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Scene 3 新生活と総括と

 それから数日。

 件の彼とやらが帰還する前日。

 先日の田岡さんのような反応は、ときどき騒ぎがある程度に落ち着いていた。

 ……つまりやっぱたまにはある、ってことなんだけどね。

 私はこなしている仕事の合間や、休み時間とかに、少し角度を変えて、改めて三か月勤めたこの職場を眺めまわしてみていた。

 結果、判ったことがあった。

 

「成川さーん、悪いけど手伝ってくれるかな。……上野さん、成川さん借りるよ~」

 私の直属の上司である上野さんがパソコンと書類の向こうから手を挙げて応じている。一般の企業では総務部長、と言ったらいいのだろうか。そういう立場の人である。

 こんなこと、前の会社ではあり得なかった。

 この会社にはセクショナリズムなんていうものは、ほとんどと言っていいほどないらしい。

「成川、ただいま、借りられに参りました!」

 小走りで駆け寄り、元気よく敬礼で答える三〇女に、呼び出し主である沢口がいや悪いねえ、と応じる。

 お互い、笑顔。

 だが沢口氏、ここまで修羅場だったようで、ちょっといつもよりやつれた感じ。

 これは借りられ甲斐がありそうだ、と少し頬がひきつりかけたその瞬間。

「うん?」

 彼の笑みの、質が変わった。

「――いいカオになったな」

 え?――。

 あーっ! っていう叫び声? が聞こえる。裕子の声だ。

「沢さん、それセクハラぁ」

 居をつかれた沢口さんは、なぜにーっとまた大騒ぎ。

 いや、それセクハラ違うわ。

 ……相変わらず賑やかな職場です。

 沢口さんから仕事の手順を教わる。

 テキパキとした指示。

 質問を途中で挟んでもいやな顔どころか、先ほどのような――なんていうか、意志の込もった笑みで応じられる。みんなが仕事を前に進めるべく、最善を尽くそうとしている。多くの人がそれを楽しんで──もとい、どうせやるなら楽しもうとしている。

 これが私が得た、結論の一つだった。


 急遽発生した業務で、ちょっとヘトヘトになりながらの帰宅途中。

 まだ七時前。以前の会社でも、繁忙期以外はこのくらいの時間には会社を出ていた。

 思えば、プライベートの時間はたくさんあった。

 繁忙期があって、その時は一〇時一一時になるときもあったけれど、それは確かに忙しくて残っていたのだけれど、仕事だけでこんなに疲れ切ることはほとんどなかった。でもなぜか、今の方がずっと充実しているし、気分もいい。

 いろいろなことが私なりに判った──と、思う。

 それは、全員がほぼ全力で仕事をしている、ということ。

 ダラダラしてると、多忙な人の手伝いに回される。だから忙しそうに仕事をする、ということが、前の会社では人にもよるがまあまあよくあったし、一般的にもありそうなのだが、この会社ではそれがない。少なくとも私が見える限りにおいては。

 来月の給料日、楽しみにしてな――と、帰りがけに、沢口氏に満面の笑みで言われた。

 沢口さんはサブマネージャークラスの人間だが、人望も厚く、周囲の評価も高い。入社して五年目くらいらしいが、年は三〇代後半に入ったくらいで、私と同じ転職組の一人だ。転職した年齢的なタイミングは私とほぼ同じくらい。

 そんな彼が、同じような身の上の私に、わざわざ嘘をつくとは思えなかった。そもそもそんな意味がないし、そういう話、確かに入社前後に上野さんから聞いた覚えもある。ウチは固定給制じゃないよ、一応専門職制もあるけど、人材は流動させるからね――と。完全な内勤(いわゆる庶務系・経理系)でも、働きぶりに応じて即座に給料は変動することがある――と。

 準歩合制。

 私の場合、最低保障給料が、前の会社の二五パーセント減からのスタートだった。最低保障額が極めて低く抑えられる(こともある)金融系などと違って、比較的良心的だと思ったのは確か。でも正直、自分にとってはその程度であれば、そこはそんなにこだわるところではなかった。

