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あなたと異世界の物語  作者: паранойя
4.高い塔の男

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39.「これから」

 あれから少し経って、王都の端くれにある場末の食堂。特にこれといって華はないが、酔って不満をぶちまけるには向いているような、そんな場所。そこであなたたち一同は顔を揃えていた。

 椅子はなく立ち飲みで、テーブルには簡単なおつまみ。それぞれの手には弱いアルコール飲料、クワスが注がれたジョッキが握られている。


「――本当にすみませんでしたっ!」

「いいっていいって、わかったから……」


 あと何回このやり取りを繰り返すのだろう? あなたはジョッキに半分残ったクワスを一気に飲み干し、そう思った。

 あまり強くない酒であるし、カレンもまだ一杯かそこらしか飲んでいない。それで耳まで真っ赤になっている。しかし傍から見ればもう完全に出来上がっていて、入店してまだ十分そこらとは誰も思うまい。


 酒に強い弱いを別にしてあまり飲ませたくない人種というのは確かに存在するが、カレンはそれに当てはまるのかもしれない。呑んで自省を始めるタイプは、特に危険なのだ。


「ちょっと」

 

 メイベルがジョッキを空にして、あなたに囁いた。抜け目なく追加で二杯、自分とあなたの分を注文して。


「あんたも何とかしなさいよ。私ずっと面倒見てるんですけど?」


 残念だがあなたではどうにもできない。全く起こっていない事柄にひたすら謝られていることは分かるが、それを収められるほど口は上手くないのだ。むしろ、余計なことを言って事態を悪化させたことの方が多い。


 それよりも、と言っては何だが、あなたにはずっと気になっていたことがある。

 メイベルの脚についてだ。巨大ワームとやりあって骨折してからそれなりに日は経っているが、それでもまだギブスが外れるには早いはず。しかし今はいつものブーツを履いて、しっかりと二本の脚で立っているではないか。

 

「あー、これ魔術よ。シロアッフの手下がやってくれたわ」


 それも魔術、これも魔術、あれも魔術……つくづく魔術とは便利な物だ。あなたにも魔術の才能があれば、もう少しスマートに生きられたかもしれない。


「諦めなさい、才能だから。万能って訳でもないし」

「わだしも才能なかったんですよぉぉ……」

「はいはい、残念だったわね」


 とうとう泣きに入りかけたカレンの頭をぽんぽんと叩くメイベル。流石にラウラの友人だっただけはあり、酔っ払いをいなすのに手慣れている。

 

