」
「経験値?」
「ボス級モンスターのレベルは常に一定に保たれていて、それはプレイヤーにテイムされた後の中ボスでも例外ではないと聞きます。
……っしかぁーし!
ここでテイム条件として、本来私に入るはずの経験値を丸ごとそちらに譲渡し続けると契約を結べば!?」
「余は更なる躍進を遂げることが可能になるやもしれぬ、と。
成程、興味深い話ではあろうな」
ここで、土下座モーション入力。
コレを好んで使うプレイヤーも少なくないあたり、ゲーマーという人種は変態揃いだなと思う。
「自らの力に絶対的な自信のある存在ほど魅力を感じる交渉材料なのではと思い、今日この日まで温めて参りました!
それに、銀行にお金を預けるのと同じで、譲渡した経験値は例え私が死のうとも減ることはありえません!
ゆえに、テイムされたからと、デス様が無理に私を守る必要もありません!」
「ほんのひと時、余の気まぐれを得るために、お主は未来永劫に渡り畜生にも劣る身であり続けようというのか」
「はいッ!」
拳を握り、運動部所属の男子高校生のごとき力強さで答えた。
私のキャラクターがレベル1のままであることなど、例え束の間でも彼を手に入れられるのならば、お釣が来て余りある。
「っく、カーッカッカ!
愉快じゃ! 実に愉快な人間である!」
デスが大きく口を開けて笑った。
お、おぉ? もしかして、好感触!?
「で、では!?」
「よかろう。早急に契約書を持て」
「ハイ、ヨロコンデーッ!」
ぃよっしゃーーーーー、青田買いシステム万歳ッ!
即行でメニューを開いて、テイマー専用アイテムの主従契約書を取り出す。
これは、友人から招待を受けたことで運営から1枚だけプレゼントされた、∞内最上級品質のものだ。
今回は特殊な契約条件を必要とするので、オート作成ではなくマニュアル作成を選び、入力画面に移行する。
「デス様!? まさか、なぜそのような!」
「支配者などという存在は、のべつ退屈しておるものなのじゃ。
只人であれば歯牙にもかけぬが……ここまで珍奇な存在は、そうそう見えることもあるまい。
であれば、逃がしてしまうには、ちと惜しかろう?」
「しかし……」
「なに、そう案ずるものではない。所詮は戯れよ。
そも、余からすれば、此方との契約など在って無きようなもの。
不快と思わば、その時は我が力の真髄をもって早々に破棄してやるまで」
「…………申し訳ございません。差し出口を」
「よい、よい。忠臣とはかくあるべきよ」
「ご温情、痛み入ります」
ボス級2体の興味深い会話に耳を傾けながら、私はご機嫌で契約書に文章を打ち込んでいく。
エンターキーを押す小指の軽やかなこと、軽やかなこと。
「タッターンっとね。
そういえばデス様って、レベルはおいくつなんですか」
「貴様ッ、彼の御方と交わす契約書を地べたで!?
どこまで不敬な!」
彼らの会話を割ったことで、私に意識を向けたアンデッドキングが今更な事実に気が付き吠えた。
それに言葉を返すより先に、表情があるのなら苦笑いをしているであろう声色で、いきり立つ部下をデスが窘める。
「構わぬと申しておるに。
契約さえ成さば、過程など問題にせぬわ」
途端、大人しくなるアンデッドキング。
どことなく落ち込んでいるように見えるのは、再三デスに同じことを言わせてしまった自分を恥じているからなのだろうか。
「さて、余のレベルか。
そうさな、ただ答えてやったのでは面白うない」
さすが死の神様。面倒な性格してやがる。
「…………ふむ。
小学生色戦隊のクソ真面目な姫攫い将軍と同じ、でどうじゃ」
んん?
それって、もしかしてカラーレン…………っえ。
「ぶーーッ! まさかの4桁キタコレぇーーー!