 そりゃあ、多いに越したことはないんだけどさ。

 事務部門なので、普通にこなしていれば下がるということはない。が、そう上がることもない。ちょっと能力給的なものが加算される程度で、制度上はどうなっていたとしても、実際には一年に一回とか、多くて二回くらいのレベルで、少しずつ昇給するくらいだろうと、そう思っていた。最低保障給料の額と会社の規模から、そんな感じだと思い込んでいた自分に、やっと気づいた。

 記憶はしていたが、処理できていなかった、ということだ。

 我ながらマヌケな感じ。

 いや、実際マヌケなんだけど。今、総務部門にいるんだし。

 事前に聞いていたのは、この会社が基本的に成果主義で、給料が下がることも結構あるらしいが、(間に何かを挟んだ気がするが)上がることの方が多い――そういう説明だったと思う。

 それがもう、来ようとは。

 ……私、なにかしたっけ?

 しかも良い方向で?

 遮二無二働いていた気はする。前の会社では当たり前でないことに遭遇しても、気前よく応じていたのは、それはそうだった気がする。でもそれも、協力要請があっけらかんと公然とセクションを無視して行われ、上司の顔を窺い、何となく「行け」というニュアンスがあったからそうしたまでのこと。

 田岡さんや小野クンのような現業部門の人はみんなそうだったから、そのノリをまねてみたというか、今の私で精一杯のことをしようと思っただけだった──のだが。

 

 別れ――。

 あのことの傷が癒えたわけではない。

 最初は、「そんなのあり得ない」と呆然とするだけだった。

 でも次に来たのは、来るものと思っていた「怒り」でも「自棄」でもなかった。

「あんたは捨てられたんだ」

 事実を告げる私の中の私。

 まさか──と思ったけれど、そう語りかけられた瞬間、私は涙を流していた。

 泣いた。

 哀しい涙じゃなかった。

 悔しい――それは結構近い感情かもしれないが、それとも違う。

 正直よく解らない。

 ただ、キーは彼にある。そう思った。

 私はあのあと、すぐ会社を辞めたわけではなかった。人脈はそれなりにあったから、彼の周辺に何件かアプローチ。それが自分の恥をさらして歩く行為である、ということに気づくのに、私は一月近くもかかるほど、動揺していたらしかった。

 今思い起こすと、事情を知らない者の反応はごく普通だったが、事情を詳しく知っている者の反応は、皆、どちらかと言えば嘲りに近いものだった気はする。

 それはもう、今更振り返ったってしょうがないのでいいのだが。

 ……いや別に、良くはないんだけど、覆水盆に返らずなのだから仕方ない。

 で。

 彼のことだけに詳しい知人たちの中から、こういう声が聞こえてきたのだった。

「努力する者が報われた典型例だな」

「死ぬほど頑張ってたからな。長所を維持するのも普通の人には案外難しいのに、ヤツはそのまま弱点を克服した。出世しないわけがない」

「あれ以上の栄典はそうそうないだろう。ここから五年くらいが勝負だな。これを完璧な形で超えられれば、もう本社の役員コースもほぼ間違いないだろう」

 その前に嫁さんもらった方がいいけどな――最後の言葉の主は、二〇年以上先輩の、分社化によって彼と同じ会社に転籍してグループ会社の役員になっている、彼の上長の言葉。

 彼は、私たちの関係は知らなかったと思う。その彼が、さらりとそう言ったくらいだから、本当にそう思っていたのだろう。グループ会社の役員レベルの中では、もう規定路線──とはいえまだ、その規定の路線に乗ることを許された候補者というレベルだろうが──ということなのだろう。