「いくら魔術と言えども、骨折を治すのはかなり難しい。多分シロアッフもそうだろうけど、部下も手練れ揃いだと思う」


 あなたが下手なことをしない限り直接的衝突には至らないはずだが、いつどうなるかは分からない。政府の連中との仕事で一番重要なのは、彼らを信用しないことなのだ。

 ……メイベルが参加したのは自分の意志だと聞いたが、あなたが止めるべきだったのかもしれない。少なくとも、楽しい仕事にはならない。


「楽しいのよ、私にとっては。これでも魔術師の端くれ、王国書庫に関係すると言われれば、指咥えて見てることなんてできないわ」


 二杯のクワスがテーブルに届いた。カレンには店の好意で一杯の水が。

 本日三回目の乾杯をして、一息に半分飲み下した。乾杯の音頭はあなたが取って、仕事の成功を祈っておいた。酒を飲む時は毎回必ず乾杯をする、それがこの国のマナーだ。


 よく冷えた水を飲んで文字通り頭を冷やした様子のカレン。眉間を親指と人差し指で押さえて、天を仰いだ。


「……冷静にならなきゃ、ですね。あれだけのことをやって――後悔はしていないはず、なんですけど。きっと」

「あんた達がやったこと詳しく知らないけど、終わったこといつまでも考えたって仕方ないわよ。どんなに嫌でも明日は来るんだから」

「明日……仕事ですね」

「そうよ。しゃきっとなさい」


 明日から仕事が始まる。内容はまだ知らされていない。

 何にせよ選択肢はないのだから、せめて万全の体調で迎えたかった。


「ま、酒に頼るのが悪いとは言わないけどね」

「時と場合による、ですね。では、明日の話を――」





 翌朝。あなた達一行は、教会騎士王国書庫保安部――通称、図書司書――の元を訪ねていた。

 王都の地下に隠されたそこに至るまでには複数の通路があるらしく、あなたが教わったのは一軒の民家に偽装した図書司書の管理物件、その床下から続く秘密の通路だった。

 その民家には二人の老夫婦が住んでいたが、シロアッフの息のかかった人間だったようで、あなた達を迎えるやいなやあっさりと通してくれた。


 脇道のない通路をまっすぐ歩いて数分、見慣れた場所に出た。


「おはよう……現在時刻午前八時半、時間通りだな。素晴らしい」


 先日と同じ部屋の同じ椅子に、シロアッフは座っていた。あなた達もそれぞれ適当な席に腰掛ける。


「朝はちゃんと食べたか? 昨日は眠れたか?」

「まあ、大丈夫よ。それで仕事は?」

「ここだ」


 そう言って、シロアッフは円卓に置かれた分厚い本に右手を重ねた。その仕草は、まるで聖書に誓いを立てる裁判官のようだ。

 丁度半分のあたりでページを開き、指である一行で止めた。


「今回の目標は『魔法陣演算理論の展望と可能性』これの三巻だ」

「内容は?」


 魔術書関連と聞いた時点で分かり切っていたことだが、やはり主導権はメイベルが握っている。あなたとカレンの出番はもう少し後になるだろう。


「その名の通りだよ。魔法陣の演算に纏わる専門書だ」

「ふーん、あんたの言ってた禁書とは程遠く聞こえるけど」

「我々の主たる役目は潜在的脅威が顕在化する前に対処することだ。今回では、これの所有者――魔術結社《算術同好会》が行っている研究が問題でね」


 問題は本そのものではなく、それを使用した何かしらが不味いらしい。としかあなたには分からなかった。カレンの様子も見てみたが、難しい算数にぶち当たった子供のような顔をしている。


「連中は魔法陣の演算速度で世界最速を目指しているようだ」

「……そもそもなんで本が連中の手に渡ってるのよ」

「我々が貸していたんだ、利害の一致があって。しかし返却期限はとうの昔に過ぎている」

「魔術師に魔術書貸したらそうなるわよ。帰ってくる訳ないじゃない」


 いつかメイベルが言っていた、魔術師は厄介な連中ばかりだと。あなたでさえ借りた物は多分返すのに。


「貸したのは別の部署だ、全く……まあ最初はお手並み拝見ってことだよ。上手くいけば誰一人血を流さずに済むだろう」

「話し合って解決できるかしら」

「連中はメイベル、君と話がしたいらしくてな。研究に一言二言意見が欲しいらしい。納得がいけば本は返すと言っていた――本当かどうかはともかく」


 魔術研究に意見できる機会を得たというのに、メイベルの表情は浮かばない。


「待って待って、魔術演算は私の専門外よ」

「曰く、別の角度で他分野の専門家の意見が必要だと。ここは一つ頼むよ、君達には期待しているんだ」

「……あのー」


 カレンがおずおずと手を上げた。


「我々の役目は何になるんでしょう」

「事態が拗れた時の用心棒だ。あまり死人は出したくないが、四人までなら甘く見よう」


 それはあなたの得意分野ではあったが、殺しの調整をするのは苦手である。しかしどうこう言っていられない状況なのだ。しくじれば死の危険があるし、どちらにせよあなたとカレンは死刑になる。上手く切り抜けるしかない。


「連中の居所を記したメモを渡す。頼んだぞ」


 上手く切り抜けてみせる。今までそうしてきたように。

 あなたは密かに決意を固めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 算術は恐ろしいアビリティじゃて、イれ込む魔術師がいても何もおかしくはない…… 今回も頼りにしてますぜメイベル姉貴
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