この世界丸ごと支配可能じゃないっすかー、やだぁーッ!」
「ほぅ、前世紀のネタを即座に解するとはやりおるな」
ちなみに、彼の言う将軍のレベルは1300だ。
煉魔獄がどうなっているのかは知らないが、∞世界5大陸全てのプレイヤーとモンスターが集まっても、おそらくデスには敵わないだろう。
まず攻撃が通るのかも怪しいし、例え通ったとして、彼の体力を削りきる前に確実にこちらの陣営が全滅する。
まったく。運営は何を思って、こんなブッ壊れ性能のボスキャラを作ったのか。
アップデートで少しずつレベル上限を開放していくにしたって、あまりに果てしなすぎる差だと思う。
そして、その反則ボスが今、私のものになろうとしているのも、ハッキリ言って非常におかしい。
実は仲間にならないはずキャラで絶賛バグり中でしたー、なんてパターンも有りうる。
まぁ、だからといって、せっかくのチャンスを手放すつもりなど毛頭ないが。
しかし、アンデッドのレベルが高すぎて逆に冷静になっちゃうとか、さすがに予想外だったわー。
「よし、出来ました。
デス様。契約前にまずは内容の確認をお願いします」
「おぉ、左様か……どれ」
言って、完成した契約書を、ともすれば私より何倍も賢いかもしれない超高性能AI搭載と思われるモンスターへと手渡す。
内容はこうだ。
『一.甲はいかな方法により得た経験値も、ただちに乙に譲渡する。
一.乙に譲渡した後の経験値について、甲は一切の関与をしない。
一.甲は乙に絶対的支配権を持つものではなく、乙は甲の命令に対し拒否権を有する。
一.乙は守護・救助等が目的である場合を除き、甲を身体的・精神的・魂魄的に負傷させることは出来ない。
一.外的要因により甲が負傷または死亡の状況に陥った際、それを理由として乙に不利益が生じることはない。
上記をもって甲を主、乙を従とする魂核契約は果たされ、甲の魂核片は乙の魂魄へ、乙の魂核片は甲の魂魄へと通ずる。
なお、本契約には甲と乙両名の同意が必要とされ、甲乙どちらからでも拒否申請があった場合には、即座に破棄が可能であるものとする。』
数秒であっさり全文を読み終えたらしいデスが、コキリと首を傾げた。
あざとい。
「うん?
ちと、お主に不利な条件が多すぎるような……?」
「そうでしょうか」
「そもそもテイムとは、人間がモンスターを隷属させるものであろうが。
これでは従えるどころか対等にすらならぬ。
このような書き方では、余が気まぐれに手下をけしかけるだけで、お主はお陀仏になってしまうぞよ?」
言って、デスは先程とは反対側にコキリと首を傾げた。
あざとい。
「さっき聞いてましたけど、そちらは己の意思ひとつでいつでも契約を破棄できるのでしょう。
デス様が本気で私を殺したいと思ったのなら、どれだけこちらに有利な条件を重ねたところで意味などないではないですか。
この契約の根幹は、むしろレベル差に慣れないデス様が意図せず私を殺してしまうことを防ぐためにあるんですよ。
ちょっと気まぐれに頭を撫でてみたら死んだとか、敵を倒そうとして魔法を使ったらその余波で死んだとか、そんなのシャレにもならないでしょう?」
「……ほぅ、お主もそれなりに考えておるわけじゃな。
しかし、わざわざ契約を結ぼうというに、その内容にろくな強制力も無いのでは醍醐味がほとんど失われてしまうじゃろう」
「隷属に醍醐味って……。
というか、嫌な命令をされる度にいちいち強制解除していたら、それこそ面倒臭くないですか。
ごっこ遊びがしたいだけなら、形だけの契約で充分だと思いますけど。
常に互いの居場所と状態が把握できる基本的な機能があれば、それで問題ないでしょう」
「む……それもそう、なのかのぅ」
