満天の星、満開の花。
豊臣秀吉の台頭によって終わりを告げた戦国時代。桃山時代の始まりと終わりの期間の期間に起きた《赤い風》による辻斬りの真相を薬師と武士が追い詰め暴く。
青龍刀を振り回す大柄な武士が辻斬りを行っている。そんな風聞が聚楽第にもまことしやかに広まっていた。
「新しい刀には人の血の味を覚えさせねばならぬ。それ故天の雲を突こうかと言う大男の武将が辻斬りを市井で行っているそうだ」後の世で言えば安土桃山時代の後期の話である。太閤秀吉は…元々小柄な男ではあったが歳を重ねすっかり小さな老爺となっていた。柔和な顔の中で眼光だけは鋭く光っていた。話の相手は家康であった。「徳川殿までそんな埒もない話に耳を貸すのか。如何に狐狸妖怪の棲む都とは言えそんな大男がいれば直ぐに捕縛されるだろうに」「葦の原の江戸には本物の狐狸妖怪ばかりでしてな。天の雲を突くような大男を見掛けたことも一度や二度ではない。ましては千年の都。何が起きても不思議な事は無いが」千本の刀を集めれば願いを叶えてやろう、と唆された(そそのかされた)武蔵坊弁慶と言う大男の話はまだ記憶に新しい。老爺にしてみれば。
1.赤い風。
初めて《赤い風》を見たのは十にならずやいなやの頃だった。その骸は夜鳴きの蕎麦屋がいつも通りに店を開く橋のたもとにころがっていた。「酷ぇな」「見つけた親父さんもさぞかし驚いただろうな」検分に当たっていたのは薬師高坂家の次男坊敦盛と武家佐山家嫡男慎一郎である。太閤検地と刀狩りにより武家以外の者が刀を持つ事は公には認められてはいなかった。「余程の使い手なのかな。つむじから唐竹割りに真二つにされている」「長刀では無さそうだが」慎一郎は込み上げてくる酸味に嫌悪感を覚えた。それにしても薬師と言うのは豪胆なものだ。まるで唐王朝以前の史書に出て来る青龍刀で力任せに叩きつけたようにひしゃげる人だった生き物。「それにしてもむごいな」「そうかな、獣がじゃれてかぶりついた骸よりは原型を留めて居るだけましだと思うが」等と言う。慎一郎は蕎麦屋の主人に水をもらい。口を拭った手拭いを洗い…固く固く絞った。
まだ物語には程遠いのですが。投げ出さないようにしっかり正気を保って書いていきます。