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春の夜に咲く夢のように

今後の成長の為厳しいご指摘いただけると幸いです!


「ギャギゲヶェッッガギャャァァァゥッッッッ!!!」



 鶏の……正確には村で飼育されている低級魔獣コケコッコンのけたたましい鳴き声と共に異世界の1日が始まる。



 朝日と共に目を覚ましたらまずは洗顔トイレ洗濯。村の広場で朝食を取ったあと、午前中はサモンによる魔法陣を構成する魔法文字の基礎学を学ぶ。

 なんでもこの文字が理解出来なければ魔法陣を理解出来ない、即ち魔法陣を用いる魔法――高位魔法の大半が使えないということらしい。


 新しい言語を習得するのだから困難であることは当然だが、モーグラの一件でただ襲われるだけというトラウマを植え付けられたタクヤが魔法を使えるようになりたいと思うのもまた当然のことだろう。



 昼食を挟んでからは食料の確保やその他雑務。


 山菜を取る時のコツはとにかく早く摘むこと、鮮度が落ちると味も比例して落ちる。

 一方木の実は枝の付け根を痛めないよう慎重にもぐ。

 背負い籠で採った食料を運ぶときは前傾姿勢になりすぎないように注意する。

 薪を割るときは全身を意識して、斧を振り上げるときは絶対に勢いをつけず、下ろすときは重心をかけつつまっすぐと。



 一連の作業を終えたあとはどっと疲れた全身を草原に任せ寝転がったり、村の子供達と戯れたり……。

 初めの頃こそ怯えて近づこうともしなかった子供達だが最近では少しずつ話しかけてくる子が増えた。きっとタクヤがこの村に溶け込んだという証だろう。



 この世界に来て2週間あまり、不慣れだった生活にも随分と馴染んできた。



 このニコラ村はリバー王国という国の最東端に位置する村。南北を山脈に、東を魔獣の生息する森に囲まれた俗に言うド田舎だがそれほど不便はしていない。


 なぜなら村長とタクヤを含めた大人2人と10人ほどの子供たちは魔獣討伐や森の採集で食糧を確保する自給自足の生活を送っているからだ。

 そのせいなのか子供たちはみんな活発で――


「――っと!」


 目の前でダイナミックに転んだ村の子に「大丈夫!?」とタクヤは駆け寄る。


「大事がなくてよかったです……でも擦り傷しちゃってる、急いで水で洗い落とさないと」


 次いで来たサモンは泣きじゃくる子供の怪我の具合を確かめるとホッと胸を撫で下ろしたように深く息を吐くように呟いた。


「あ、じゃあ俺の水魔法で……ふぅ、とにかく軽い怪我で良かった」


「全然軽くありませんよ! 破傷風になったら大変なんです!」


 サモンは子供の怪我の箇所に包帯を巻きながらややきつめな口調で否定する。


「そ、それはそうだな……てかそんな病気こっちの世界にもあるんだな」


「そういえばタクヤさん! あなた昨日も村の外の森を出歩いてましたね? それに一昨日は村の子達と一緒に!」


「ごめんごめん、でも低級魔獣は魔法の練習に1番だし……」


 事実、あれ以降森で魔獣と出会うことは稀になり、いたとしても弱い低級魔獣だけだった。


「森は危険だって何度も言ってるじゃないですか! モーグラを倒したからって変な自信ついてません?」


「そんなことないって! それにいざってときは村に帰ってくればこれが……」


 タクヤの目線の先には地面……に置かれた拳大ほどの石。



 モーグラの一件を経て魔獣への対策が為された。それがこの魔獣用の地雷だ。

 魔獣にのみ反応する探知の魔法陣と、それにより発動する爆砕の魔法陣をそこら辺の石に刻んだだけのもの。

 かなりの低コストでありながら1個で上級魔獣1体を倒せるほどの高パフォーマンスを発揮するらしい。


 しかし『刻んだだけ』と一見簡単そうに思えるがこれがなかなか難しい。というのも小さな石に複雑な魔法陣を刻むこと自体が至難の技だからだ。



 ――数日前。

「ちょっとジャック君! これ探知の魔法陣が雑で発動しにくくなってる!」


 サモンはジャックの作った地雷を指差して言った。