 そして、事情を詳しく知っている者たちで、おそらくきっと良心的な人たちは。

 どうしてついて行かなかったの? と。

 みんな言外にそうにおわせるような反応を示していた。

 情報をためるだけため、そして心を落ち着け、処理に入った途端に私は理解した。

 彼にとって、私は役者不足の存在になっていたのだ。


 もともとは、どちらかといえば、私が彼を下に見ていた。

 年齢的には一つ下だが、出た大学は私の方が偏差値が高いし、しかも彼は一浪していた。

 さらに、若手社員では例外と言っても言いすぎではない、英語が話せないという欠点。読解も作文も苦手。よくそれで入社できたものだ。コネでもあったのか? と疑いたくなるくらいな感じ。

 でも彼と付き合っていく中で、コネでないのがすぐわかった。

 飲み会の時を思い出すだけ。それだけでよかった。

 コネ入社なら、そんなことでは荒れない。

 でも、彼は入社してきた。

 それは、弱点があっても勝ち抜けた、ということ。これは、それなりに強力な才能を別に持っていた、ということになる。

 目立った資格を持っていたわけでもなかったはずだが、それでも採用担当者たちの目を逸らさせなかったのだから、そうなるに相応しいなにかを、彼は間違いなく持っていたに違いない。

 こう言ってはなんだが、彼には人物として魅力があった。飲むと愚痴っぽくなるところはあったけれど──そうじゃなきゃ、私だって付き合ってなんてない。

 その彼が別れの日──ケータイで英語をしゃべっていた。

 綺麗な英語だった。

 弱点を彼は克服していたのだ。

 この、わずか数年の間に。

 二〇代半ばから、それをモノにするのは大変だっただろうに。

 それなのに、彼女たる私、最も近くにいたはずの私は――まったく気づかなかった。

 ある意味、自分のことに精いっぱいだったから。

 自分の見てくれとか、見栄とか――。

 流行をはずさないためにファッション誌やネット中に溢れる情報を欠かさず、背伸びしてブランド物を買いあさり、そのくせ個性を求めて四苦八苦。

 そんなのばっか。

 しかも、そこで求めているものの根本の幾分かは、どうやったって年齢とともに衰える。

 いや、正確にはその年齢にふさわしい綺麗さだとか優雅さだとかは間違いなくあって、たぶんそれはとても大切なことなはずなのだ。なのに私は、いつまでも二〇歳前後ぐらい、あるいは二〇代中盤ぐらいをターゲットにした容姿を目標に、そればかりを求めて無駄な努力を重ねていた。

 余るほどあったプライベートの時間を使って。

 彼は、その同じ時間に、必死の努力をしていた。

 ある意味では、お互いに自分のことばっかり。

 でも、その努力の質と内容は、大きく違っていた。

 彼はキャリアアップのために必死に努力していた。彼の性格なら、本当に生死をかけて臨んでいたのかもしれない。

 いや、ひょっとしたら――。

 ひょっとしたら。

 彼は自分の英語力のなさを自虐的に口に出していた。もともと、その修得の必要性は認識しながら、それが簡単ではないことに悩んでいた。

 その数年後、英語が一応話せる私と付き合うことになった。彼は私と付き合ってから、より洗練されたいい感じになっていったのは確かだと思う。これは自分をヒイキ目に見すぎなのかもしれないが、私との付き合いが、彼をステップアップさせる契機になった、というのは、決して言いすぎではないと思う(決して、願望だけではないと思う……)。

 しかもその彼のプロポーズを、私は一度、断っている。

 彼は彼自身必死に、私にひけをとらないように――本当にひょっとしたら、だけれど――この私を妻に迎えるのにふさわしい男性になれるように、自分に鞭を打ち続けていたのかもしれない。

 そして一気に駆け抜けて、そして振り返った。

 そして私を、見た。

 今の私を。

 きっと。

 たぶんだけど――。

 きっとこうだろう。

 私が彼の心情を推し量れる範囲で言えば。


 錆ついて見えた――に違いない。


 最初はきっと、美しいシルバーの輝きをしていたのだろう。その美しさは、彼にとってはちょっと手が届かないかな、と思えるものだったに違いない(ちょっと願望入ってる。ごめんなさい>誰にだ!?)。

