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錬金術師のおばあさんに鱗を使ったアイテムの作り方を習った俺は、早速調薬組を集めて作ってみることにした。新しいポーションは特に難しい事もなく、作るときに使う水に鱗の魔力だか成分だかを抽出したものを使うだけだ。おばあさんが作っているところを見ていたが、どう見ても鱗を煮て出汁を取っているようにしか見えなかった。
そのせいか、簡単に出来ると思って挑戦したのだが、これが思った以上に難しい。
「これは……、けっこう疲れるな」
竜の鱗は当然硬くただ煮ただけでは何も変化はしない。そこに魔力を流すことで鱗の魔力だか成分だかを水に移すことが可能となる。その流す魔力の量が普通じゃなかった。危うく魔力が切れるかと思ったが周囲から魔力を吸収してなんとかなった。
「もうだめ~」
「交代するわ」
「二人同時とか駄目なのかしら?」
試しに調薬組にやらせてみたが彼女らはすぐに魔力切れになってしまった。人より魔力が多めな俺でさえ魔力を吸収しなきゃならなかったので当たり前と言えば当たり前なのだが、一人で作れないのは効率が悪すぎる。
「シュウはよく一人で出来たわね」
まぁ、俺も魔力吸収のおかげで出来たようなものだ。みんなは魔力ポーションを飲んで魔力を回復させているがポーションを作るのにポーションを飲んでいたら作る意味がない。
「そうだ、これ使ってみれば?」
そこで俺が取り出したのは以前王都で買った『魔力吸収』が付いていた武器だ。良い付与だと思うけど当然呪われていて使用者の魔力を吸い取る物だった。しかし、リンちゃんが呪いを解いてくれたおかげで周囲の魔力を吸収し、使用者の魔力を回復してくれる物になった。元々魔力量が多くない子が多いためすぐに回復するのだが、このおかげでポーションを飲み続ける事は無くなりそうだ。
ちなみにこのナイフは刃の部分から魔力を吸収するのだが、どういう原理か魔法も吸収出来た。魔法で作った火や水、岩なんかがナイフで切ると消えるのだ。一瞬「魔法に対して無敵だ!」とも思ったが、魔法を使うモンスターは少ないし、飛んでくる魔法にナイフで立ち向かうのは危険な為封印してあったものだ。
最終的にはおばあさんが売ってくれた錬金釜が思いの外高性能で風竜の素材で交換しただけの事はある活躍をしてくれた。おかげで高性能高品質のポーション作りが捗ることとなった。
「か、硬い!」
「これ、どうやって削るの!?」
「さすが竜の鱗ね」
次に挑戦したのが万能薬。本来なら毒の種類によってそれに合わせた薬が必要なのだが万能薬は毒の種類を問わず効き目があるのだ。それに専門薬に効力は及ばないが病気にも効くらしく一家に一つは欲しい品物だ。
その万能薬だが、竜の鱗を粉末にして少量混ぜる必要がある。そして、おばあさんは自分のナイフで少しずつ削って粉末を作っていた。その時は竜の鱗は硬いしあんな感じじゃないと作れないのかぁ~、なんて思っていたが普通のナイフでは傷一つ付けられなかった。そりゃそうか、竜の鱗がそんな簡単に傷つけられたら討伐するのも簡単になっちゃうよな。おそらくおばあさんの使っていたナイフも相当な業物なんだろうな。
「そうだ、おばあさんが爪を使えって言ってたな」
「爪? 爪って竜の爪の事?」
俺は『アイテムボックス』にしまってあった風竜の爪を取り出して調薬組の子に渡した。これは切れ味鋭いので取り扱い注意だ。ましてや風龍の爪なんて俺達の使っている武器より数倍はよく切れる。そう考えると確かに竜の鱗も傷つけられそうだ。
「わぁ、すごい削れるわね」
「逆に粉末にするの難しいわね」
風竜の爪は思った以上の切れ味で鱗を加工できた。もう少し鱗が硬ければ上手く粉末に出来たかも? あれかな、鱗が少し古いからかもしれないな。何はともあれこれでなんとか万能薬を作ることが出来そうだ。鱗も沢山あるし他の材料も竜の森で採れるのでなんとかなりそうだし安く売れそうで安心だ。