「え!? ……んなことねえよ! 120%発動するって!」


「発動しなかったらどうするの!?」


「いや、このまんまでもゼッテー発動するからって!」


「ほらここ! 魔法陣が途切れてて……!」


「ふ、2人とも落ち着いて……」

 ――



 こんな感じの苦労を乗り越え作られた地雷は夜や夕方にコソコソと設置された。


 サモン曰く『ゴブリンとかは馬鹿でも間抜けじゃないんです。あからさまに設置していたら目の良い斥候ゴブに地雷の位置まで特定されちゃうんです!』だからだそうだ。




「タクヤさん、地雷頼りじゃいつか大変なことになりますよ?」


「あはは、まああれ以降上級魔獣は来てないし……」


「そうそう、それにもしやって来たとしてもまたおっさんが返り討ちにしてくれるだろ? な?」


 いつの間にか現れたジャックが背中をバンバンと叩く。


「いや魔獣に襲われることしかできない俺には無理だよ、ジャックは俺のこと過大評価しすぎだって……」


「そんなことねえだろおっさん! 現にみんなから村の救世主って呼ばれるくらい慕われてるじゃねえか!」


「いやいや、そうじゃなくてだな……ん?」



 誰もいない背後を振り返るタクヤ。


 ――誰かの視線を感じた気がするが気のせいか?――



「……? どうしたおっさん?」


「あ、ああなんでもない」



「ねーねージャック! もし魔獣がきたらぼくも2人といっしょに魔獣たおしていい?」


「は? オデが最初にたおすんだぞ!」


「ちがうよ! ぼくが――」



 ぞくぞくと集まって来た村の子たちがタクヤの周りを囲む。どうやら誰が1番最初に魔獣を倒すか言い争っているようだ。


「ま、まあみんな落ち着いて……」



 この村には大人がいない、でも子供たちは大人がいなくてもたくましく生きている。



 本来ならば警察や軍隊といった暴力装置としての立場であるはずのリバー王国騎士団。その前団長、“将軍“と名乗る人物による圧政と暴走。その結果起こった4年前の騎士団内の分裂と内戦(クーデター)


 こうして王国が存続していることから内戦(クーデター)の勝敗は容易に想像できる。だがそれにより何人の人々が死に、苦しんだかは到底理解できるものではない。ましてや人々は以前から“将軍“の重税と厳罰に苦しめられていたのだ。


 この小さな背中にはあまりにも大きすぎる暗い過去を彼らは背負って、その上で彼らは笑顔で生きている。


 子供達だけとも言い切れない。



「おや、いいところにいたタクヤさん」


 いつもみたくゆっくりと手を振りながら歩いてくる村長ペルティエにタクヤは条件反射的に嫌な予感を覚える。


「村長、今度はなんですか? また森に行って幻の果物を探してこいとか言いませんよね?」


「違います違います。タクヤさんは来週村で豊穣のお祭りをすることはご存知ですよね? その時にこの文章を読んで欲しいのですが……どうでしょう?」


「えっ、それって確か神様に直接感謝の言葉を述べる凄い重要な役目のはずじゃ……」


「タクヤさんなら誰も文句は言いませんよ」


「おっさんよかったじゃねえか!」


「…….ほんとにそれだけの仕事なんですか?」


「……それだけですヨ?」


「……分かりました。それでは、謹んで受けさせて頂きます」


「あ、ちなみに文章はこのメモ用紙に書いてあるから、当日までに全て暗記してきて下さいね? はいどうぞ」


「ちょっとッ! この紙の束は何ですか村長ッ!」


「アハハハハ」



 こうしてみんなで笑い合える日々。

 朝起きて食糧を獲り夜に寝る。単純なようで充実した日々。質素でありながら満たされた生活。



「平和だなぁ……」



 ――異世界転生といえばドラゴンを倒したり魔王を倒したり冒険したり。そんな……俺には遠い遠い夢物語だった。

 でも、こうして平和に暮らしている子供たちがいて、俺がいて。こんな平和な毎日こそ……きっと本当に大事な、新しい俺の、これから始まる幸せな異世界ほのぼの人生の始まりなんだ――

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