縛られたいんですかと問えば、そんな変態趣味はないと返される。
そういう方向の意味で言ったんじゃないんですが、貴方のAIは一体どこから何を学習していらっしゃるんでしょうかねぇ。
レベルを聞いた時の漫画ネタもそうだけど、運営遊びすぎでしょ。
「とりあえずコレでやってみて、どうしても不満があれば1度契約を解除して、それからまた内容書き直して再契約すればいいんじゃないですか」
そこまで伝えると、ようやくデスは心を決めたようだった。
「…………うむ、そうさな。
あい、分かった。この条件で呑むとしよう」
「ありがとうございます。
では、乙署名欄にサインを」
「苦しゅうない」
書類を受け取り、彼が右手人差し指の骨を小さく回すと、そこに虹色の美しい羽ペンが収まった。
「ちなみに、これはこの世に1羽しか存在せぬという伝説の死食い鳥の尾を使った大層貴重な羽ペンでのぅ」
「何ですか、唐突に。くれるんですか」
「コレクションを見せびらかしたかっただけじゃ」
「なーんだ、じゃあ興味ないです」
「余の力を求めるほどの強欲さを持ちながら、高価な品には目もくれぬ、か。
難儀な娘じゃ。ホレ、返すぞよ」
「あ、はい…………デス・S・グリムリーパー?
うっわぁ。運営ってば、名前付けどれだけ面倒くさかったのコレ。
ま、いいか。私もサラサラーっと」
センスの微塵も感じられない名を確認してから、甲署名欄に∞内で使用しているリリリ・バーナムという自身のキャラクター名を刻んでいく。
それが終わると同時に、契約書が激しく発光し、私とデスの2人は目映い光の空間へと誘われた。
次いで、空間の中央に浮かぶ契約書からレーザーじみた赤い光が伸びて、2人の胸部を貫く。
そのまま互いの背から飛び出した光は、やがて手を取り合うように繋がり合って、ひとつの輪を描いた。
数秒後、輪の色が赤から青に変わったところで、光はゆっくりと消失していく。
さすが、最高級の契約書は演出も派手だ。
空間が消滅し屍王城に戻ってくれば、ノンプレイヤーキャラのそれとも違う、いかにもコンピュータですといった風情の音声がテロップと共に流れてきた。
【ここに契約は完了し、人魔の魂核は交わされた
慈悲深き博愛の者よ、険しきその道程に幸あれ】
うぉっし、インフォメーションきた!
再び旅立とうとする理性を引き止めることなく、むしろ敬礼で見送る私。
「やったぁ!
これで神の威を借る寄生虫女の爆誕というワケですね、デス様ぁ!」
「うむ、身の程を弁えた良い主人である」
こうして、レベル1の雑魚テイマーは最高に凶悪でイケメンなアンデッドを手中に収めることに成功したのだった。
うほーい、我が道程に幸あれーぃ。
おまけ~その後の会話~
「それで、余という力を手に入れた主人は、これから如何に動くつもりじゃな」
「とりあえず、友人のベン丸……あっ、正式には、朝から大ベン丸って名前なんですけど、に自慢しに行きます」
「奇人の友は奇人か。
あぁ、否、かような直近かつ些末な未来の話ではなく」
「えっと、普通にランクの低い順からギルドのクエストをこなしていきますよ?」
「ん?」
「雑魚モンスターやモブ盗賊なんかをプギャーするのは良いですが、他のプレイヤーに絡まれると面倒ですし、万が一にもデス様が運営に修正されたり不正だって私がアカBANされたりしないように、あまり目立った行動は控えてくださいね」
「えっ」
「え?」
「……マジで言ってんの?」
「ほわっ!?」
「わざわざ煉魔獄の支配者である余を従えておいて、なに?
有り得なくない?」
「ほえあぁ!?」
えっ。デス様、素はそんな感じなんですか?
それとも、驚くとギャル化するんですか?
あ、あざといっ。




