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それから一ヶ月ほどすると竜の森の市場は竜の森の村になっていた。モンスターに襲われることがほとんど無いとわかると大商店などもお店を出すようになった。彼等はテントや馬車ではなく大工を呼んで小屋を作り商売を始めていた。
商業ギルドと冒険者ギルドは共同で建物を作り簡易的に手続きが出来るようになった。これには新人冒険者が喜んでいた。ベテラン冒険者的にはあまり旨味は無いかもだけど、情報収集の点では出来て良かったみたいだ。
大商店やギルドが出店すると彼等が主導して柵を作り始めた。今までモンスターに襲われなかったといっても竜の森のすぐ側なのでいつ襲われてもおかしくないからね。といっても本格的な物は手間もお金もかかるし気休め程度なんだけど、無いよりはましだよね。
こうやって集まりがでかくなると必要になってくるのが代表だ。集落や村ならば長老や村長のような存在が必要になる。一応ギルドが中心になって柵作りは進んだが、彼等は補助組織みたいなものなので代表にはならないだろう。かといって大商店が代表になると今まで店を出していた若手商人達が嫌がるだろう。
「というわけで、ここの代表をしてくれないだろうか?」
場所はうちの休憩所。うちも早いうちから大工組が張り切って販売所に食事処とここで一番立派な建物を作っていたりする。なのでちょっとした集まりのときにはうちが集会所代わりになっていた。
「でも、なんでうちに?」
対応しているのは商人組の子。ここにいるのは商業ギルド、冒険者ギルドの人に大商店の人に冒険者が数人、最初の頃から店を出していた人が数人だ。うちは商人組の子だけの予定がなぜか俺も連れてこられていた。
「まぁ、最初にお店を出していたからかな。他の人だと色々都合が悪くてね、君たちなら皆納得してくれるんだよ」
あぁ、若手が代表になると大商店からの圧力があって大商店の誰かがやると若手が「後から来たくせに」とかいうのかな?
うちはギルドには入ってるけど一般のお店とは違ってほぼ独立してるから大丈夫なのかな。うちは商人に売ることはあっても買うことは少ないからな。ただ、代表になっても若い子ばっかりだから難しいと思うんだけどなぁ。
「もちろん我々ギルドも手伝うしここに来てもらった商人や冒険者にも手伝ってもらうつもりだから負担はそんなにないはずだ」
ということは実際働くのは大人達って事か。ならうちが代表になる必要がない気もするが、それが出来ないからうちに来たんだろう。
「あとは恥ずかしい話なのだが君たちの従魔にも期待しているのだよ」
確かにいつの間にか狼達がここを交代で警備し始めていたりする。たまに獲物を咥えたままやって来てまわりの人間を驚かせていて何度か謝る羽目になったりしていた。それを見て防衛力として従魔の力を借りようというのだろう。冒険者の力を借りるとお金がかかるからね……。いや、うちの従魔達の力をただで借りようとするのはどうなんだ? とは思ったが、どうやら定期的に狩りをしてくれれば問題ないとのこと。それなら問題ないかな?
「もちろん何かあったときに君たちに責任を取ってもらうなんて事もないようにする。どうだろうか?」
ん~、これは代表というか会議の議長ってかんじなのかな? 面倒がなければやっても良いんだけどね。
その後、孤児院で話し合ったら院長先生が代表になってくれることになった。ギルドの人や大商店の人達は院長先生の突然の登場に驚いたが、院長先生なら安心だと喜んでくれた。そのうちこの場所も孤児院村とか呼ばれたりして。




