序章 ルキアの新鋭たち 2節 レドー盗賊団追討戦
7月29日。
B組の今月の課題は、ルキア諸侯自治領各地で盗みを働いている大規模な盗賊団の討伐だ。中央騎士団によれば、現在はカルカド男爵領内にアジトを構えているとみられるという。
7月中は小規模な盗賊の成敗を行って実践を積んできたソーマ率いるB組。この日は中央騎士団から派遣された勢力を同行させ、カルカドのアナス村に向かった。このアナス村は教師サリアの実家のある村だったが、盗賊団の被害が多発したことから村の自警団が警備にあたっており、B組はサリアとソーマの言伝で自警団と協力体制を敷き、1か月にわたりアジトの探り当てをしていた。
そして課題出撃前日になり、アジトとなっている場所が見つかった。アナス村のはずれにある民家が盗賊団のボスの隠れ家だったのだ。その関係でボスの部下が村近くに出入りしていたのだという。そのボスの名はレドー。30代前半の小太りの男である。
村内に陣地を張って軍議を始めるソーマたち。
ソーマ「いよいよ、大規模な盗賊をぶっ潰す時が来たな。先生の村も、こいつらにはひどい目にあわされてきたからな。自警団と協力して、返り討ちにしてやろうぜ」
サリア「兄さんの交易を邪魔しているとも聞きます。絶対にボスを倒しましょう」
フィニス「みんな、無理はしないでね。兄さんも、先生も、フレインも。私が魔法で傷を癒すからね」
フレイン「ソーマ、準備ができたら号令を頼むよ。相手は自警団に気を取られて、僕たちには気づいてないみたいだから、今のうちになだれ込むぞ」
ソーマ「他の者も、命大事にしろよ。成長しているとはいえ、本物の戦いだ。相手は盗賊だが、大規模な盗賊団だ。気を抜くなよ。」
その頃、レドーのアジトでは…
レドー「最近、村の周りで人が見張ってやがる。あいつらのせいで、オレたちの食料もあぶねぇ。遠い町までいかにゃ、いいものがとれねえんだよ」
したっぱA「とはいえ、ここまでは中央騎士団の手も入ってこれねぇぜ。自警団さえやっちまえば、村の食べ物は奪い放題だぜ」
したっぱB「親分。自警団をやるための段取りは、もうできてんのか?ここを攻められると、長くは持たねえだろ」
レドー「だから、その前にやっちまえばいいんだろ。警備が手薄な時を狙って、一気にかかるぜ」
したっぱC「報告ー!村の方向から人影が!親分、敵襲のようですぜ!」
レドー「くそおっ! 自警団か! 野郎ども、武器を取れ!奴らを返り討ちにしてやれ!」
したっぱたち「うおおーっ!!」
ソーマの号令を受けてB組と中央騎士団が自警団とともにアジトへとなだれ込んだ。
レドー「自警団…だけじゃねえな。あの軍旗は…中央騎士団か! くそっ、自警団の奴め、騎士団に通じてやがったのか!」
ソーマ「出たな、レドー! お前たちのせいで、この村でいったい何人がひどい目にあったかわかるのか!答えろ!」
レドー「このレドー様の縄張りを荒らすとは、命知らずなガキどもめ!まとめて頭カチ割ってやるぜ!」
アナス村自警団と中央騎士団によるレドー盗賊団討伐戦が始まった。
レドー盗賊団は戦闘慣れしている者も多いが、中央騎士団の統率力には手が出ず、終始中央騎士団側のペースになっていった。
ソーマも剣を振り回しつつ味方を鼓舞し続け、レドーの元へと迫っていく。レドー盗賊団のしたっぱたちを次々と切り伏せて、レドーの前にソーマとサリアが現れた。
レドー「よくもオレたちの縄張りを荒らしたな! てめーら人間じゃねえ! 行くぜ!」
サリア「あんたのせいで困っている人がたくさんいるの。兄さんも、稼ぎを盗まれたことがあった。だから…私はあんたを許さないよ!」
ソーマ「先生の兄貴が世話になった礼だ! お前のツケは、お金では払えねえぞ!思い知れ!」
レドーは手慣れた斧さばきでサリアとソーマに襲いかかる。後からフレインもレドーの元にたどりつき、槍でレドーに襲いかかった。
激しい攻防の末、レドーが斧を振り上げた一瞬の隙にソーマの突きが胸に刺さり、レドーは地面に伏した。
レドー「なんて…ヤツらだ…覚えて…いや…が…れ…ぐふっ」
ソーマ「レドー親分は倒した!俺たちの勝ちだ!」
したっぱ「親分ー! 親分がやられたー! 逃げろー!」
残ったしたっぱたちは散り散りになって敗走していった。
フィニス「これでもう、大規模な盗賊被害は起こらないよね」
ソーマ「ああ、そうだな。おそらくレドーは生活に困窮して、盗みに手を染めてしまったのだろう」
サリア「カーラルのスラム街を見たでしょう。カーラルのスラム街は貧しく、盗みに手を染める人も多いと聞きます。しかしあの規模の盗賊ははカーラル周辺ではまず見なかった気がします」
ソーマ「俺もわかるよ。自治領は各領主が別々に領地を持ってるから、交易がしづらいんだ。いずれは誰かがルキア全土を統一して、交易を盛んにしなくちゃあいけねえんだ」
フレイン「そしてそれは、かつてこの地に存在したルキア王国の王家だったアーク家の末裔でなければなりません。幸い、アーク家の末裔はこの地に何人かいますよ、先生。いつか言おうと思っていたのですが、ソーマ君とサリアちゃんは、そのアーク家の末裔なんです」
サリア「え、あの2人がですか? ですが、なぜ今…」
ソーマ「実は、そうなんだ。フレインにはいっているけど、俺はルキア王家の末裔だってことを幼いころから家族から聞かされていたんだ。いろいろあって、家族とフレインとフィニス以外には言えなかった」
フィニス「私も、そのことは周りに言っちゃだめって言われてて」
サリア「そうだったんですね…。事情は理解しました。このことは、他の皆さんにもお伝えした方がよろしいでしょうか…」
ソーマ「今はまだ秘密でいい。来るべき時に言うことなんだ」
サリア「そうですね。その時が来るのを、私も今から楽しみです」
フレイン「先生。どうしても言っておきたかったのです。この者たちの背負うべき使命を。僕は、2人に初めて会ったときから、感じていたんです。どうか、2人をよろしくお願いします。僕も2人を支えられる立派な騎士になって見せますから」
レドー盗賊団を壊滅させたソーマたちは、課題をこなし、勉強を重ね、さらに鍛錬を積んでいく。