 しかし、手に入ってしまった。

 でも自分にはちょっと。

 上手く身につけられない。

 着られてしまう感じがする。

 宝石は、そこにあるだけではアクセサリーとは言えない。

 だから頑張って、シルバーの映える人間に成長しようと努力した。

 結果、十分すぎるほどに着こなせる人間に成長した。

 今や、ゴールドやプラチナといったものにまで手が届くほどに。

 ところが、その間にシルバーの方は、本当の意味でのメンテナンスを怠っていた。

 シルバーの場合、手入れをしなければ劣化するのは速い。

 しかしシルバーは、表面的に己を磨くばかりだった。

 それも、経年劣化することを認めたくない、仮に認めても少しでも抗いたい――そんな卑小な根性で、己を磨いていた。

 同じシルバーのままでも、それを鋳直すとか、そうした努力をしなかった。ゴールドやプラチナに昇華するための努力など、考えたこともなかった。

 ただただ、くすんでいく自分を認めたくないまま、数年の時を経た。

 結果が――これだ。

 オーナーは逆の意味で、シルバーの似合わない人間になったのだ。

 それをわざわざ、しかもくすんだシルバーを身につけて、自分を安く見せても仕方ない。

 ……そういうことだ。

 

 打ちのめされた。

 これ以上ないくらい。

 一時期流行った言葉でいえば、まさに「負け犬」だ。それも絵に描いたよう。

 でもそれが、現実だった。

 虚飾により彩られていただけで、勝手に高みから見下ろしているつもりになっていた、私――。

 そんな宝石、捨てる価値すら、なかったかもしれない。

 そう、思った。

 だから私は、人生における一大決心をした。

 シルバーは、自分をもう一度、鋳直すことに決めた。

 昔より輝くことはないだろうけれど。

 昔と同じ価値を得ることも、ないだろうけれど。

 それでも──。

 彼を見返してやりたい、とかではない。

 自分をもう一度仕切り直したかった。

 もう一度見つめ直し、本当の私を探してみたかった。

 そのくらい、価値観が変わった。

 そのためには、リスクを負ってでも、これまでの自分から、出来るだけ切り離しをかける必要があった。

 だから私は、会社を辞めた。

 具体的展望などなかったけれど。再就職の困難さに、不安が強くあったのは否定しない。

 一流企業に一〇年勤めて、うだつの上がらなかった三〇女を受け入れてくれる企業がどれだけあるか。

 今の自分にどれだけの価値があるか。

 不安だった。

 預貯金も、今考えると限りなく無駄の烙印を押せるようなことに給料の多くを費やしていたため、そんなに多くはなかった。

 まさに背水の陣だった。

 すごいプレッシャーだった。

 だから――だろうか。

 自信なさげに見えたのだろう。

 焦っているように見えたのだろう。

 実際に自信をあらゆる意味で失いかけていたし、焦ってもいたのだから。

 最初に受けた3社は、いずれも面接までは進んだがアウト。そこでさらに、悟らざるを得なかった。

 より謙虚に、自分を見つめ直さなければならなかった。

 それで受けた四社目。

 それが今の会社だった。

 意外なことに、面接は一回だけで終わり、即採用が決まった。

 面接自体は二五分ほど。最初の面接にしては、一般的には長くはあったのだろう。

 面接官の出入りもあった。途中、最後に参加したのは、あとで判ったことだったけれど、社長だった。そんな一気呵成の採用劇により、私の再就職は決まった。

 

 彼と別れて三か月。

 再就職に約一月半。

 そして入社して三か月。

 怒涛の七か月半だった。

 なぜだか、涙が出た。

 嬉しいのか悲しいのか。

 感激しているのか悔しいのか。

 自分でもよく解らない、複雑な涙だった。

 でも。

 こんな日があっても、たまにはいいよね?


