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「なんだこりゃ、こんなに簡単に倒せて良いのか?」
蟻の首を一刀両断したクルス君は驚いた様子で俺達に問いかけた。
「蟻だからじゃないかな?オークやキングスネークと違って関節がはっきりしてるし、皮みたいに繋がってないから切りやすかったんだと思うよ。まぁ、切ったと言うか叩き切ったんだけど…」
「そうじゃな、蟻は甲殻は固いが戦い易くはあるな。それで、お主らにはこいつらで練習してもらう。」
おじいさんはこちらに近付きながらこれからの予定を話した。
「倒された蟻が他の蟻を寄せ付けるじゃろうから蟻をしまって、今のうちに付与魔法をかけておくがいい。」
なんでも蟻が仲間を呼ぶフェロモンのようなものを出し、蟻を倒すと近くにいる蟻が寄ってくるらしい。
俺はクルス君の剣に『切れ味増加』の付与魔法を、イリヤちゃんの矢と妹ちゃんの投げナイフには『貫通強化』の付与をかけてみた。
付与をかけていると蟻が近づいてくるのを各人が反応していた。
数は少ないが三方向から近づいてくるようだ。
二方向はクイーン達に足止めを頼み、俺達は順番に相手をしていく事にした。
俺達は三方向のうち一匹だけの方向に向かった。
目視で確認出来る距離まで近付いたら俺とイリヤちゃん、妹ちゃんとサクヤちゃんとおじいさんで左右に分かれた。
クルス君はこの場で待機だ。
クルス君からあまり離れすぎない位置につき、攻撃の準備をする。
矢の射程に入り、投げナイフの射程に入ったところで一斉に先制攻撃。
サクヤちゃんの風魔法、俺も風魔法を使い両側の脚を切り落とした。
次にイリヤちゃんの矢が飛んでいったのだが、矢は蟻を貫いて飛んでいってしまった。
最後に飛んでいった投げナイフは甲殻に深々と突き刺さった。
俺達は矢と投げナイフの威力に驚いていたが、まだ蟻を仕留めたわけではない。
そこにクルス君が蟻に走りより甲殻に向けて剣を振り下ろした。
すると、蟻は上半身?と下半身?にキレイに切れたのだった。
クルス君の剣は勢い余って地面に刺さっていた。
「さっきの時も驚いたけど、今回は桁が違うぞ?おい、シュウ、どうなってんだ!?」
「いや、俺にもさっぱり。おじいさん、付与魔法ってこんなに凄いの!?」
「そんなわけないじゃろ!普通なら矢が刺さるようになる。剣で甲殻に傷をつけられるようになる程度のはずじゃ。小僧、付与魔法を使うとき何かせんかったか?」
何かしたか?…あぁ!
「魔法が切れるといけないから魔力を多めに使ってみたんだ。」
「恐らくそれが原因じゃな。魔法の威力が上がったんじゃな。普通は出来んのじゃが魔力操作のおかげじゃろう」
「師匠、シュウは普通じゃないのか?」
「普通じゃないというより優秀と言った方がいいじゃろ。まぁ、まだまだ未熟じゃがな。このまま付与魔法を使っておったら戦闘の練習にならんし、何より素材が集められん」
おじいさんに聞くとソルジャーアントの甲殻は素材として売れるらしいがクルス君が真っ二つにしてしまったので、今回のは売れないだろう。
今日は魔法のコントロールを練習し、皆は素材を傷つけすぎないように練習だ。
付与魔法の効果に驚いて会話をしていたが、蟻はまだ二方向に残っているのだ。それに気付いた俺達は急いで次の蟻の所まで向かった。
そこはクイーンとミュウ達ホーンラビット二羽で押さえている場所だ。
現場に着くと、ちょうど戦闘が終わったところだった。
クイーンが蟻を背中から押さえつけ、その隙にミュウ達が首に角を突き刺し二匹の蟻を倒していた。
ホーンラビットの角も恐ろしい威力になったものだ…。
この場の蟻を回収し、とりあえずの最後の蟻まで向かった。
最後の場所では子狼達とぴーちゃんが五匹の蟻を翻弄していた。
しかし、決め手に欠けるのか倒すことは出来ていなかった。
俺達は倒すことを優先し手分けして五匹の蟻を倒しに向かった。