「……あ、あの、何かあったんですか?」

 自宅近くに差し掛かったとき、一人の男性に声をかけられた。

 同世代ぐらいだろうか。すごく心配そうな、戸惑ったような表情をしている。

 そりゃそうか。

 女性が一人、夜道を泣きながら歩いているのだ。無視する方が、むしろ普通。

「いえ、大丈夫です。ちょっと、哀しいことを思い出しちゃっただけで」

 哀しい涙だったっけ? と思いつつ、無難な言葉と照れ笑い。

 ちゃんと笑えているか不安だったけれど、彼は一言、「無理しないように」と言い残し、去って行った。

 人の温かさっていいなぁ、と思った、瞬間だった。

 ……思ったのよ。

 思ったのっ!

 それがまさか、あんなことになるなんて――。


 次の日、出社してみると。

 あらあら、ピリピリピリ。

 普段多弁な田岡さんでさえも黙々と仕事をしている――いや、違った。

 仕事なんてしてない。

 集中力が感じられない。

 いつもは、しゃべりながらも仕事を着実にこなしていくのに。

 他の人たちも動きが少ない。

 何なんだ? この空気は!?

 引きずられるようにあたふたしていると、しばらくして、裕子が後ろを通りがかった。

 何かがディスプレイの前に投げられた。紙を結んだもの。手紙だ。

 ――いや、中学生じゃねえし。

 軽くツッコミを入れたおかげで少しリラックス。間を置いて、静かに開けてみる。

(現在取締役会中 みんな滝野浦取締役の動向に大注目中!)

 手紙に書かれていた文字はこれで全部。

 滝野浦さんて?――あ、そうか。

 件の彼のことか。

 この期に及んで、初めてそう思い至る。

 そういえばなんだかんだ言って、自分では公示が載っている掲示板を見ていない。それだけじゃなくて、固有名詞も聞いた覚えがない。

「ヤツ」とか「彼」とか――って、取締役!?

 そう驚いたのも束の間、一気に職場内の空気が緊張した。

 フロア内に人が降りてくる。

 轟と上野だ。

 このフロアでは最も位の高い二人。

 その後ろに、一人の影。

 ……あれ?

 あれって──。

「あー、今度のプロジェクトだけど」

 昨夜の、彼。

「滝野浦クンのチームが決まりましたんで、轟さんの方から、報告します」

「えーでは早速。主担当、成川さん。副担当小野クン、平野クン、森川さん。以上!」

 …………え?

 ……ええ?

 ――――――――。

 えええええええええーーーーっっ!!!


     * *


 採用がようやく決まり、卒業を間近に控えた頃。

 彼のお母さんが──急逝した。

 長年の過労が祟ってのものだった。

 遠い親戚の心ない一言が、彼の心を打ちのめした。

 

 子どもの就職が決まって、卒業も決まって、緊張が途切れたんじゃないか――。


「一所懸命働いてさ、毎月の給料明細みていくうちにさ、だんだん怖くなってきたんだよね。すごい給料になっていくからさ」


 訥々と語る言葉には実感がこもっていた。

 働いてでもいないと、悲しみと悔悟の念を、超えられなかったのかもしれない。

 私みたいな転職組が多い今の会社では、生え抜きはむしろ少数派。英才教育なんかがあるわけじゃなく、たまたま、転職者と同じ土俵の上で採用されただけ。


 そんな生え抜きの彼が、若くして誰もに認められるほどの人材に育つわけだが。

 それは向上心でも野心でもなくて。

 かといって哀しみでもなくて。


 たぶん本人にも解らない、様々な葛藤があったに違いない──そんなふうに推し量ることしか、私にはできない。

 いや、それさえも、おこがましい──のかもしれない。


 でも──。

 でもさ──。


     * *


【登場人物】

辻本裕子:琴乃より2つ年下の女性社員。すでに結婚6年2児の母。琴乃の入社直後の時期、総務系の仕事の先輩としていろいろとお世話になる。世代が近いこともあり、仲良くしてくれる。


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